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2022年のサッカーワールドカップは、11月20日の開催前から多くの論争を招いている。
世界各地でボイコットを求める声が上がる中、歌手のロッド・スチュワート氏は「100万ドル(約1億4000万円)をオファーされたが出演を断った」とイギリスのタイムズ紙に語った。
さらにカタールが選ばれた2010年にFIFA会長だったジョセフ・ゼップ・ブラッター氏は11月8日、開催権を与えたのは「間違いだった」と発言した。
これほどまで批判や論争を起こしているのは、カタールで起きている人権侵害だ。どんな問題があるのか。
強い批判を受けている問題の一つが、性的マイノリティに対する人権侵害だ。
カタールでは同性愛や同性間の性行為が法律で禁じられており、違反すれば最長7年の禁錮刑になる可能性がある。
また、一般の法律に加えて、イスラム教のシャリーア(コーランに基づく法制度) も男性同士の性行為を禁止しており、死刑も定めている。
LGBTQ+の人権団体ヒューマン・ディグニティ・トラストによると、近年は実際にそういった刑が実行されることはほとんどないものの、性的マイノリティに対する差別や暴力が報告されている。
また、被害者は性的指向や性自認を明かすことができないため、表面化するのはほんの一部だという。
ヒューマン・ライツ・ウォッチも、カタールの公安機関によってLGBTQ+の人たちが身柄を拘束され、虐待されていると伝えている。
性的マイノリティが犯罪とされるカタールでは、ワールドカップ観戦で訪れた旅行者が同性愛者の権利を主張した場合に、安全が脅かされる可能性もある。
ワールドカップ会場建設などに従事する、外国人労働者の人権侵害も深刻な問題だ。
ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、カタールでは労働人口の大半を外国人占めており、給与の支払い遅れや違法な低賃金での労働を強いられている。
雇用主の許可なしに仕事を辞められない労働者もいるほか、ストライキを含む労働者の権利の多くが禁止されているという。
またガーディアンは2021年、ワールドカップ開催が決定して以来、カタールでは6500人もの外国労働者が死亡していると報じた。
カタール政府は、この報道を「誤解を招く」と批判し、ワールドカップに関連した死者数はもっと少ないと反論したが、国際労働機関は2021年、死亡や負傷した労働者数は、カタールの主張より多いと報告した。
タイム誌も2022年11月、ワールドカップのスタジアム建設工事に携わっていた数千人の移民労働者が、猛暑で死亡したと報じている。
カタールでは、女性の権利や自由が大きく制限されている。
女性たちは、男性の後見人からの許可なしに結婚や留学、海外旅行、政府機関での勤務ができず、一部のイベントやアルコールを提供するバーへの立ち入りが禁止されている。
また、「正当」な理由なしに夫とのセックスを拒否した場合は、夫から経済的支援が打ち切られることすらある。
さらに、婚外セックスは犯罪とされ、最長7年の懲役や、むち打ちの刑になる可能性があるが、妊娠が証拠となって女性が罰せられる方が圧倒的に多い。
それだけではない。女性がレイプの被害にあっても、加害者側が「同意の上だった」と主張すれば、女性の方が起訴される可能性がある。
カタールでは2021年に初の国政選挙があったが、事前に、原国籍がカタール、もしくは祖父がカタール生まれであることを証明できる人だけに選挙権を認めるという法律が作られた。
法律は、帰化した市民には投票や立候補の権利を認めず、選挙に参加する機会を得られなかった市民は何千人も上る。
これに対して、要件を満たしていない部族など、カタール国内から不満の声があがったが、当局はデモ参加者を逮捕するなどして対応した。
こういった人権問題、そして抗議の声をFIFAはどう捉えているのか。
FIFAは書簡の中で、サッカーと政治は切り離すべきだと考えを示している。
ロイターなどによると、FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長とファトマ・サモウラ事務局長は、ワールドカップ開催を目前にして、出場32チーム宛に連盟の書簡を送付。
その中で選手たちに「サッカーに集中しよう!」と呼びかけ「すべてのイデオロギーや政治闘争に巻き込まれないようにしてほしい」と訴えた。
インファンティーノ氏らは「ワールドカップはすべての人を歓迎する場所であり、サッカーを通して世界を一つにしよう」ともつづっている。
これに対し、より人権擁護の姿勢を見せているのがヨーロッパサッカー連盟だ。
イングランドやドイツ、デンマークなど同連盟に所属する10カ国は11月6日、カタールの労働者の権利保護と、外国人労働者や家族のための補償基金の立ち上げをFIFAに求める声明を発表した。
その中で「我々は、どの国にも問題や課題があると認識しており、多様性は強みだというFIFAの考えに同意します。しかし、多様性や寛容さを認めるとは、人権を支持することです。人権は普遍的なものであり、すべての場所で守られるべきです」と強調している。
さらにフランスでは、パリを含む複数の自治体が、カタール開催に抗議して、ワールドカップのファンゾーンや大型画面の設置をしないと発表した。
その一つ、ストラスブールのジャンヌ・バルセギアン市長は「欧州人権裁判所のあるこの街で、人権が軽んじられることに目をつぶることはできない」と20ミニュッツに語っている。
また、イギリスのキア・スターマー労働党党首は「イングランドが決勝まで進んだ場合にカタールに行くか」と問われ「行きません。人権問題を考えるとそれはできない」と答えた。
こういった批判について、カタールのムハンマド・ビン・アブドルラフマン・アール・サーニー外務大臣はスカイニュースのインタビューで「傲慢だ」と反論。「誤った情報」を広めていると主張した。
そして、誰もが自由にワールドカップに参加できるものの「訪問者は私たちの法律を尊重するべきだ」と語った。
さらに、記者から「2人の男性が手をつないだらどうなるか」と問われると「法律は、男性であろうと、男性同士であろうと、男性と女性であろうと、公共の場で愛情表現を許可していません。それが我々の法律です」と述べた。
その一方で「私が知る限り、手をつないでいることは公の場での愛情表現ではありません」とも述べている。
また、元カタール代表のサッカー選手で、ワールドカップのアンバサダーを務めるハリド・サルマン氏は11月、ドイツ公共放送ZDFのインタビューで、同性愛はイスラム教の戒律で禁じられており「精神の傷だ」と発言した。
ハフポストUK版の記事を翻訳・編集・加筆しました。
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カタール・ワールドカップ、なぜ批判されているのか? 懸念される人権問題を解説