放送開始から26年を迎えたNHK Eテレの赤ちゃん向け番組『いないいないばあっ!』。全国の育児中のご家庭の多くで親しまれていますが、我が家も例外ではありません。
2歳3カ月になる娘は朝も夕もなく『いないいないばあっ!』に夢中です。リアルタイム試聴では間に合わず、毎日録画して見るようになり、それでも飽き足らず購入したDVDは8枚になりました。登場キャラのワンワン、うーたん、じゃんじゃんらのぬいぐるみや人形を片手におままごとに励んでいます。登場する女の子が大根を抜くシーンがあれば、冷蔵庫から大根を持ってきて「うーん!」と抜く真似をしています。
なぜ『いないいないばあっ!』は、ここまで、子供を夢中にさせるのでしょうか。娘と一緒に毎日、親子で番組を見ながら気になっていたある日、娘の一時保育をお願いしている施設でたまたま『いないいないばあっ!』の話題になりました。「ワンワンを演じてるのは、『たんけんぼくのまち』のチョーさんなんですって」と教えてもらいました。
『たんけんぼくのまち』といえば、1984年にスタートした小学3年生向けの教育番組で、僕も小学生のころによく見ていた記憶があります。まさか、自分が子供時代にテレビでよく見ていた人が、Eテレの赤ちゃん番組で現役だったと知ってうれしくなりました。
ここは、是非、チョーさんに話を聞いてみたい。その一心でNHKに取材を申し込むと、5月下旬、東京・渋谷のNHK放送センターのリハーサル室でインタビューができました。僕が『たんけんぼくのまち』を見ていた当時は20代だったチョーさんも、現在は64歳。だいぶ印象も変わったのでは?と思っていました。『いないいないばあっ!』のリハーサル直後、青いジャージ姿で部屋に入ってきたチョーさんのはつらつとした笑顔は、『たんけんぼくのまち』と変わっていませんでした。
放送開始当時から『いないいないばあっ!』でワンワンを演じて実に26年。『たんけんぼくのまち』を見ていた子ども達が大人になって、赤ちゃんと一緒に『いないいないばあっ!』を見ていることをどう思っているのか聞いてみました。
コロナ禍で育児中の皆さんへのメッセージをもらえないか聞いてみたのですが、チョーさんは「メッセージなんて、とんでもないですよ」と謙遜しました。ワンワンもチョーさんも「もう本当にみんなと一緒だから」ということでした。
「大変だけど、でもきっといいことあるよ。きっといいことあるって信じてると笑顔になるから。いいこと絶対あるから」
そう思って一緒にやっていこうと呼びかけました。26年間、ワンワンとしてひたすら赤ちゃんと保護者に向き合ってきたチョーさんならではの心のこもった言葉。役者としての強いプロ意識を感じました。
―― 『いないいないばあっ!』の放送開始から26年が経ちましたが、今振り返ってどう感じていますか?
もう本当にあっという間ですね。走馬灯のように、子どもたちの前を通り過ぎていくわけですよ。『いないいないばあっ!』を見て育ったお子さんが親になり、子どもと一緒に、また『いないいないばあっ!』を見るようになる。おばあちゃんが「私もあなたも、これを見てたのよ」と、赤ちゃんを育てるママに言う。「3世代、見てますよ」というのを、おばあちゃまやお母さんからのおたよりで知るわけですよ。そうやってぐるぐるずっと、もう過ぎていきました。
――僕らの世代ですと、チョーさんと言うと『たんけんぼくのまち』の印象が強いんです。「ワンワンはチョーさんが演じている」という話を聞いて、家族でびっくりしたということがありました。
そうですね。皆さんびっくりしますね。たとえばパパが「ふーん、ワンワンが好きなんだ」って番組を見てて、ママが「これ、チョーさんっていう人がやってるらしいよ」って言うと「え!」って食いつきが全く違ってくるらしいです。面白いですよね。
――『たんけんぼくのまち』も「思い出に残る学校放送番組」の5位に選ばれて、再放送されるなど注目が集まっていますね。
嬉しい限りです。最初にやったのは38年前ですからね。そのとき見ていた8〜9歳だった子も今は、40代後半ですよ。
――そうですよね。僕は現在46歳ですが、ちょうど放送が始まったときに小学3年生でした。
10年前までは30代だったんですよね。そうなんです。だから一緒にその子たちもだんだん年を重ねていくわけですから、それはもう本当、感慨深いですよね。
――教育番組って試聴者は何歳から何歳っていう期間で、人の生涯でも一時期だけなんですよね。それがスライドして試聴者がどんどん交代していくというイメージがあります。
『たんけんぼくのまち』を見ていた子どもが成長して大人になって、ワンワンをふと見たときに、「あ、一緒だ」って話題を共有する。たまたま『たんけんぼくのまち』の再放送をお父さんやお母さんが見ていると、子どもが来て「あれ、ワンワンの声?」って話題になる。そうやって親子の中で共有されていくのだとしたら、すごいなと思いますよね。
ただ、視聴者の子どもたちも大きくなって、ふと思い出すことがあるわけです。たとえば、この間の「25周年スペシャル」のときに埼玉栄高等学校で撮影しました。高校生で、もう番組を絶対忘れていたはずの子たちのところにワンワンが行った瞬間に「ワンワンだ!」って言ってくれるわけですよ。
男の子たちも「すみません。ワンワン、ちょっと触らせてください」とかスッと言ってくるわけですよ。親近感があるからそう言ってくれると思うんで、嬉しいですよね。2歳のころに見ていた記憶があるわけではないから、どっかでふとワンワンを見かけたり、そういう話を聞いてたりするんでしょうね。
――この2年で新型コロナウイルスの感染が広がって『いないいないばあっ!』の撮影であったり、日本各地でステージ公演する『ワンワンわんだーらんど』が中止になったり、いろいろなご苦労もあったかと思います。実際に現場はどんな感じでしたか?
『いないいないばあっ!』の撮影に関してはNHKの規定があって、まずソーシャルディスタンス。普段のときからマスクをする。タッチとかしないようにしよう。小道具とかも使いまわしをスタッフ等でしないようにしようとか、そういうマニュアルに合わせてやっていきました。
――小さいお子さんがたくさん集まってワンワンと一緒に遊ぶ姿を撮るというのは難しくなりましたね。
残念なことに、まだできないですね。
――ステージ公演でワンワンが会場におりて子どもたちと触れ合うというのも難しいですよね。
コロナ前のようにステージと客席を往復しながら、ワンワンが子どもたちに実際にタッチして「触れ合う」ってことができなくなりましたね。また、呼びかけにしても、以前はステージから客席に「こんにちは」と呼びかけて、子ども達から「こんにちは」と声が返ってくる。「こうやって遊ぼうね」とワンワンが言って、「わー」とか歓声が上がる。一緒に遊ぶっていうのが『わんだーらんど』のコンセプトだったんですが、それができなくなったので四苦八苦しました。現在は「アクションで遊ぼう」っていう形になりました。
――「2階のみんな、手をあげて!」などと呼びかけるようになった?
そういうことです。声を出すのではなく、ポーズを遊びの中に入れていく。一緒に遊ぶのもアクション重視になりましたね。
――コロナ禍で困難なこともあるけど、工夫して番組やイベントを続けるという感じになったということですね。
はい。この方法で極めていこうと。最善の面白い盛り上がり方をこれからも追求していく。制限があるんだったら、いろんな知恵を出し合って公演を作っていこうという形ですね。
――2021年4月には1年4カ月ぶりとなる『ワンワンわんだーらんど』が大分市で開かれました。公演の終盤に「いろんなことあるけどきっと大丈夫。いつも一緒だよ」とワンワンが話すシーンがありましたが、コロナ禍で大変な思いをされているご家庭やお子さんが多いことが背景にありますか?
そうですね。ただ、素直に「ワンワンはみんなと一緒だよ」「そばにいるよ」という想いです。
――子どもたちと同じ目線というところが重要と。
そうなんです。
――2021年12月26日に放送された25周年スペシャル「ずーっといっしょ」の中で、視聴者のお母様のおたよりに「ワンワンは戦友のように感じている」という声がありました。コロナ禍でも子育てをする保護者の方には、どんなメッセージを送りたいと思いますか?
ないです。メッセージっていうほどの物は、ワンワンにはないんで。そう受け止めてくれるのは、本当に嬉しいんです。でもメッセージというのは、これっぽっちもワンワン自身は思ってない。
――チョーさん個人としてはどうですか?
メッセージなんて、とんでもないですよ。もう本当にみんなと一緒だから。ワンワンも一緒になってるから。辛いのは分かる。一緒なんで辛いし、そう言いながら毎日、毎日を皆さん送ってらっしゃいますよね。「大変だけど、でもきっといいことあるよ。きっといいことあるって信じてると笑顔になるから。いいこと絶対あるから」。根拠はないけど、そうなると信じていれば、そう思うだけで笑顔になるから。それで一緒にやっていこうよっていうイメージですよね。
――なるほど。一緒にやっていこうと。
そう。「みんな一緒なんだよ」っていうことですね。
※チョーさんのインタビュー記事は、まだ続きます。近日中に掲載予定の後編では、チョーさんがワンワンを演じると「心のスイッチが変わる」と述べた件や、今後の番組への思いなどについて聞いています。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
視聴者への「メッセージなんて、とんでもない」。ワンワンを演じて26年、チョーさんのプロ意識が見えた