BTSが発信する「自分を愛すること」「自分を知ること」の意味とは? 韓国の話題書から読み解く

2021年、American Music Awardsでthe Artist of the Yearを受賞し、スピーチするBTS

自分を愛することの大切さや、自分を知ることの難しさ。    

韓国・釜山で開催されるコンサートを目前に控えたBTS。今や世界が注目するアーティストである彼らは、楽曲における歌詞やステージ上でのパフォーマンスだけでなく、時にその振る舞いでさまざまなメッセージを発信してきました。

なかでも、大きな反響を呼んだのは2018年にBTSのリーダー・RMが国連総会で行ったスピーチ。自身の生い立ちを語り、「失敗やミスは僕自身であり、人生という星座を形作る最も輝く星たちなのです」と、失敗もまた人生の一部であると、若者に自分を愛することを呼びかけました。

彼らが発するそうしたメッセージを、いま私たちが直面する社会的問題を踏まえ、ニーチェ、ヘーゲル、ハイデッガーといった哲学者の思想と照らし合わせながら紐解いていく『BTSを哲学する』(かんき出版/チャ・ミンジュ著、桑畑優香訳)。 

韓国の主要書店でベストセラー1位を記録した話題書から、BTSが国連スピーチ以前より発信し続けている「自分を愛する」というメッセージについて、ニーチェの言葉をひきながら紹介します。 

2018年、アルバム『LOVE YOURSELF: Tear』のリリース会見に出席するBTS

Love yourself

Reflection

『WINGS』(2016)

Reflectionという曲名は、心に映った自分の姿を意味しているようだ。

自分の人生を映画にたとえ、良い作品にしたい、

自分自身を愛したい、癒やしてあげたい、

自らを客観視することで、自己愛を高めたいと歌う。

自分を愛すること。それは、自分を憎まないことから始めなければならないというほうが適切だろうか。

マスメディアがつくり出した「愛される人」の固定観念に接して育った若者たちは、自分の容姿や成功を、他人の視線を通して確認しようとする。

「土のスプーン」や「ゴミ」のように、家庭環境などを理由にしたネガティブなレッテルを自分に貼ったりする。自己嫌悪ほど大きな呪いがあるだろうか。(※1)

BTSのように成功した有名人でも自分にたいするネガティブな気持ちが芽生えることがあり、それを乗り越えるために自分自身を愛する努力をする。「Reflection」というRMのモノローグは、多くの人々に共感と癒やし、勇気を与える。

アメリカの作家アンネリ・ルーファスは、自分を好きになれる居場所を見つけることが、自らを愛する第一歩だと語った。(※2)

BTS も同じように、自分のことが嫌になったときは、心を癒やす場所の存在が大事だと伝えている。

RMは2017 年にビルボード・ミュージック・アワードでトップ・ソーシャル・アーティスト賞を受賞したとき、こう言った。

「Love myself , Love yourself」

その意味をたずねる記者の質問に、こう答えた。

「これは僕を一番支えてくれる言葉で、必ず皆さんにも伝えたいです。自分を愛し、他人を愛することの意味を、もう一度考えてみていただければと思います」

1. わたしは自分を愛している! 君も自分を愛している!(断絶した関係)
2. わたしは自分を愛するから、君も自分を愛しなさい(条件)
3. わたしは自分を愛せるようになった。だから、君が自分を愛せるように手を差し伸べる(因果関係)

BTSがこれまで発してきたメッセージから推測すると、彼らが意図しているのは上記のうち3つめではないだろうか。

自分を愛する人だけが、他人を愛することができる。他者を愛するために自分を愛するわけではない。だが、自分を愛せるようになり自立してこそ、他人も自らを愛せるようにサポートできるのだろう。

ニーチェは「人間は自立して二本足で勇敢に立ってこそ、愛する能力をもつことができる」と言った。また、「ゆえにわれわれは他者が自分自身を愛せるようにすべきだ」と、自分を愛せるようになった後には、自己嫌悪に陥っている他者が自らを愛せるように手を差し伸べなければならないと語った。

ノブレス・オブリージュのように高い自尊感情をもつ人は、周りの人をサポートする情熱が生まれる。知恵と愛を分かち合う。それがまさに哲学者の仕事だろう。

BTSはLove Yourselfというメッセージを通じてユーバーメンシュ(超人※)・オブリージュを実践しようとしているのだ。わたしたちが自分を愛するようにサポートし合い、知恵と愛を分かち合えるように。

※ ニーチェが提唱した概念のひとつ。

自分はつまらない人間だと卑下するな。

そういう態度は行動と思考をがんじがらめにする。

すべて、まず自分自身を愛することから始めよ。

人生でまだ何も成し遂げられなかったとしても、

自分を常に尊い人間として愛し、尊敬するのだ。

自らを愛せば、悪事を犯すことは決してなく、誰からも非難されることもない。

未来を夢見るためには、

このような姿勢がもっともパワフルに作用するという事実を絶対に忘れるな。 

ニーチェ『この人を見よ』

Know yourself

BTS Cypher4

『WINGS』(2016)  

自分を愛して自らを知るということは、自分は必ずやり遂げられると信じることだと歌う。

驚くべきことに、「BTS Cypher 4」の歌詞は、「自らを知ってこそ自分を愛せる」というニーチェとハイデッガーの哲学と一致する。

ニーチェとハイデッガーには似ている点が多い。哲学者の中で特にBTSと重なるのもこの2人だと思う。

ニーチェは「自分を愛するために自分を理解せよ」と言い、ハイデッガーは与えられたシステムの中にただ存在するのではなく、自分の良心に問いかけたときに望ましいと思う姿で生きるように説いた。BTS は自分を知り、愛することを歌った。

では、自分を知るための方法とは何だろう?

ニーチェは「本来の自分」を知るのは難しく、それは分厚い皮に包まれているという。だから、本来の自分を発見する方法として、尊敬する対象の性格を心に浮かべることを提案している。つまり、自分が仰ぎ見る英雄の姿には、本来の自分が間接的に示されているというわけだ。(※3)

その人をなぜ尊敬するのか。理由をリストアップしてみると、なりたい自分、なるべき自分の姿が浮かび上がる。自分のアイデンティティ、己は誰なのかにたいする答えは、「なりたい自分」だ。なりたい自分の姿が「わたし」なのだ。

哲学者のカン・シンジュは、自分を知るための方法として「本をたくさん読め」と言った。好きな本がわかれば、自分が誰たるか知ることができると。

己を知ることには自分の過去や特徴、習性を知るだけでなく、夢や目指す未来を知ることも含まれる。

「良心が描く自分」が今の姿とは距離があったとしても、努力して近づけるようにするべきだろう。

BTS は「ゼロから始めたのは事実だ。僕たちは最善を尽くし、どん底から一生懸命這い上がった」と語っている。彼らは底辺から階段をひとつずつ上ってきたのだ。(※4)

わたしたちもなりたい自分の姿に向かって一歩ずつ進んでいけば、いつかは自分の人生の主人公(ミューズ)になれるのではないだろうか。

自身を明確に知ることから始めろ。

自らに嘘をつかず、いつも誠実でなければならない。

自分がどんな人なのか、どんな習性をもち、どんな反応を見せる人なのか、

きちんと知らなければならない。

自分を正しく知らないと、愛を愛として感じることはできない。

愛するために、愛されるために、

自身を正確に知ることから始めろ。

自分のことさえ知らずに、相手を知るのは不可能だ。

ニーチェ『The Dawn of Day』(未邦訳)

※1、2… Anneli Rufus著、Unworthy: How to Stop Hating Yourself、2014

※3…ニーチェ、パク・チャングク著『君よ、自分自身になれ』ブーブックス、2016(ニーチェの言葉を著者が集めて解説した本と思われる)

※4…スポーツトゥデイ、防弾少年団「土のスプーンのアイドル?どん底から始めたのは事実だ」キム・イェスル、2015.11.27

(チャ・ミンジュ著、桑畑優香訳『BTSを哲学する』より転載)

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