ふだん何気なく口にしているスナックやチョコレート。子どもの頃から親しんでいるパッケージにいるキャラクターの性別や性格について、考えたことはありますか? 漫画家の瀧波ユカリさんが「お菓子のキャラクターとジェンダー」について独自の調査を進めています。
瀧波さんは、ゲスト出演している「ポリタスTV」で2022年8月26日、お菓子のキャラクターについて問題提起しました。
「子どもの頃から気になっていたんですが、お菓子についているキャラクターって、なぜか男の子ばかりなんです」
例えば、「チョコボール」のメインキャラクターの「キョロちゃん」も、「コアラのマーチ」の「マーチくん」も、「ベビースターラーメン」の「ホシオくん」も、男の子という設定です。
駄菓子には「◯◯太郎」といった、男の子の名前を想起させるものも多くあります。
「チョコボール」の公式サイトによると、キョロちゃんは1967年に初登場。「ピーナツキョロちゃん」と「キャラメルキョロちゃん」は5歳の男の子、「いちごキョロちゃん」は5歳の女の子と設定されています。
「コアラのマーチ」の公式サイトによると、「マーチくん」は推定9歳の男の子で、将来の夢は「木のお医者さん」。ガールフレンドの「ワルツちゃん」は同い年の女の子で、将来の夢は「パティシエか、お城の女主人」となっています。
「ベビースターラーメン」の公式サイトによると、「ホシオくん」は2017年、約4万7000件の一般公募の中から選ばれました。「ちょっとお調子者だけどどこか憎めない、元気な男の子」「日本生まれのスーパースター」と紹介されています。
瀧波さんは、20種類以上のお菓子のキャラクターを調べ、こう分析しています。
「メインのキャラクターの性別が決まっている場合は、ほとんどが男の子の設定でした。女の子は、メインキャラとほぼ同じビジュアルでリボンか花をつけていて、いちご味を担当しがちです」
「『カラムーチョ』や『ぽたぽた焼』は、おばあちゃんのキャラクターです。もちろん女の子キャラもいるのですが特例的で、圧倒的に男の子キャラが多いのです」
また、キャラクターの家族構成についても気づいた点があるといいます。
メインキャラの男の子の家族が登場する場合、ネクタイをつけたお父さん、エプロンをつけたお母さん、リボンか花をつけた妹、というビジュアルが定番化しているのです。
「女の子は、メインキャラの妹またはガールフレンドという設定が多く、姉であるケースは見当たりませんでした」
瀧波さんによるまとめ(抜粋)
・男女の子ども両方を対象にしたお菓子で、女の子をメインキャラにしたものはほとんどない。
・メインキャラにリボンかお花をつけただけの女の子キャラを添えがち。もしくはいちご味担当。
・女の子キャラの趣味や特技は料理、おしゃれ、占いに設定されがち。
・見た目で性別がわからないキャラは調べるとほぼ男の子。
・家族の設定を作ると、ネクタイをつけたパパ、エプロンのママ、リボンをつけた妹と、メインの男の子の家族になりがち。
番組のコメント欄では「意識したことがなかった」という声や、このような指摘が上がっていました。
「女の子にはリボンをつけて、名前を◯◯美、◯◯子にするのもテンプレート」
「キャラを設定した人たちのジェンダーバランスはどうだったんだろう」
「そもそもキャラに性別を設定する必要はないのでは」
番組のMCをつとめるジャーナリストの津田大介さんは、こう指摘しています。
「メーカーが企業文化としてジェンダー平等を意識しているかどうかが、キャラクター設定のプロセスにもつながっている可能性があるのでは。特に、家族のあり方を誰がどう決め、それが社会にどのように広まっていくのかという点では、お菓子キャラクターの影響力は大きいと感じます」
女の子も男の子もお菓子を食べるのに、なぜメインキャラは男の子に設定されがちなのでしょうか。
瀧波さんは、「おもちゃと同じように、女の子のキャラがついたお菓子を男の子が手にとりづらいという理由もあるのではないでしょうか」と話します。
おもちゃについては、女の子が男の子向けとされるおもちゃで遊ぶより、男の子が女の子遊びとされるものに手を出すハードルのほうが高い傾向があるとして、デザインやパッケージの色で試行錯誤をしているメーカーもあります。日本玩具協会は2021年、「日本おもちゃ大賞」で「ボーイズトイ / ガールズトイ部門」を廃止するなど、おもちゃ業界ではジェンダーフリーが進んでいます。
「お菓子のキャラクターを女の子に変えるべきだといいたいわけではありません。身近なお菓子に目を向けて、どうして男の子キャラが多いんだろう、なぜステレオタイプの家族像のままなんだろう、子どもたちはどう感じるんだろう、と意識するきっかけにしてほしいんです」(瀧波さん)
キャラクターのジェンダーについて、メーカーはどう考えているのでしょうか。
米菓「ばかうけ」のキャラクターである「バリン」と「ボリン」は、1998年に生まれました。公式サイトには「バリン」は「メス?」、「ボリン」は「オス?」と表記されています。性格は、バリンは「強くてたくましく、みんなのリーダー的存在。面倒見が良く、落ち着いている」。ボリンは「明るい性格で、ジメジメした話が嫌い。やさしくて、マイペースでドジ」とあります。
「男性はたくましく、女性はやさしいという、従来のステレオタイプではない設定がされています」と瀧波さん。
製造元の栗山米菓に聞くと、「バリン」は女の子、「ボリン」は男の子という設定だそうです。人間ではないため、男女、オスメスという表現にはしなかったということです。
「性格については、しっかりものの『バリン』とちょっと頼りないけど憎めない『ボリン』という設定にしております。これがステレオタイプにとらわれていないかどうかは正直分かりかねますが、そのように見ていただけるのはありがたいことです」(マーケティング部)
キャラクター設定の工夫についてはこのようにコメントしています。
「そのお菓子、商品を通してお客様に何をお届けしたいかが大切で、そのメッセンジャーがキャラクターという認識でおります。その上で、ブランドや商品のコンセプトをお客様に伝えるのにふさわしいキャラクター設定や、より親しみやすさを感じていただけるよう工夫しています」(同)
また、瀧波さんの調査では、性別がわかるような情報が見当たらないキャラクターもいました。
1979年に発売された「ヤンヤンつけぼー」のキャラクターはパンダですが、公式サイトには名前や性別、性格などキャラクターのプロフィールの記載がありません。
「トッポ」のキャラクターの「ノッポトッポちゃん」は、複数のビジュアルのキャラクターがいるものの、名前は「ノッポトッポちゃん」のみで性別も年齢も不詳です。
トッポの製造元のロッテによると、「ノッポトッポちゃん」は1997年に誕生。メインターゲットである女子中高生とその母親たちに好感がもたれることを意識しつつも、小さな子どもから大人まで幅広い層に愛されるキャラクター設定やビジュアルを意識したといいます。
「トッポブランドをさらに盛り上げ、トッポの存在価値・ブランドの世界観(やっぱ、これだね〜♪)を広めることを目的につくったため、キャラクターデザインにおいては、トッポの世界観をシンプルに可視化することが重要と考えました。主張が強かったりイメージと乖離があったりするのではなく、一目見てトッポだとわかる形やデザインにしました」(広報)
栗山米菓もロッテも、キャラクターの役割は「お菓子の『おいしさ』や『楽しさ』を届けること」だといいます。
瀧波さんは、キャラクター設定についてこう話します。
「もともとジェンダーの規定のないキャラクターだったのに、親しみをもってもらおうとプロフィールを設定したり家族をつくったりする過程で、ステレオタイプな発信があとから生まれてしまうケースもあるのかもしれません。偏りが生まれたら気づき、なぜそうなるのかを検証したり議論したりすることにつながっていけばいいなと思います」
(文:小林明子)
(2022年10月11日のOTEMOTO掲載記事「コアラのマーチ、ハッピーターン、チョコボール… 大好きなあのお菓子キャラクター、実は性別があった」より転載)
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
コアラのマーチ、ハッピーターン、チョコボール… 大好きなあのお菓子キャラクター、実は性別があった