10月から6000超もの品目が値上げされる「値上げの秋」。企業それぞれが値上げのお知らせに追われるなか、「値上げ広告」によって逆に支持を集めている企業もある。値上げというネガティブな話題を、どう納得感を持って消費者に伝えるか。そのヒントを、事例から読み解きたい。
2022年8月に帝国データバンクが発表したデータによると、2022年はすでに7月までで8058品目が値上げしており、8月には2431品目、9月と10月で8043品目と年内の値上げ品目はすでに18000を超え、2万に迫る勢いだ。
特にこの10月は過去最大となる6000品目超が値上げを予定しており、まさに「値上げの秋」を迎えている。
値上げは消費者にとってはネガティブな情報であり、値上げによって買い控えやブランドのスイッチングが起きることも多い。そのため企業は値上げのお知らせをなるべく目立たなくしたり、価格を上げるのではなく商品のサイズを小さくすることで「実質的な値上げ」をしたりと、値上げによるネガティブなインパクトを減らす努力をしてきた。
しかし近年、あえて値上げのお知らせとその背景を伝える広告、つまり「値上げ広告」を打つ企業も増えてきた。なぜそれらの企業は、本来はネガティブなはずの情報を大々的に、しかもお金を払ってまで掲載するのだろうか。
「値上げ広告」とそれに対する消費者の反応から、新しい時代の企業コミュニケーションの姿が見えてくる。
値上げ広告の走りといえば、ガリガリ君の値上げを100人以上の社員で謝罪した赤城乳業のCMを思い出す人も多いだろう。
値上げに対して真摯に向き合う同社の姿勢はもちろんのこと、25年もの間ガリガリ君を値上げすることなく、価格据え置きで販売してきた点も話題となった。
このCMが放送されたのは2016年。値上げ月となった4月には売上減も覚悟していたというが、むしろ売上は前年同月比で10%アップしたという。
「値上げのお知らせも、伝え方によってはポジティブな反応を得ることができる」。
赤城乳業のCMは、さまざまな企業にそんな気づきを与えた事例と言えるだろう。
なお、赤城乳業もこの値上げの波には抗えず、2022年の9月・10月出荷分からの値上げを発表している。ガリガリ君もマルチパックは350円から380円へと30円の値上げを行うが、単品売りの価格は70円のまま据え置くという。
ここ最近で話題になった値上げ広告といえば、やおきんの「うまい棒」だろう。
うまい棒は発売以来初の値上げとなり、10円玉一枚では買えなくなることを嘆く声もあった。
そんななか、価格改定当日である4月1日に、やおきんが公式Twitterで値上げにまつわるメッセージ広告を出したことが話題となった。
「なくなっちゃうほうが、悲しいから。」ではじまるこのメッセージツイートはまたたくまに広がり、9万RT、38万いいねを獲得。さらに4月9日から四週連続で「うまい棒値上げ、どう思う?」と題した新聞広告も掲載し、これらもSNSを中心に話題となった。
Twitter広告で使われた「なくなっちゃうほうが、悲しいから。」というフレーズは顧客からの声として紹介されており、「うまい棒値上げ、どう思う?」の広告シリーズも、駄菓子屋さんや菓子問屋などの関係者のリアルな声を反映して作られている。
値上げの背景を自社目線からだけ語るのではなく、顧客や関係者の声を取り入れながら広告として発信することで、共感を得やすくした事例と言えるかもしれない。
この9月には、ユニクロのフリース値上げも話題となった。しかもわざわざ地方紙も含む35紙以上の新聞に広告を出し、フリースの値上げを説明する特設サイトまで立ち上げた。
特設サイトでは、値上げにまつわる「よくあるご質問」も掲載しているが、かなり突っ込んだ内容にまで言及している。
「近年の急激な原材料の高騰」とありますが、以前に比べて、どれくらい高くなっているのですか
「生地の目付けを50g/m2アップしたことが、フリースが1,000円値上がりする理由ですか
これまで価格改定にまつわる広告を出したことはなかったユニクロが、今回はここまで力を注いでいるのは、やはりフリースが彼らにとってひとつのアイコンとなっているからだろう。
フリースは1994年の発売以来、本体価格は1900円のまま維持してきた。今でこそエアリズムやヒートテックといったヒット商品を数多く抱えているが、フリースのヒットがユニクロ成長の足がかりとなり、「低価格で高品質」のアイコンでもあった。
だからこそ、自分たちを象徴する商品ともいえるフリースの値上げに関しては、その理由を消費者に真摯に説明し、納得してもらおうとするコミュニケーションに舵を切ったのではないだろうか。
これらの企業とは対照的に、消費者に値上げを気づかせない「ステルス値上げ」を行う企業もある。
ステルス値上げとは、商品価格は維持しながら、サイズを小さくしたり素材を安いものに変えることで原価率を下げ、利益幅を大きくする手法を指してよく使われる言葉だ。消費者から見れば同じ金額を払っているのに以前より容量が少なくなったり、粗悪になったりしているため、体感としては「値上げ」に近い。
そうしたステルス値上げは、今や消費者も簡単に見抜くようになり、SNSで情報が共有されるようになった。数ヶ月前のものとは明らかにサイズが異る新旧の商品を並べて比較した画像や、弁当の容量が多いように見せる「底上げ」など、ステルス値上げは次々と消費者に見破られ、SNSで話題となる。
なかには「あの企業のステルス値上げはいつものこと」と、消費者のあいだで負のブランドイメージが固まってしまっている企業もある。
特にコンビニや牛丼チェーンといった身近なお店の価格に対して、消費者はとても敏感だ。大々的に値上げをお知らせすることによる客離れのリスクも大きい。
しかし、だからといって消費者にわからないように巧妙に値上げを行おうとすると、むしろ消費者のあいだでネガティブな話題となり、自分たちの首を締めてしまうことになりかねない。
前述の3つの事例が消費者に受け入れられ、むしろ応援の声すらも集まっていたのは、各社が長年価格を抑え、手に取りやすい価格で商品を提供し続けてきた信頼が醸成されていたからだろう。3社の製品は、業界はもちろん日本を代表する、誰もが一度は購入したことがあるほどの看板商品であり、それらの値上げは当然話題にもなる。
値上げはネガティブな話題として取り上げられ、反発を生むことも多い。しかし、あえて自分たちから値上げの背景やこれまでの感謝を打ち出すことで、消費者にとっても「あの企業なら値上げをしても仕方がない」「利益が出るようにがんばってほしい」と納得感を持ってもらうきっかけとなる。
あらゆるものが値上がりするなか、消費者に納得感をもって値上げを受け入れてもらうことは難しい。しかし真摯にメッセージを伝えたことで売上増につながり、小手先の策を弄してステルス値上げを続ける企業の評判が落ちている、という状況は「 ”不”正直者こそが馬鹿を見る」時代になりつつあるということかもしれない。
来る10月1日には、過去最大数の品目が値上げとなる。その際、それぞれの企業がどんなメッセージをうち、消費者とコミュニケーションをとるのか。企業の正直で真摯な対応に期待したい。
(取材・文:最所あさみ)
(2022年9月21日のOTEMOTO掲載記事「「値上げの秋」。企業は消費者とどうコミュニケーションをとるべきか?」より転載)
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「値上げの秋」。企業は消費者とどうコミュニケーションをとるべきか?