戦後の復興を妨げる「地雷・不発弾」終わらない犠牲。シリアでウクライナで今起きていること

人々に無差別に危害を与える地雷や不発弾。

2020年には世界の54の国や地域で約7000人がその被害にあったと報告されています。さらに、新しい地雷や不発弾は今も増え続けており、戦火が続くウクライナではすでに国土の約3分の1が地雷や不発弾によって汚染されたことが報じられています。

一方で、地雷や不発弾による被害は、戦争が終わってから発生することが多く、それゆえに国際社会から忘れ去られがちな問題でもあります。

パレスチナ、アフガニスタン、シリア──。戦争の様子が毎日のように報道されなくなっても、地雷や不発弾は市民の命や日常生活を脅かし続けているのです。

戦争が起きている今だからこそ知っておきたい、世界の地雷や不発弾をめぐる状況とは。10月上旬に来日した国連地雷対策サービス部(UNMAS)のアイリーン・コーン部長に話を聞きました。

国連地雷対策サービス部(UNMAS)のアイリーン・コーン部長

安く簡単に使われる一方で、除去には何十年もかかる

── 戦争報道でも、地雷や不発弾の被害はあまり大きく報じられることがありません

地雷や不発弾がもたらす被害は戦争が終わってからも長期的に続いていく、ということを国際社会にもっと広く知ってもらいたいと思います。

地雷や不発弾の一般市民への被害が発生するのは、実は、停戦や和平合意がされて、避難民が元の暮らしに戻ってからです。家畜の放牧や農作業の最中に踏んでしまったり、子どもがおもちゃと間違えて拾ってしまったりして被害に遭ってしまうケースが多い。

さらに、こうした兵器は、安く簡単に作られ使われる一方で、除去には何十年という時間と莫大なコストがかかります。そのため、非常に長きに渡って、地域コミュニティの復興に影を落とし続けるのです。

地雷・不発弾除去の様子=2021年, 南北スーダンの係争地アビエイ地区

── 死傷者をもたらすだけではなく、復興にも大きな影響を与えるのですね

最近、過激派組織「イスラム国」に占領されていたイラク第2の都市・モスルを訪れたのですが、そこでは病院に仕掛けられた何千もの仕掛け爆弾を除去する地道な活動が続けられていました。街のインフラや公共施設の地雷・不発弾の除去なしに、避難民の帰還や生活の再建は始められません。

今年春に訪れたパレスチナ自治区ガザ地区では、イスラエル軍の空爆によって市街地の地中深くに埋まってしまった不発弾の除去が進められています。しかし、除去のためには周辺の広い地域を長期間立ち入り制限しなければならず、域内に家や仕事場がある人々は生活が立ち行かなくなるという深刻な影響が出ています。

こうした事例からも、地雷や不発弾の存在がいかに復興の妨げとなっていて、その除去活動も人々の生活に大きな支障をきたすものかが分かると思います。

空爆によって破壊された建物=パレスチナ自治区ガザ地区、2022年8月

シリアでの被害が全体の4割。何が起きている?

── 2020年には7073人が地雷・不発弾で死傷したと報告されていますが、そのうち2729人、約4割がシリアにおける被害です。シリアでは内戦が勃発して今年で11年となります。なぜ大きな被害が出ているのでしょうか

UNMASもシリアで活動をしていますが、シリア政府の許可を得ることが難しく、地雷や不発弾の汚染状況を把握するための現地調査すら進んでいないという実情があります。そんななか、除去のためのパイロットプロジェクトを何とか立ち上げましたが、政府から活動許可を得られた団体が一つしかなく、その団体のキャパシティ自体も限られているため、除去が追いついていないのです。

── 戦争が続くウクライナの状況も気になります

UNMASはウクライナで活動はしていませんが、様々な報道やレポートを見れば、除去に何十年も費やさなければならないほどの相当な汚染が進んでいることは間違いありません。

現在、少なくともロシアが対人地雷を使っているというレポートがあり、対車地雷や対戦闘車地雷については双方の陣営が使用しているとされています。不発弾も相当残っているでしょう。

アメリカが8月、ウクライナの地雷・不発弾除去を支援する8900万ドル相当の援助プログラムを承認しましたが、実際ははるかに多くの資金が必要になってくると考えています。

ロシア軍が撤退したハルキウ州イジュムで、地雷除去が行われる様子=2022年9月28日

新たな脅威「IED」

── 近年では、通称IEDと呼ばれる簡易爆発装置(Improvised Explosive Device)の増加が大きな問題になっているそうですね

IEDは過去20年で非常に大きな脅威になってきています。スマートフォンなどを用いてリモートで爆発するもの、車両などが通った時に振動を感知して爆発するものなど、その種類も様々です。

特徴は、材料に農業用肥料など身近に入手できるものが使われるなど、簡単に製造でき、仕掛けられることです。そして、その大半が、イスラム国やボコ・ハラムなど非国家の武装組織によって製造・使用されています。さらに、私たちの分析では、IEDの作り方や戦術がこうした組織から組織へと伝播していっていることが分かっています。

IEDの最大の問題は、非国家組織が使用の主体となっているため、国を対象とした条約などの枠組みが効力を発揮しにくいことです。

国際社会にできるのは、IEDによって被害を受けている国々に対して、非国家組織の取り締まり能力の強化の支援をしていくことです。同時に、IEDの情報収集・分析能力強化や除去などの対策支援、IEDになりうる材料の流通・販売などの管理能力の強化を通してIEDの製造・使用を難しくするなどの支援もしていく必要があります。

日本政府の支援で、地雷の回避教育が行われる様子=2021年、ナイジェリア

2025年までに「地雷のない世界」を目指しているが…

── 地雷や不発弾の除去は重要ですが、こうした兵器がそもそも使われないように軍縮を進めていくことが重要です。世界164の国が批准する対人地雷禁止条約では「2025年までに地雷のない世界を実現させる」という目標を掲げていますが、進捗はいかがでしょうか

UNMASは現在、22の地域で活動を展開していますが、これはUNMASの25年間の歴史で最多となります。残念ですが、それほど求められている状況があるということでしょう。アフガニスタンのように、除去が順調に進んでいたのにも関わらず、(タリバンの復権で)再び汚染が進んでしまった国もあります。

UNMASとしては、活動地域のうち条約に加盟していないシリアとリビアに加盟を呼びかけていくほか、加盟国が目標を達成できるようにサポートしていきます。また、2025年までの達成が間に合わない国には実施計画の見直しについても援助していきます。

目標の実現に向けて最も重要なのは、資金だと考えています。そのためには、各国政府に対して、地雷除去の重要性を、人道的な側面からだけではなく開発という側面からも理解してもらい、資金を拠出してもらうことが必要だと考えています。

── 対人地雷禁止条約は、アメリカやロシアなどの大国は批准していません

もちろん、条約の普遍化は重要です。一方で、アメリカは地雷対策の一番の貢献国であり、バイデン政権は6月、対人地雷の使用を容認してきたトランプ政権の方針を変更し、再び使用制限に踏み切りました。ロシアも我々のシリアでの地雷対策に資金を拠出しています。

UNMASとしては、国連加盟国の主権と優先事項に従いつつ、加盟国に対して、条約への参加、地雷や不発弾の問題とは切っても切り離せない国際人道法と国際人権法の遵守を呼びかけ続けていきます。

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戦後の復興を妨げる「地雷・不発弾」終わらない犠牲。シリアでウクライナで今起きていること

Haruka Yoshida