「2人目の予定とかさ、夫の職業とか聞いてくる企業ってどう思う?そんなもんなのかな?」
30代の友人からのLINEに絶句した。2021年冬に出産した友人は現在、就職活動中。「2人目」とは第二子のことだ。
面接で妊娠出産の予定を聞く企業なんて、いまだにあるの?
嫌な記憶がよみがえった。大学卒業前の就活中、通信社の採用面接で、私も似たような体験をした。
「結婚して子どもを産んだ後も、仕事を続けますか」
そんなことを尋ねられるとは考えもせず、頭が真っ白になった。それでも、学生の立場であり“ジャッジされる側”だと感じていた私は、意欲をアピールしようと「続けます」などととっさに答えた気がする。
その質問をしたのは40〜50代ほどに見える男性。女性幹部が少ないメディア業界では珍しくないが、その場にいた5〜6人の面接官はいずれも同じ年齢層の男性たちだった。質問を制止する人はいなかった。
結婚や妊娠出産を前提としていること、女性の応募者にしか尋ねないだろうこと。
何気ない質問に含まれるバイアスと性差別的な意図を感じ、面接を終えた帰り道で怒りが込み上げたことを覚えている。瞬時に適応しようとした自分にも嫌気がさした。
私の体験は10年近くも前の話だ。なのにあの頃も今も、変わっていないのではないかーー。
友人によると、冒頭の質問をした面接官は30〜40代の幹部の男女2人。
保育園の迎えや子どもが熱を出した時に、「夫が主に対応する予定」と友人が伝えた際、面接官から「旦那さんの仕事教えてもらえますか」「部署は?」と畳み掛けて尋ねられたという。
友人は「会社側としては、緊急時に夫は本当に対応できるの?というのを確認したかったのかと。小さい会社だから、子どものことで休みがちになると困るのはわかるけど…」と戸惑う。
「2人目の予定聞かれて嫌だなあ、これハラスメントじゃんって思ったけど言えず。『かなり(出産が)キツかったから今は考えられない』って答えてしまった自分が嫌」
日本労働弁護団が2021〜22年に実施した就活セクハラに関するLINEの相談窓口には、「面接で結婚や妊娠出産の予定を聞かれた」という女性の就職希望者からの訴えが複数寄せられたという。
小売店のパートの求人に応募し、7月に面接を受けたという愛知県の30代女性。企業からは妊娠予定の有無に加え、「避妊しているか」を婉曲に尋ねられたと取材に証言する。
子どもはいないと答えた女性に対し、面接官は「じゃあ急に(子どもが)熱が出て早退するとかはないんですね、よかったです」と返したという。
続けて、面接官は妊娠出産の予定を尋ねた。女性が「子どもの予定はない」と伝えると、耳を疑う質問が飛び出した。
「こんなこと聞くのもあれなんですけど、自然になさってるんですか?もし(子どもが)できたら、仕事はどうするんですか」
直接的な言い方ではないものの、女性は前後の文脈から「避妊はせずに性行為をしていますか、という意味の質問だと受け取りました」と振り返る。「ここまで突っ込んで聞かれるとは思わず、言葉に詰まってしまいました」
結局、採用試験は合格したものの、女性は面接でのやり取りを理由に辞退した。
「今後働いていく上で子どもを万が一授かった時、いい顔をされないとはっきり分かって…。その場合子どもにとっても良い環境ではないと思ったので、断りました」
それでも、女性のモヤモヤは拭えないという。「子どもを望む人の場合は、正直に答えればマイナスの評価になってしまい私よりもっと深刻ですよね。女性の雇用の機会が直接的に奪われる質問は問題ではないでしょうか」
結婚の希望はありますか。出産や妊娠の予定はーー。
こうした質問を、企業はしても良いのか?
男女雇用機会均等法(第5条)は、「事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない」として、性別による差別の禁止を定めている。
同法に基づく指針では、面接で「結婚の予定、子供が生まれた場合の継続就労の希望の有無などを女性に対してのみ質問すること」は直接差別に当たり、同法が禁止するものだと説明。こうした質問は、違法事例の一つとして挙げられている。
違反の恐れがある事業主は、厚労相の指導や勧告の対象となる。勧告を受けた事業主がこれに従わなかった場合、企業名が公表されることもある。
厚生労働省・就労支援室の担当者は取材に、「出産に影響を与え得る労働環境など、特別な事情があれば妊娠や出産予定を確認する理由となる場合もあり得る」としつつも、「とはいえ明確な理由はほぼ考えられず、採用選考で妊娠や出産予定を聞くことは一般的に好ましくない」と話す。
前出の女性が受けたような質問は、性的ハラスメントに当たりかねない。
男女雇用機会均等法に基づき、企業はセクハラの相談窓口を設けるといった対策を義務付けられているが、対象は雇用している労働者にとどまる。
国は2020年6月から、職場におけるハラスメント防止策を強化。指針の中で、就活生ら求職者など、雇用関係がない人に対するハラスメントについても社員と同様の方針を示すことが「望ましい」とした。
ただ、就活セクハラの問題に詳しい日本労働弁護団の常任幹事の新村響子弁護士はこの指針について、「努力義務にとどまり効果は限定的」とみる。
国際労働機関(ILO)のハラスメント禁止条約は、ハラスメントを法的に禁止。労働者だけでなく、就職希望者やフリーランスなども保護の対象としている。この条約は2021年に発効したが、日本は批准していない。
新村弁護士は、「雇っている労働者に限らずハラスメント対策と保護が必要、というのが世界標準の考え方。雇用の外にいる人たちが、被害に遭った時に救済される制度を整えるべきです」と強調。雇用する労働者以外の求職者らに対するハラスメント防止を法的に義務付けることや、企業に対する労働局による指導権限の強化といった対策を提案する。
「そんな時代遅れの質問をする会社なら入社しない。面接の段階で気づけて逆に良かった」
そう前向きに捉える意見もあるかもしれない。働き始めてから、妊娠出産を機に冷遇されるよりはマシだ、と。(妊娠出産を理由とする不利益な取り扱い自体も違法である)
でも本当にそうだろうか。冒頭の友人と同じような体験をした別の女性は、「子どもがいたら正社員なんて無理なんだ」と思い、正規雇用の道を諦めたという。
いくつもの企業から同じ質問をされ、その度に“子連れはハンデ”かのような反応を示される。能力や適性ではないところでふるいにかけられ、不当に低い評価を受ける経験の積み重ねは、どれほど応募者の意欲や自信を削ぐことか。
企業側の性差別的な質問の背景には、男性の育休取得率の伸び悩みや長時間労働など、夫の勤務先が抱える労働環境のしわ寄せが、女性が働く企業側にいきやすいという構造的な問題もあるだろう。
でもそれは、採否の判断をする場面で、妊娠出産という対象が女性に限られる質問をして良い理由にはならないはずだ。
「妊娠の予定はありますか」「旦那さんの仕事は」と面接で聞くのは、もうやめてもらえませんか。
<取材・執筆=國崎万智@machiruda0702/ハフポスト日本版>
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