私の東京の実家に、警視庁の捜査員が来た。残された封書には「殺人放火事件の関係で」の文字。帰宅した母が恐る恐る電話すると、22年前の未解決事件の捜査だった。被害女性が私と同じ大学で、当時の在学生を片っ端から訪ねているという
▼どう調べたのか、捜査員は「息子さんは沖縄ですよね。遠いのでお母さんのDNA型を採取させてください」と持ち掛けた。母が断ると、「息子さんが(リストから)消せない」と揺さぶった
▼警察は容疑者などのDNA型をデータベースに蓄積し、捜査に使っている。私が採取に応じたら登録するのか。電話で直接尋ねると、捜査員は「しない」と即答した。では書面で明示を、と求めると「できない」という
▼「私が捜査員だったら登録する」と話すのは北海道警の元幹部で「警察捜査の正体」などの著書がある原田宏二さん。母への採取依頼には「恐ろしい話。どこかで歯止めが必要だ」と驚いた
▼写真や指紋の採取には法の定めがある。DNA型は新しい手法で、「究極の個人情報」なのにそれがない。外部から運用を点検するすべもない
▼捜査員によると「断るのは百人に一人」だという。自らが無関係と証明し、捜査の進展に協力したいということだろう。私も気持ちは変わらない。ただ、何でも無条件に差し出すことに抵抗がある。(阿部岳)
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