ジャーナリストの伊藤詩織さんが、元TBS記者の山口敬之さんから性暴力被害にあったとして損害賠償を求めた訴訟について、最高裁第1小法廷(山口厚裁判長)が7月7日付で双方の上告を退ける決定をした。これを受け、伊藤さんが7月20日、都内で記者会見を開いた。
確定した二審東京高裁判決は、山口さんが同意なく性行為に及んだと認定し約332万円の損害賠償を命じる一方、山口さんの名誉を毀損されたという訴えも一部認め、伊藤さんにも55万円の支払いを命令した。
伊藤さんは「今の刑法では、“不同意性交=犯罪ではない“というところに目を向け、今後の改正に注目してほしい」とした上で、「5年間闘ってきた裁判が区切りを迎えました。当事者としての声を発信するのはこれっきりにしたい。これまでの学びを、伝えるという仕事で還元していけたらなと思っています」と語った。
「公で自分の性被害について語る事は家族からも反対されましたし、いろいろな溝が周囲とできてしまいました」
伊藤さんは会見で約5年間の「闘い」について、「『今日は大丈夫』と思う日もあれば、起き上がれない日もあります。そんな日々を繰り返す中で、この数年、少しずつ素直に自分の心と向き合うことができるようになりました。それがある意味での回復なのかなと、捉えています。自分の心に浮かぶことや気持ちに素直に向き合うことは、大変で時間がかかることですが、自分にはとにかく正直になってほしいし、周りは耳を傾けることが必要だと思います。法律が追いついていないところに対して、一緒に目を配ってほしい」と、ゆっくりと振り返った。
最高裁の判断については、「今の社会や、進むべき方向を示しているものではないと個人的には思います」と吐露。
山口さんについては、「自分は違法なことや犯罪を犯していないと繰り返しおっしゃっていました。それは、日本の司法に対する問いかけだと思います。日本では、同意のない性行為は犯罪ではないかもしれない。それを大きな声で言える社会なんだと思います。この現状に対して、私たちがどう受け止めて反応するかが、今後の課題だと思っています」と指摘した。
「きっと残念ながら、また起こってしまうであろう同じようなケースに対して、どのような法が使われ、決断がなされるのか。今後の刑法の改正に注目していただきたいです」と訴えた。
山口さんに約332万円の損害賠償を命じた判決について、伊藤さんは「民事裁判を起こしたことでいろんなことが分かり、刑事裁判では出てこなかった証言をオープンにできたことは、本当に有意義だったなと思います」とした上で、「弁護士費用や医療費は、今回の賠償金では、到底カバーできるものではありません。また勝訴したとしても、支払いがないケースもあります。また裁判は踏み出すのにすごく壁があり、今の法の在り方では当事者にとって本当に負担が大きいということも再度感じました」と振り返った。
著書などでの「デートレイプドラッグ」に関する言及が、名誉毀損などに当たるとの判断については「著書にも確証がないと書きましたが、警察が調べてくれないと感じたからこそ語ったことです。自分の受けたかもしれない被害を、話してはいけないと受け取られるなら、今後被害者はどのように語っていけばいいのでしょうか」と疑問を投げかけた。
佃克彦弁護士は「判決は性的加害行為の存在自体を認めながらも、性的加害行為をもみ消されそうになった状況で社会に訴え出た言論行為を違法と判断しており、非常にバランスを欠いている」と批判した。
西廣陽子弁護士は「被害の公表後、警察庁からは、薬物の使用が疑われるケースではしっかり証拠保全をするようにという事務連絡が出ています。尿検査や毛髪検査も行われるようになり、伊藤さんの事件が起きた当時と比べると警察も明らかに変わってきたと感じています。またアメリカでの#MeToo運動や、日本でのフラワーデモなど、自ら声を上げるという運動が広がっていきました。公表したことによって性犯罪を取り巻く環境を変えていけたということに意義があったのかなと思っています」と振り返った。
伊藤さんは2015年4月、就職相談のため山口さんと都内で食事をした後、ホテルで性的暴行を受けたとして警視庁に被害届を提出。準強姦容疑事件として捜査されたが、東京地検は嫌疑不十分で不起訴処分とした。
2017年5月に伊藤さんは名前と顔を出して記者会見し、検察審査会に不服申し立てをしたことを公表。検察審査会は同年9月、「不起訴相当」と判断した。
その後伊藤さんは、望まない性行為で重大な肉体的・精神的苦痛を被ったとして、山口さんに慰謝料1100万円の損害賠償を求めて民事訴訟を起こした。
一方、山口さんは、性行為は伊藤さんとの同意の下で行われ、不法行為はなかったと反論。伊藤さんが記者会見や書籍の公表などを通じて性暴力被害を訴えたことで、自身の名誉を毀損されたなどとして、慰謝料など1億3000万円の損害賠償や謝罪広告の掲載を求めて反訴した。
東京高等裁判所は「同意がないのに性行為を行ったと認めるのが相当だ」と指摘し、1審に続いて伊藤さんの訴えを認め、330万円余りの賠償を命じた。
一方、事実と異なる内容を公表され名誉を傷つけられたという山口さんの訴えについて1審は退けたが、2審は「食事中にデートレイプドラッグを飲まされたという部分は的確な証拠がない」と一部認め、伊藤さんにも55万円の支払いを命じた。
双方が不服として上告していたが、最高裁判所第1小法廷の山口厚裁判長は7月7日付で退け、判決が確定した。
山口さんは「この度の司法判断について、デートレイプドラッグが使用されたとする伊藤詩織氏の主張が虚偽だったと確定したことは評価ができる。
また、伊藤氏が自ら飲酒し酩酊したこと、ホテルに同行したことが伊藤氏の酩酊状況を踏まえた伊藤氏の利益に反さない対応であると認定したことも一定の評価ができる。その一方で、同意なく性行為に及んだ事実はなく、虚偽主張に対し一貫して争ってきたが認められずに残念である。
多くの虚偽主張に関して特に医学的客観証拠の十分な検討や評価がなされておらず、その結果、虚偽を見抜く判断がなされなかった。民事裁判制度の限界を感じる」とコメントを出した。
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伊藤詩織さん、5年間の闘いに「区切り」。今の日本社会に向けて訴えたこと【会見詳報】