「#わたしも投票します」
俳優やアーティストなどの人気芸能人が、投票を呼びかける「VOICE PROJECT 投票はあなたの声」の動画。2021年の衆院選で立ち上がり大きな話題になると、2022年の参院選(6月22日公示、7月10日投開票)では第2弾の動画が発表され、輪が広がっている。
参加者は26人。選挙権を持ってから欠かすことなく投票に行っている人。投票に行かなかった過去を率直に明かす人。社会への不安を話す人もいれば、若者世代として「未来を変えていきたい」と語る人もいる。時に俯きがちだったり、言葉を選んだりする様子からは、26人のリアルな思いが伝わってくる。
VOICE PROJECTは、日本、特に若者の投票率の低さに対する問題意識から始まった市民プロジェクトだ。
2021年10月の衆院選の時に立ち上がり、事前予告なしでゲリラ的に動画を公開した。菅田将暉さんや秋元才加さんら出演者もSNSでシェアし瞬く間に拡散。「#わたしも投票します」はTwitterのトレンド1位になるなど大きな反響があった。
発起人である映画監督・映像作家の関根光才さんと、映像プロデューサーの菅原直太さんは、予想以上の反響の大きさに驚きつつ、制作メンバーの間でも当時「投票率が少しでもあがれば」と期待が高まっていたと振り返る。
しかし、開票を経て投票率は大きくは上昇しなかった。18歳・19歳の投票率は上がったものの、全体の投票率は55.93%。前回衆院選より2.25ポイント上昇したが、戦後3番目の低さだった。
「このプロジェクトは、一度きりの大きな花火を打ち上げるのではなく、未来のための種を蒔いていくもの。日々の生活と政治の繋がりを感じ、どんな社会を望んで投票に行くのか。そのプロセスが大事だと思います。もちろん投票率があがってほしいと願っていますが、時間がかかることはわかっていました」(関根さん)
そんな思いで、今回の参院選でも動画を制作することを決め、2021年末から準備を始めた。
一方で、制作には費用がかかる。出演者はノーギャラだが、撮影や機材・スタジオ費などの経費や人件費は発起人らで賄ってきた。しかし普段の仕事を休止して制作に専念しているため、このまま続けていくことで、生計が圧迫されかねないという事情もある。今後も継続的に動画を発信できるよう、クラウドファンディング(8月24日まで支援を受付)で支援も募ることも決めた。
長澤まさみさん「自分の人生を大切にするための一票が投票権だと思う」「(投票に行くことが)一瞬一瞬の人生を決めるための一つの希望でもあるととらえるとしたら、見過ごすより、見逃さないほうがいいなって」
松本まりかさん「投票って面白いんですよ。なんかわからないけど、ワクワクする」「本当に大事なことを話せないと、風通しがよくない社会になっちゃう」
北村匠海さん「大事なのは、今を生きる若い僕らの意思を変えること。意見を持つこと」「僕らが僕ららしく輝くためのちっちゃな証明をみんなでしよう」
テレビに出ている人気芸能人がそれぞれの言葉で、社会や未来への考えを語り、「投票に行こう」と声を上げるーー。
日本では、芸能人の政治や社会に関する発言はタブー視されがちで、「俳優が政治に口を出すな」「音楽に政治を持ち込むな」などとバッシングを受けることも少なくない。そんな状況で2021年の衆院選でVOICE PROJECTの動画が発表されたのは「異例」のことだった。
動画の参加者は、2021年の衆院選では14人だったのが、今年の参院選では26人と倍近くなり、VOICE PROJECTに賛同する人は増えた。
「オファーの段階で、衆院選の時よりも、芸能人が投票を呼びかけることのハードルが下がったなという感触はありました。去年は初めての試みで、どんな動画になるのか想像できない中、14人が出演してくれた。中には『もしかしたら仕事に影響が出るのではないか』と不安を抱きながら出演を決断してくれた人もいました」(関根さん)
「投票に行こうということだけでも言えない空気があった。それがすべて払拭されたわけではないとは思いますが、出演者の中には前回の動画を見たという人も多く、『出たいと思ってました』『これからも続けてほしい』と言ってくれた人もいました」(菅原さん)
出演者の中には、選挙に行かなかった過去を明かした上で、意識の変化について語る人もいる。
伊藤英明さん「本当に恥ずかしいんですけど、(投票に行ったのは)成人して…あの、2、3度」
綾小路翔さん「行かないってことが、自分のひとつの意思表示みたいな」(そこから)「これって何のために、誰が得するのかなっていうクエスチョンが増えてきたんですよね」
関根さんは、VOICE PROJECTの役割は「選挙に行くことや、社会や政治について対話することの敷居をできる限り下げること」だと考えている。
「特にSNSは、自分と似たような意見や考えをもつ人たちの中で循環しがち。そのエコーチェンバーをどう打破できるか。VOICE PROJECTではそれが大事だと思っています。
僕たちが特にコミュニケーションをとりたいのは『選挙に行かない』人たち。僕自身、若い頃に仕事が忙しいと選挙に行かなかったこともあります。誰に投票すればいいかわからないと感じる人、仕事や子育てで忙しくて行けない人、あるいは意志を持っていかない人…。そういう人たちを責めたいのではなく、まずは対話を始めたい。
このプロジェクトは、著名人も私たちも、同じ社会で生きる人間として、素直な気持ちを一緒に話してみませんか?というものです。出演者の方々も、それを踏まえた上で自分の経験や考えを話してくれました」(関根さん)
VOICE PROJECTのホームページでは、選挙の争点や各政党の公約などをわかりやすく伝え、投票の参考になるリンク集を紹介している。「#わたしも投票します」動画を通じて、投票先を選んだり、アクションを起こしたりする時のヒントになれば、という思いで、今回から新しく立ち上げた。
「社会や政治への関心は、一度芽生えると、そう簡単に消えるものではありません。ある限られた人たちが考えた未来ではなく、みんなで考えた未来を実現するための一つの方法が、投票に行くことです。何か意見を表明した人を揶揄したり、攻撃したりするのではなく、対話ができるのが、息苦しくない社会。VOICE PROJECTを通じて、その土台を作ることに少しでも貢献できたらと思います」(関根さん)
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
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