「女性を営業の部門長にしたが、周囲のサポートが得られるか心配…」。
率直な悩みを打ち明けるのは、TOPIX100(東証1部の時価総額上位100社)のとある企業のトップ。
これに対して、別の企業トップは、自社の工場長に女性を登用した際の事例を共有、現場との丁寧なコミュニケーションで「この工場長を皆で成功させよう」という気運が高まり、周囲のサポートを得ることに成功したと語ったーー。
これは、企業の持続的成長のため、女性役員比率を引き上げることを掲げた「30%Club Japan(30%クラブジャパン)」の「TOPIX社長会」での一幕だという。披露したのは、チェアを務める魚谷雅彦・資生堂社長だ。
「勇気をもらう。自分のところも一歩前に出てやってみようという機会になっている。また、社長会の翌日には、社内で、『うちの会社はどうなっているのか』と、檄が飛ぶそうです。すごくいいことだと思います」
2019年に発足した30%クラブジャパンは、中間目標であった「TOPIX100」の取締役会に占める女性比率10%を前倒しで達成。参加する企業・大学・インベスターメンバーの数も、発足から3年間で2.2倍の72人まで増えるなど、順調な取り組みが続いている。
そして6月15日、第二期となる2022年からの活動方針を発表した。
2030年にTOPIX100の女性役員比率を30%とすることを引き続き目指し、部長級などの管理職にも女性を増やすため、各社が自主的に目標設定することを決定したという。
また、今後は企業・投資家・大学を統合したアプローチを進めることも発表された。具体的には企業と大学が連携しての女子学生を増やす取り組みや、学生に対するキャリア教育、企業と投資家の対話などを進めていくという。
一方で、日本全体では男女の格差を表す「ジェンダーギャップ指数」が世界の国々の中で低迷している。記者会見で、魚谷チェアは、「決して誇れる状況ではない」と現状認識を話した。
その原因として、女性をはじめとした企業のダイバーシティの実現が企業価値を高めることについて、さまざまな研究や分析結果があるが、過程も含めた成功事例の共有がまだ少ないのではないかと指摘。
「男性ばかりだったチームに女性が入ることで今までにないような新商品が生まれたり、イノベーションが起こったという体験が僕自身には明快にある」とし、現場レベルでの好事例をもっと出していくことで、参加企業以外にも効果を波及させ、日本全体でジェンダーギャップを解消する「時間軸をもっと短くしていける」と語った。
また、バイスチェアに就任した永山晴子・デロイトトーマツグループ評議員は、近年、非財務情報開示の議論が活発になってきているとし、「有価証券報告書で、女性の管理職比率を記載するなどの取り組みが始まると見込まれている。変革を後押しする機運は高まっています」と話した。
30%クラブでは、第二期からは「統合的アプローチ」として、意思決定機関のステアリングコミッティーに大学や投資家のグループから代表者が参加するというリーダーシップ体制の強化が行われた。
特に、大学との連携では、「社会に出る前からのジェンアーバイアス払拭とシームレスな人材育成」を掲げている。未来を担う若者たちとどう連携していくのか。30%クラブジャパン事務局長の本多由紀さん(資生堂・ダイバーシティ&インクルージョン戦略推進部長)に、聞いた。
ーー日本企業のジェンダーギャップ解消に向けて、若者にはどのような役割を期待していますか?
本当に、若い世代の力が必要な時代になってきていると感じます。ある企業の社長さんが、男子学生と話して「リスクヘッジとして共働きが必要、経済的にも支え合っていく家庭が理想」という考え方に驚いたと話していました。
若い方の人生観や価値観は今のトップレベルの方々からするとあきらかに違っている。そういった価値観に会社がしっかりと適応していくことが必要で、そこにはイノベーションが生まれる可能性が秘められている。上の世代の価値観を押し付けるのではなく、次の世代の夢や希望を実現することによって、新たな社会づくりも、ビジネスチャンスも見えてくる。我々の世代はしっかり謙虚に耳を傾ける必要があります。
ーー学生から企業が学ぶことや学生へのキャリア教育に加えて、大学のダイバーシティにも企業として関与していくという方針ですね。
私も子どもの親として思うのですが、偏差値や成績など、学生が親や周囲から求められてきたことと、企業に入ってから必要とされるリーダーシップや発想力との間に、大きな分断があると感じています。これまでそこを埋める人が誰もいなかった。なので、大学との連携は、次世代を創るために非常にいい機会になると思っています。
また、特に理系の技術者を必要としている企業は「そもそも入社してくれる女性がいない」というのが悩みの種で、理系の女子学生を増やすことは企業にとっても課題です。大学でも、企業でも、課題は全てつながっていると感じます。
小さい頃から「男の子は理数系」だとか、「女の子のくせに」だとか、何気ない無意識のバイアスや価値観がじわじわと邪魔をしているので、色々な角度から働きかけていく必要があると思います。
第二期では、大学グループからはチェアを務める東大の藤井輝夫総長がステアリングコミッティーに新規メンバーとして参加します。リーダーシップをとって東大自ら変わることに尽力されるということで、一緒に頑張っていきたいと思います。
ーー30%クラブ第二期目標の中では、各社で部長級の女性登用に関して自主目標を設定することが盛り込まれています。資生堂では女性管理職比率が現在37.3%にまで上昇しているそうですね。
ハイレベルな管理職昇格審査では特に、徹底して候補者の中に女性を入れることに取り組んでいます。その時は昇進しなくても、名前が出てくることによって、ポテンシャルがある人材として認知され、プロジェクトを任せてみようといった風に変わってきます。そこに、女性に対する研修の成果や、部分的に参考にできるモデルとなる上司がいて、次のリーダー候補としての育成が始まる。それは大変効果がありますね。
ーー「必ず女性を入れる」というと男性側から「逆差別」「下駄を履かせている」という批判が出るとの話もよく聞かれます。
30%クラブでも発足当初はそうした議論もありましたが、今ではほとんどなくなりましたね。
最近あった社長会での発言に「管理職の登用にあたって、これまで自分は部下の何を評価してきたのかと振り返ってみたが、マネジメント力って一体何だろうか?」という問いかけがありました。この変化の時代に、マネジメント力だけでイノベーションが起こせるのだろうか?という問いです。事業経験が豊富だからこそ、むしろ変えられないことがある。そういう発想に立った時に、やはり求めるべき人材の要素が変わってきているのではないかと。
会社の成長のためにダイバーシティ&インクルージョンに取り組んでいるのであって、女性の福利厚生では決してない。今まで通りにやっていたら、今まで通りの人材で、今まで通りの事業が再生産されるだけになっていまう。その結果に課題がある。ならば、異なる性質のものをどう活かしていくかというところに目線は既に向いています。
理屈だけではなくて、今まで自分たちが信じていたものが、変わっていることに気づかなければいけない。それも若者との対話からの発想だったそうです。そう感じていると、必然的に女性を含む多様なメンバーが次のリーダー候補としてエントリーされてくるということだと思います。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
日本のジェンダーギャップ「決して誇れる状況ではない」。企業の女性役員比率アップを目指す30%クラブ、次なる目標を発表