7月10日に投開票の参院選。もちろん外国籍の住民に投票権はない。
だが、この秋には、技能実習制度や特定技能制度の見直し、昨年廃案になった入管法案の再提出など、外国人の受け入れに関わる議論が繰り広げられる見通しだ。直接的には「票にならない」外国人労働者や難民をめぐる問題を、各政党はどう考えているのかーー。
NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)は自由民主党、公明党、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会、日本共産党、れいわ新選組、社会民主党、NHK党の9政党に「技能実習制度を廃止すべき」「入管法案を再提出すべきでない」など11項目への賛否を尋ねるアンケートを実施し、全政党から回答を得た。
各項目への「賛成」は、外国人の保護や権利の保障に前向きな姿勢を示す。
移住連は「参院選後の国会は、日本が移民・難民の人権と尊厳が保障される制度を構築していくのか、これまでと変わらず、それらが欠如した制度を続けていくのかを定める場になる可能性がある」と指摘。参院選は「日本の将来を方向づける上でも、今後の国会運営への影響という意味でも重要となる」としている。
自民党が「賛成」を示したのは 11項目のうちゼロ。
難民申請者の「送還忌避罪」などを盛り込む入管法案を「再提出すべきでない」との項目には「反対」と答えた。法案は2021年に廃案となったが、政府は参院選後、国会に再提出する可能性があると報道されている。
自民党は「我が国で重大な犯罪を犯すなど、ルールに違反した者には厳正に対処できる制度とするためには、現行入管法下の課題を一体的に解決する法整備を行うことが必要不可欠」との見解を示した。
「特定技能」の労働者に「滞在1年目から家族帯同を認めるべき」との項目にも「反対」と表明。「一定期間の在留後、出国が予定されている在留資格で滞在する外国人について、その子弟の教育など家族にかかるコストを含め、社会全体としてそのコストを負担することのコンセンサスが得られているとは認められない」と理由を説明した。
「技能実習制度は廃止すべき」、外国人に対する日本語教育を「国の責任で実施すべき」との項目には、「どちらとも言えない」と答えた。
立憲民主党は「技能実習制度は廃止すべき」との項目に「賛成」を表明した。「人権侵害や労働法令違反が頻発している外国人技能実習制度を抜本的に見直し、外国人労働者が国内労働者と同等に保障され、保護される環境を整える法案を検討している」と説明した。
入管法案を「再提出すべきでない」との項目にも「賛成」と答えた。「政府が提出した入管法案は、国連が繰返し勧告してきた、期限に上限のない収容や厳しすぎる難民認定基準などが全く是正されていない」と指摘。
難民条約上の難民ではないものの、難民に準じて保護すべき外国人を 「補完的保護対象者」(準難民)として、難民と同様に日本での在留を認める手続きを設ける仕組みに触れ「国際基準とはかけ離れたもので、かつ依然として入管庁の恣意的な裁量のもとにあり、全ての紛争難民が救われる制度となっていない」と批判した。
「特定技能」の労働者に「滞在1年目から家族帯同を認めるべき」、永住・定住外国人の「地方参政権を認めるべき」との項目には「どちらとも言えない」と答えた。
永住・定住外国人の「地方参政権を認めるべき」との項目には「賛成」と答えた。「日本人と同様に納税し、地域社会にも貢献していることを踏まえ、日常性の意思を反映させて然るべき」と見解を示した。
外国人に対する日本語教育を「国の責任で実施すべき」にも「賛成」を示した。「在留外国人などが増加する一方で、日本語学習ニーズの多様化・高度化に対応する環境整備はまだ十分とは言えない」とした上で、「子どもを含めた外国人などが日本語を学べる機会を充実するとともに、地域における多文化共生社会を実現するための取り組みを政府に提言している」と述べた。
それ以外の項目には全て「どちらとも言えない」と答えた。特定技能の労働者の滞在1年目からの家族帯同について「外国人家族への教育費や医療費など、国が負担するコストについても様々な指摘がある」と述べた。入管法案については「在留を認めるべきものは適切に保護した上で、国内で重大な犯罪を犯したことのある外国人については厳正に対処すべき」と認識を示した。
日本維新の会は入管法案を「再提出すべきでない」との項目に「反対」を表明。「紛争避難者を『準難民』として補完的保護の対象とし、難民に準じた扱いを可能とする制度の創設は必要」と説明。その上で、「不法在留の外国人の収容長期化を避けるため、難民認定手続きの申請3回目以降は強制送還を可能とすることも合理性がある」と見解を示した。
「入管施設への収容は司法の判断を必要とし、最長収容期間を設定する」との項目には「賛成」と答えた。「入管施設への収容は、人権を著しく制約しかねないため、例外的な最終手段とすべき」として、「無期限収容のあり方を見直す必要がある」と説明。その上で、「同時に、収容を免れた外国人が強制送還されるまでの管理体制の強化、徹底を図ることは当然」とした。
技能実習制度の廃止については「どちらとも言えない」と答えた。「本来の制度の趣旨に則り、適切に運用されることが不可欠」とした上で、「実態をつぶさに調査し、外国人労働者が『労働力の受給調整手段』として使われてきた状況や劣悪な労働環境、人権侵害などについては抜本的に是正、改善を行い、適切な受け入れを推進すべき」と述べた。
国民民主党は、「在留資格や住民登録の有無にかかわらず、在日外国人の健康保険加入を認めるべき」との項目に「反対」と答えた。「健康保険を含む社会保障制度は日本国民にとって非常に重要なもの」とした上で、「在留資格や住民登録の有無にかかわらず在日外国人全ての加入を認めるべきという質問は、質問自体が不適切」とみなした。
「現在でも日本での医療保険利用を目的とした訪日、在住のケースも見受けられることから、早急な実態把握と改善策を講じることが必要」と述べた。
唯一、賛成したのは「差別禁止法を制定すべき」との項目だった。「『ヘイトスピーチ対策』への取り組みを拡大し、人種・民族・出身などを理由とした差別を禁止する法律の制定など、国際人権基準に基づき、差別撤廃に向けた取り組みを加速する」と述べた。
それ以外の項目には全て「どちらとも言えない」と答えた。技能実習制度の廃止について「実情に問題があるのは事実であり、どのように是正するかが課題」としつつ、「すでに日本の産業界、経済界などに深く組み込まれていることから、即座に廃止することは現実的ではない」との見解を示した。
共産党は、全項目に「賛成」と答えた。
技能実習制度の廃止について「(実習生は)人手不足の労働現場、しかも多くは劣悪な環境下で、安価な非熟練労働を担わされている。ほとんどの場合、職場を替わることもできない」と指摘。
「最低賃金法違反、暴力やハラスメント、強制帰国の脅しなど許されない実態がある」とした上で、「労働者としての権利も基本的人権も保障されていない働かせ方であり、直ちに廃止すべき」と述べた。
さらに「技能実習制度が人権侵害である理由の1つが、家族帯同を認めない点」と指摘し、特定技能の労働者に滞在1年目から家族帯同を認めることについて賛成を表明した。
入管法案については「ウィシュマさん死亡事件をきっかけに廃案にせざるを得なかった重大な問題のある法案を、ウクライナ難民の保護を口実にして、再度提出しようという動きに強い憤りを感じる」と述べ、法案は国際基準に抵触するとして「再提出は許されない」と述べた。
れいわ新選組は、全項目に「賛成」と答えた。
技能実習制度は「米国国務省は2007年以降、毎年、人権侵害状況を非難している」と説明。「国連人種差別撤廃委員会は日本政府に対して勧告を繰り返している」とした上で、「制度は早急に廃止すべき」との見解を示した。
入管法案は「送還忌避罪の創設などは、許しがたい人権侵害」として、再提出に反対を表明した。
入管施設への収容については「行政が恣意的な判断をするのではなく、司法手続きによって行われるべき」との見解を示した。「被収容者が劣悪な環境の中で長期間収容される現状を早急に改善する必要がある」とした上で、「入管職員に対して人権研修を徹底し、収容期間については法律で上限を定めるべき。ウィシュマさんのような犠牲者をこれ以上出すことは許されない」と述べた。
外国人に対する日本語教育については「外国人の社会参画は、日本が共生社会として発展する原動力となるに違いない」として、政府が公費を投入することにより学習機会を保障すべきだと主張した。
社会民主党は、全項目に「賛成」と答えた。
2021年に廃案となった入管法案は「難民申請をしている外国人でも強制的に母国に送還されることや、退去命令に従わない人に罰則を設けるなど、難民条約違反」と指摘。「ロシアのウクライナ侵攻による難民保護にこじつけて再提出することは許されない」と見解を示した。
技能実習制度は「実態は安価で使い捨てのできる労働力となっている」とした上で、「暴力、搾取など人権侵害が深刻。制度は廃止し、労働者として身分保障を整えた新しい制度にすべき」と述べた。
永住・定住外国人について「外国籍であっても自治体の住民として生活し、納税を始めとする一定の義務を負っている人々が住民自治の担い手になることは当然」とした上で、地方参政権を認めることに賛成した。
在留資格や住民登録のない在日外国人の健康保険加入について「人道的な観点から、条件を緩和すべき」との認識を示した。
NHK党が唯一、「賛成」と答えたのは、入管法案を「再提出すべきでない」という項目。「『補完的保護』という言葉の定義が曖昧」と指摘した上で、「難民認定手続きで難民妥当性を否定された者が補完的保護の対象から外され、人道配慮を要する(難民条約で定義された)難民が保護を受けられなくなることを危惧する」と主張した。
外国人に対する日本語教育を「国の責任で実施すべき」との項目には、全政党の中で唯一、「反対」を表明した。
「日本語教育推進法は、外国人への日本語学習の機会を促進するのみならず、職場などでの外国人の受け入れのための環境整備も図る機会を提供することを促進する目的もある」と説明。「外国人の日本語能力以上に問題となるのは、日本語教育者や国や自治体と企業とのギャップが大きいこと」との認識を示した。
NHK党は自由記述欄に「帰化制度に関して改善を図りたい」との考えを示した。「思想条件に関して、例えば10年後に再審査を行うなど、国家の安全保障にも関わることなので、念には念を押すような制度とするべき」と説明した。
〈取材・文=金春喜 @chu_ni_kim / ハフポスト日本版〉
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