DV、子の障害、キャリア…。中絶の理由は人それぞれある。看護師の私が見てきたストーリー

クリニックで医師を待つ患者(イメージ画像)

私はこれまで、患者さんのさまざまな物語を目撃してきた。

「この子は王女だったの」と麻酔から目覚めたばかりの女性は言った。お腹の子の父親は外国の王子で、彼女との結婚を拒んだという。彼女の文化圏では、婚外子の出産は死刑になるため、王女を出産することよりも自身の命を選んだ。

ある女性はエンジニアで、24時間だけ休みがもらえた。彼女の州では新たな中絶法が施行され、近くのクリニックは彼女を受け入れてくれなかった。そこで、彼女は夜中に8時間かけて私たちのところにやってきた。彼女の手術は長時間に及ぶものだったが、仕事に間に合うように午前1時までにはここを出発させなくてはならなかった。

ある女性は、近くにクリニックがあるものの、家族の数人がそこで反対デモを行なっているため、手術のため遠くまで運転して来なくてはならなかった。もし家族に見つかったら、許してもらえないだろう。彼女は姉妹にさえ打ち明けることができないのだ。彼女も自分の身に起きるまでは、彼ら同様、中絶に反対していた。シングルマザーの彼女の給料では、すでにいる子どものための保育費・食費、家賃さえも殆ど賄えない。周りは子育てアドバイスはたくさんくれるが、実際に手を貸してはくれない。

ある女性は他の州からここに来た。彼女の州では、不妊手術をするには夫の許可が必要だと言われたからだ。彼女はもう子どもを産み育てるのは無理だと感じているが、夫はもっと欲しいという。彼女は夫に疑われないよう、早朝に何時間もかけてここにきて、その後数時間運転して帰った。

ある女性はもう彼からの暴力に耐えられなかった。それでも彼の元を去れないが、せめて彼の子どもは産まない選択をした。

ある女性は警官にレイプされた。

ある女性は麻酔で眠っているとき、開いた口内に、覚醒剤依存者特有の腐ったような歯が見えた。この女性や赤ちゃんにとって、出産・育児に適切な時期ではないのだ。

ある女性は医者になる夢があった。

ある女性は俳優になる夢があった。

ある女性はただのティーンエイジャーになりたかった。

ある女性は起業したばかりで、ビジネスが軌道に乗りつつあった。1番下の子どもも日中学校に行き始め、彼女はやっと夢に向かう時間ができた。彼女は夢を選んだ。

ある女性は、検査の結果、赤ちゃんの染色体異常が判明した。それは彼女にとって4人目の子どもで、心の中で手に負えないだろうと思っていた。検査は提供されるが解決策はもらえない。その結果、彼女はここに来るしかなかった。

ある女性は医師で、彼は浮気をしていた。

ある女性は何カ月も食べられずにいる。つわりによる吐き気と嘔吐で仕事に行けないが、今いる子どもたちを養わなければいけない。彼女はすでに9キロも体重が減っていた。

ある女性はすでに3人の子どもがいて、アルツハイマー病を患う父親の主な介護者でもある。これに加えて新生児の世話ができるのだろうか?何かを諦めなければならず、彼女は辛い選択をした…。

なぜ私がこんなことを知っているのか?それは私が女性で、母親であるだけでなく、ある州のある都市で、看護師として中絶を手伝っているからだ。

これは私の知るストーリーのたった一握りで、必要ならば延々と話すことができる。

女性たちはこのようなストーリーを私に話すとき、まるで「私のことが見える?」「私の選択肢がどうであったか分かる?」「それでも私は『善人』?」と尋ねているようだ。

事実は、女性は自分の体や人生について決断できる大人として見られておらず、そして人々は女性たちの選択の多くが実際どのようなものであるかを見ようとしない。

代わりに、彼女たちの状況を何も知らない人たちは無知であること、そして見ないことを選ぶ。彼女たちが「善人」であることを見ようとしないのだ。彼女たちが胎児だった時の命は大切にするのに、大人の彼女の命を拒むとはどういうことだろうか。

女性の権利の剥奪は、中絶を止めるのではなく、単に選択肢を変えるだけだ。

女性たちは代わりに、路地裏や自宅、もしくはTikTokのチュートリアルを選ぶだろう。もしくは自殺を選択するかもしれない。

そしてそういった決断がなされる時には、誰が目撃者となってくれるのだろうか。

【シェリリン・アン・ケイは、このコラムを書いた看護師が、彼女の安全を守るために使ったペンネームです。コラムの具体的な内容は、言及された女性のプライバシーを保護するために変更されています】

ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。

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DV、子の障害、キャリア…。中絶の理由は人それぞれある。看護師の私が見てきたストーリー

Sherilyn Anne Kay