政治や社会について「知って、スタンスを持って、行動する」U30世代を増やすため、SNSなどで政治や社会について発信する『NO YOUTH NO JAPAN』(ノー・ユース・ノー・ジャパン)。本連載では、U30世代の運営メンバーが、社会に対して声をあげる海外の同世代にインタビューをします。
今回お話を聞いたのは、アメリカのカリフォルニア州でアパレルブランド「Ditch Day Apparel(ディッチ・デイ・アパレル、以下DDA)」を立ち上げたユンジ・キムさん(19歳)。環境に配慮した持続可能な素材を使用し、ブランドのSNSでも積極的に社会問題を発信しています。
「世界第2の環境汚染産業」とも言われるファッション業界。キムさんが、ブランドを通して実現したい社会とは。
ユンジ・キム
2003年生まれ。アメリカのカリフォルニア州サンフランシスコ出身。カリフォルニア大学ロサンゼルス校で数学を専攻している。2020年12月、友人2人とDDAを設立し、現在はテック・デザインコーディネーターとモデルを務める。
ーー キムさんは大学1年生の時に、DDAを立ち上げたと聞きました。どんなきっかけがあったのでしょう。
大学に入学後、ソーシャル・ジャスティス(社会的公正)について雑誌やポッドキャストで発信する「Degree in Tea」という学生団体にメンバーとして参加しました。
当時、団体では、オリジナルのワッペンを売った利益を慈善団体などに寄付するチャリティ活動をしていました。私もデザイナーとしてワッペン作りに携わるようになったのですが、ある時、私がファッション好きと知ったメンバーの1人が「服も作ってほしい」というリクエストをくれたのです。
そこで、試しに「クルーネック(丸首型)」の服をデザインし、販売してみることに。すると、TikTokで爆発的に話題になり、50〜200人程度だったフォロワーは一気に15.5万人以上に増えました。
このヒットをきっかけに、Degree in Teaのメンバーである女子学生2人と、クルーネックの専門ブランドDDAを立ち上げました。当初はチャリティ活動にしようと考えていたのですが、ビジネスにした方が持続可能だと思い、最終的には会社を設立することに決めました。
ーー TikTokで人気に火がついたのはなぜだと思いますか。
私自身、これほど話題になるとは思ってもいなくて…。
人気を集めた理由は、個性的なデザインだと思っています。ちなみに一番の人気のデザインは、カウボーイハットを被ったカエルのロゴをあしらったものです。
また、立ち上げ時はちょうど新型コロナが感染拡大していた時期で、TikTok上で中小企業やベンチャー企業をサポートすることが流行っていました。私たちは運良くその流行りに乗れたという側面もあると感じています。
ーー商品には持続可能な素材を使っているということですが、具体的にどんなこだわりがあるのですか。
100%再生可能なオーガニック素材を使用しています。服作りの裏には、水の大量消費や化学肥料による土壌汚染、化石燃料の使用や工場でのCO2排出など様々な環境負荷があり、気候変動や生物多様性の破壊など深刻な社会課題に繋がっています。そのため、未来を生きる私たちの世代が主体的に取り組んでいかないといけないと感じ、持続可能な素材を調達することを決めました。
また、2021年8月にタリバンがアフガニスタンに侵攻した際には、トートバッグを販売し、その利益をアフガニスタン難民の支援活動に寄付しました。このように、社会問題を知るきっかけになり、さらにアクションに繋がるような商品をこれからももっと届けていきたいです。
ーー 10代、そして大学に通いながらの起業は、苦労したことも沢山あったのではと想像します。
大人の手は借りず0から自分で起業したので、最初は右も左も分からず大変でした。
また、忙しい学生生活の傍らで、目まぐるしく変化する流行を追いながら、ブランドの人気を保ち続けるのはとても難しかったです。自分たちが良いと思ったデザインがいつもお客さんに受け入れられるとは限りません。新商品を開発するために、友人やクラスメートにもデザインについて意見を聞いて、試行錯誤を繰り返しました。
これまで苦労したことも色々ありましたが、ブランドに共感してくれた同世代のTikTokのフォロワーからの温かいサポートのお陰で、ここまで続けられてきたと思います。
ーー ところで、キムさん自身はなぜ社会問題に関心を持ち始めたのですか?
インスタグラムで色々な社会問題が取り上げられているのを見て、「私も何か取り組まないと」と感じたのがきっかけです。その中でも、気候変動については、学生の私でも身近にアクションを起こしやすいと感じました。
古着屋や持続可能な服づくりをするブランドで服を買う、ゴミを分別する、車の代わりにバスに乗る…こうした日常的なアクションから始めました。
ーー キムさんはカリフォルニア州で暮らしていますが、同世代の若者は気候変動にどう向き合っていると感じますか?
TikTokで、カリフォルニア州に暮らす学生に向けて「安いけれども持続可能ではない服か、高いけれども持続可能な服か、あなたならどちらを買いますか?」という質問をしたことがあります。すると、ほとんどの学生が「高くても持続可能な衣服を買いたい」と答えてくれたのです。多くの若者が持続可能なライフスタイルを望んでいるのだと感じました。
一方で、そう願ってはいても、行動するのは難しいというのも事実です。
たとえば、DDAは持続可能な素材を調達している分、そうでない他社の商品に比べて、価格がどうしても割高になってしまいます。実際に、TokTikでも「高すぎて買えない」というコメントを多くもらいました。
経済状況に関わらず、誰もが持続可能なライフスタイルを選べる世の中にしていかなければいけないと思います。
ーーそう考えると、政治の力も非常に重要ですね。
そう思います。たとえば、カリフォルニア州では、食堂でプラスチックのカトラリーやお皿を使用している大学もまだまだ多いです。政府には、十分に力を入れることができない大学や企業をサポートするなど、より積極的なアクションを取ってほしいと思います。
<取材を終えて>
10代にも関わらず、自分たちだけでビジネスを立ち上げ、社会問題の解決を目指すキムさんらの活動から、若者の底力を感じました。
一方で、気候変動など地球規模の社会問題を解決するためには、個人のライフスタイルが変わるだけではなく、政治など社会構造が変わっていくことが重要です。そのためにも政治に声を上げていくのも私たち若者の責任だと感じました。
(取材・執筆:和倉莉央 / NO YOUTH NO JAPAN)
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