食品廃棄物で作った「食器」がお米に生まれ変わる。丸紅が開発した究極の“循環型食器”とは

丸紅が開発した循環型食器「エディッシュ」

一見すると、何の変哲もない使い捨て食器。

しかし実は、環境負荷の低い「何度でも生まれ変わる」食器として注目を集めています。

その秘密は…

原料は、捨てられるはずだった“カカオ豆の皮”や“ジュースの搾りかす”

循環型食器 回収中──。

2021年6月、サッカーJ2・いわてグルージャ盛岡の試合当日、こんな看板を掲げたブースが「いわぎんスタジアム」(盛岡市)の外に設置されました。

回収していたのは、スタジアム周辺の出店で提供された食べ物が入っていた容器です。

「Edish(エディッシュ)」と名付けられたこの容器。実は、使用後はごみになるのではなく、食べ残しなどと一緒に粉砕・乾燥させたのち、肥料や飼料に再生できるのが特徴です。

秘密はその原料にあります。使われるのは、チョコレートを作るときに取り除かれるカカオ豆の皮や使用済みの茶葉、ジュースの搾りかす。いずれも、食品メーカーなどが商品を製造する過程で生じた食品廃棄物なのです。

環境負荷の観点から、食品ロスやごみ、そして包装・容器に使われる使い捨てプラスチックの削減が求められる昨今、エディッシュはこうした問題を同時に解決するアイテムとして期待されています。

スタジアムにはエディッシュ専用の回収BOXが設置されている

お皿が“お米”に?

いわてグルージャ盛岡がエディッシュを導入したのも、ごみへの問題意識からでした。

クラブでは、集客や地域の食の魅力を発信するため、ホーム戦で提供する飲食に力を入れてきました。一方、増えたのが、使い捨て容器やカトラリーなどのごみ。毎試合で出るごみは軽トラック約4台分にも及んだといいます。

クラブとしてSDGsの推進に力を入れていたこともあり、「何か対策をしないと」という危機感が募っていた矢先、担当者がSDGsに関するイベントで知ったのがエディッシュでした。

約10の出店に、従来のプラスチックや紙容器の一部をエディッシュに置き換えてもらい、使用済みの容器を専用のボックスで回収。地元の畜産業者の協力を得て、牛の糞尿と混ぜて堆肥化することにしました。

粉砕・乾燥させ、堆肥化されるエディッシュ

この結果、ごみの量は以前の約3分の1に減少。さらに、堆肥化されたエディッシュは地域社会で「循環の輪」を生んでいるといいます。

できた肥料は、クラブが後継者不足などで苦しむ地元農家を応援するために始めた米作りのプロジェクトの田んぼで活用。収穫したお米は、地域の子ども食堂に寄付をしたり、ふるさと納税の返礼品に活用したりしているのです。

「スタジアムに来るサポーターが、エディッシュを使用したスタジアムグルメの購入をすることで、試合だけではなく、地域も応援できる仕組みを作ることができました。このモデルを他のチームなどにもどんどん横パスしていきたいです」(いわてグルージャ盛岡でSDGsの取り組みを推進する福田一臣さん)

子ども食堂で振る舞われたお弁当。写真の白米は、エディッシュを活用した肥料をまいた田んぼで生産された。お弁当の容器にもエディッシュを使用している

丸紅の社内ビジネスコンテストで入賞

食品廃棄物から作られた食器が、新たな食を育む──。捨てられるはずのものに新たな価値を与える「アップサイクル」がかけ合わさった究極の循環を実現するアイデアはどのように生まれたのでしょうか。

きっかけは、大手商社・丸紅が2020年に社内で実施したビジネスプランコンテスト。そこで、事業化への挑戦権を獲得したのがエディッシュでした。

応募したのは、簗瀬啓太(やなせ・けいた)さん。2017年に食品包装のプラスチックなどを扱う化学品部門から、現在の紙素材を扱うパルプ部に異動したことが転機になりました。

営業先でたまたま出会ったのが、植物繊維を材料として成形品を作る「パルプモールド」と呼ばれる技術。

「プラスチックじゃないと自由な成形はできないと思っていたけれど、植物性素材でも可能な技術があるんだ」。

そんな衝撃を受けたと同時に「プラスチックは燃やさない限り、100年、200年経っても分解されず自然界に残り続ける。変えられるものは、生物由来の素材にどんどん変えていった方が良いんじゃないか」という思いが強くなったといいます。

そんな矢先、ある食品メーカーから「食品廃棄物を有効利用する方法はないか」という相談を持ちかけられます。

そこで浮かんだのが「食品廃棄物とパルプモールドの技術を掛け合わせて食器を作る」というアイデア。ただ、たとえ食品廃棄物を使っても、ごみとして燃やされれば結局はCO2が排出されてしまいます。

ならば、ごみにせず、循環させる方法はないかーー。

こうして辿り着いたのが、循環型食器のアイデアでした。

エディッシュ

最大の壁は「回収・堆肥化」

今後の広がりが期待されるエディッシュですが、そのためには乗り越えなければならない課題もあります。

1つはコスト。現在、平皿の販売価格は1枚50円で、一般の使い捨て容器に比べるとかなり割高です。ただ、この課題に関しては、需要が増え、大量生産に向けての設備が整えば、コストダウンの道筋も見えてくるといいます。

最大の壁は、何といっても「回収・堆肥化の難しさ」です。一般家庭や小売店などに利用が広がっても、使用後にごみとして廃棄されてしまうと、廃棄物処理法などの規制から、エディッシュだけを個別に回収することが難しくなってしまうのです。一方で、コンポストなど堆肥化するための設備は社会にほとんど浸透していないのが現状です。

しかし、簗瀬さんは「販路拡大のパターンは徐々に見えてきている」と話します。たとえば、テーマパークやイベント、大学などは使用済み容器の回収がしやすいといいます。堆肥化は、敷地内に装置を設置したり、食品リサイクル業者などに委託したりすることで実現できることも見えてきました。

「まずは、小さな循環の輪をいろんなところで作っていくことが重要。そこから社会全体に広げていく道を探っていきたいです」(簗瀬さん)

レジ袋の有料化、カフェチェーンでの紙ストローの導入、マイボトルの浸透ーー。近年、地球環境への影響から、使い捨てのものを中心にプラスチック削減の動きが社会全体で進んでいます。

しかし、身の回りに目を向ければ、あちらもこちらもプラスチックだらけ。生活の隅々にまで浸透し、便利なプラスチックを手放す未来なんて「正直とても想像できない」「言うは易し行うは難し」と感じる人も多いのではないでしょうか。

私たちは「脱・プラ依存」の先にどんな社会を描けばいいのか、そうした社会をどうしたら本当に実現できるのかーー。

9月に配信したハフライブ「プラスチックと社会のアタラシイ付き合い方」で話し合いました。

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食品廃棄物で作った「食器」がお米に生まれ変わる。丸紅が開発した究極の“循環型食器”とは

Haruka Yoshida