ブラッド・ピットが最新主演作『ブレット・トレイン』で演じたのは、自分の運の悪さを嘆き、メンタルセラピーに通う殺し屋。人気作家・伊坂幸太郎の『マリアビートル』のハリウッドでの実写映画化で、東京発京都行きの超高速列車の中で、10人の殺し屋たちが死闘を繰り広げるミステリーアクションだ。
監督は、ピットの代表作の一つ『ファイト・クラブ』などでスタントダブル(役者に代わって危険なシーンを演じるスタントマン)を務め、『デッドプール2』『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』などの人気シリーズでメガホンをとってきたデヴィッド・リーチ。共演者には日本から真田広之、イギリスからアーロン・テイラー=ジョンソンなど、アクションを得意とする俳優が揃い、リーチ監督いわく「心から信頼できる」クルーで映画作りに挑んだ。
「高速列車」という特殊な空間でのアクション。そして様々なバックグラウンドとルーツを持つ個性的な殺し屋たちはどう生まれたのか。
コロナ禍の2020年に制作が始まった本作は、無事に公開を迎え、ヨーロッパ、北米、そしてアジアでプレミア上映も行われた。その最後の場所となる日本にやってきた真田広之、アーロン・テイラー=ジョンソン、デヴィッド・リーチ監督の3人は、意気投合した様子でにこやかに取材陣を迎えてくれた。
本作の見どころの一つはやはりそのアクション。コレオグラフィー(戦闘シーンの立ち回りやその演出)においても、キャラクターたちの個性が光っている。
トム・クルーズ主演の『ラスト サムライ』出演を機にアメリカに渡りおよそ20年になる真田広之が演じたのは、「剣の達人」のエルダー。何者かに息子を傷つけられ復讐に駆られる息子キムラ(アンドリュー・小路)のあとを追って高速列車に乗り込むと、因縁の相手と対峙することになる。
一方、アーロン・テイラー=ジョンソンは『キック・アス』シリーズでの主演を経て、近年は『TENET テネット』『キングスマン:ファースト・エージェント』などの話題作に出演。本作で演じたタンジェリン役を、オーディションで勝ち取ったといい、ピットとの激しい攻防戦は本作のハイライトの一つだ。
「高速列車」でのアクション。ハリウッド屈指のスタント集団「87eleven Action Design」の創設メンバーの1人であるリーチ監督の「制限がある空間こそ強みになる」という言葉に、2人はうなずく。
リーチ:
「観客が現実逃避できるようなクレージーな旅ができる映画にしたいと思っていました。その旅の舞台になる高速列車は、ファンタジー的空間である必要があった。
列車という箱のような制限がある空間は、アクションにおいては逆に強みになり面白いコレオグラフィーが生まれます。
高速列車は車両ごとにアクションの特徴を変えていて、眠っている人がいるから静かにしなきゃいけない車両、武器になりそうなビンや刃物がある食堂車、といったように車両ごとに異なるアクションを楽しんでほしい。実は、テレビ番組『モモンガ テレビキッチン』の人気キャラという設定の『モモもん』は、マスコットキャラクターが人を殺すのは面白いんじゃないかという発想から生まれた(笑)。
アクションはヒロ(真田)は50年ほどのキャリアがあり、アーロンも若手の時から挑戦してきた。頼もしい仲間でした」
ジョンソン:
「脚本から飛び出てくるような、いきいきとしたキャラクターたちが面白い作品。僕が演じるタンジェリンもかなり派手に自己アピールする殺し屋です。3ピーススーツを着た成金風の風貌だけど、ストーリーが進むにつれ、彼の相棒となるレモン(ブライアン・タイリー・ヘンリー)との歴史も垣間見えてきます。
列車というシチュエーションをいかした、閉所ならではの恐怖感やスピード感を出すために、セリフは素早く言い、せっかちさを出す。いつもアドレナリン全開の状態でした。
ブラッド・ピットとのシーンは、かなりアドリブが多かったですね。彼は1テイクごとに違うセリフや動きをするんです。食堂車のシーンは、わさびを相手の目にこすりつけたらどうだろうかとか、お箸を鼻の穴の中に突っ込んだらどうだろうかとか(笑)、とにかくアイデアを出しまくった。
ただ、アクションを考えながらも、なぜこの10人の殺し屋が集まったのか、運命とは何かという大きなテーマも意識していました」
真田:
「デヴィッドのようなアクションを理解した監督が撮ってくれ、努力が無駄にならない。それは役者にとってとても心強く幸せなことです。
現場では、信頼していろんな意見を交わしました。高速列車という狭い空間で、相手が座席の後ろに隠れたら、じゃあ座席ごと切っちゃえばいいんじゃない?とかね(笑)。キャラクターの感情やバックグラウンドを常に意識しながら、現場で出てきたアイデアをうまくまとめて掛け算にする。その結果観客がエキサイトしてくれるアクションが実現できました。
小道具さんが用意してくれた武器も面白かったんです。私が演じたエルダーは足が少し不自由で、鳥の嘴を模したダックヘッドの仕込み杖(中に刀身が隠されている杖)をいつも持ってる。そのヘッドをフックにして物をとったり、鞘も武器として使ったりして、小道具にも映画を面白くするヒントが溢れていましたね」
ピットが演じた「レディバグ」とは、日本語では、「幸運を運ぶ」と言われる「てんとう虫」の意味。己の運の悪さを嘆くレディバグと、真田演じるエルダーは「運命」をめぐるある重要な会話を交わし、物語に転機を作る。
このインタビューの翌日に行われた、東京発京都行の新幹線でのレッドカーペットイベントで、ピットは真田が演じたエルダーは「その人が入ってくると場が静まるような人、尊敬できる人である必要があった。(真田は)この映画の心臓の部分、魂の部分だ」と絶賛の言葉を送った。
役者になって55年、日本とアメリカでアクションの道を極めてきた真田。イギリスで子役としてデビューし、今は4人の娘を育てていることから「人生の目的は家族」だと笑顔で話すジョンソン。そして、スタントマンから映画監督への道に進んだリーチ監督。
それぞれの方法でキャリアを積んできた彼らに、映画のテーマとかけて「自分は運が良いと思うか?」と聞くと、3人とも笑いながら「イエス」と答えた。
真田:
「今ここにいる時点で、私は運が良いんだと思います。エルダーが語る『運命』というものを、これまでの俳優という仕事でも感じてきました。出会った作品や人、一つでも欠けていたら、今日ここにはいられなかったと実感しています」
ジョンソン:
「僕もヒロと同じ考えです。運命や定め、自分が歩いてきた道についてよく考えます。自分の人生の目的は、今は家族のためだと思っています。僕は4人の娘を育てているんですが(※ジョンソンは、2012年に映画監督のサム・テイラー=ウッドと結婚した)、彼女たちを育てることが生きがいで、情熱を注げる仕事にも出会えました。
あれこれ失敗したり、とんでもないことが身に起きたりして、あくせくしながらも結果オーライなレディバグに共感するんです。失敗にこそ成長と学びがあると思うから」
リーチ:
「僕は映画業界でスタントマンとしてキャリアを始めて25年、映画とは何かと理解しようと、いつか自分のところに巡ってくるチャンスのために準備をしていて、ある日その機会がやってきた。その土台があったからこそ自分の運が具現化できたんじゃないかと思います」
(取材・文=若田悠希 @yukiwkt /ハフポスト日本版、撮影=藤本孝之)
▼作品情報
『ブレット・トレイン』全国公開中
原作:伊坂幸太郎『マリアビートル』(角川文庫刊)
監督:デヴィッド・リーチ
脚本:ザック・オルケウィッツ
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
映画『ブレット・トレイン』の3人が語る“運をつかむ”ための仕事術「失敗にこそ成長と学びがある」