東急ハンズの公式Twitterが6月12日、同性愛者を侮辱するような文言を含む投稿をし、批判が寄せられている。
ツイートされたのは、「ゴリラゲイ雨」という言葉。多くの人が模倣して広がる「インターネットミーム」として、SNSに相次いで投稿されており、東急ハンズは批判を受けて同日に削除した。
ネットミームは言葉遊びや画像ネタなど、ユーモアとして捉えられている側面があるが、中には差別的な内容や偏見が背景にあるものも存在する。その暴力性に気づかないままインターネット上で投稿、拡散されることも少なくない。
性的マイノリティに関する情報を発信する『fair』代表理事の松岡宗嗣さんは、今回の投稿について「“ネットミーム”という名前のように『カルチャー』として正当化されがちですが、同性愛嫌悪による侮蔑的なネタです。拡散され続けることで、同性愛は嘲笑しても良いという空気が温存され、いじめやハラスメント、ヘイトスピーチなどに繋がっていく可能性があります」と問題を指摘する。
東急ハンズの公式アカウントは6月12日、「私がいるところにはゴリラゲイ雨は来てません!ゴリラゲイ雨が来たらちょっと困るけど、ゴリラゲイ雨を見てみたい気もする。……はい、ゴリラゲイ雨って言いたいだけです」と投稿。
その言葉は「ゲリラ豪雨」の言い間違いから発生したとされ、以前からTwitterのトレンドに上がることがあった。この日も各地で局地的な雷雨が発生しており、トレンド入りしていた。
東急ハンズの広報は、Twitterの運用担当者がトレンドに便乗する形で、深く考えないままツイートをしたと説明。「投稿に差別的な意図はありませんでした」と釈明する。Twitterアカウントは広報の所管だが、ツイート自体は他部署から選抜されたメンバーが担当しているという。
投稿には「同性愛者に対して差別的」「笑いのネタにするのが面白いと思っている」といった批判が集まり、東急ハンズはツイートを削除。
「元ツイートに多数のお叱りをいただいており、不快に受け止められた方に謹んでお詫び申し上げます。差別的な意図は念頭になく投稿したものですが、そのような文脈で使用されることもある単語であるとの認識が不足しておりました。誠に申し訳ございません」と謝罪した。
ツイートの削除に対し、ネット上では東急ハンズ側を擁護する人たちもいた。言葉遊びから生まれたインターネットミームだとした上で、「差別的意図はなく、謝罪する必要はない」「批判は言葉狩りではないか」といった意見もあった。
一方、ゴリラを使ったコラ画像や、同性愛を嘲笑するコメントを添えた投稿も少なくなく、「差別的なニュアンスを含まないネットミームと解釈するのは苦しい」「あからさまなヘイトスピーチよりも、周囲に笑ってもらえる冗談として使えるネタだという認識そのものの方がグロテスク」といった声も多い。
また東急ハンズは2013年にも、男性同性愛者への差別用語を思わせる投稿をしている。広報によると、今回と2013年のツイートは、同じ担当者が投稿したという。「今回のご指摘を受けて、当時のツイートを初めて確認し、看過できない内容でした。この投稿に至った経緯を確認するとともに、二度と同様の投稿を起こさないよう、徹底を図ります」とし、ツイートを削除した。
東急ハンズの広報担当者は、ハフポスト日本版の取材に「不適切な表現を用いた投稿をし、多くのお叱りを頂きました。差別的な意図は念頭になく投稿したものではありますが、発信に当たっての確認が不十分でした。差別的な意図があったかなかったかの問題ではなく、不適切な表現を用いた投稿があったという事実を、重く受け止めています。再発防止のため、公式情報の適切な発信を徹底するため、今回の経緯をしっかり振り返るとともに、 体制、運用などについて必要な改善、強化を図ってまいります」としている。
同性愛者などに対する差別や偏見が背景にあるインターネットミームや、それが企業などによって拡散されることは、どういった問題があるのか。
『fair』代表理事の松岡さんは、「企業が自社のPRのために同性愛嫌悪(ホモフォビア)に基づく侮蔑的なネタを使うことは、同性愛者を嘲笑しても良いというメッセージを発信してしまっており、非常に問題です。こうした態度は、いじめやハラスメントなどに発展していく危険性もあります」と説明する。
同性愛者を揶揄するような表現について、松岡さんは「『ゴリラ』と『ゲイ』という言葉を組み合わせ、それらのイメージを『おかしい』『面白い』と嘲笑する背景には、同性愛を劣位に置く差別的な意識があります」と指摘。
「この言葉自体には深い意味はなく、同性愛を差別するつもりではない」「インターネットミームは、ネットの文化的なものだ」という意見もあるが、ミームという言葉で表現されるほど、集団的、連鎖的に繰り返されてきたという側面もある。
松岡さんは「『深い意味がない』ことが問題の根深さを表していて、それはつまり、単に『同性愛的な要素や属性そのもの』を笑っているということになります。また、インターネットミームという名前のように、こうした問題が『カルチャー』として正当化されがちですが、差別的な背景に基づく、単なる同性愛嫌悪的(ホモフォビック)で侮蔑的なネタであることを認識する必要があると思います」と話す。
その上で、松岡さんは今回の件について「企業が公式アカウントで同性愛嫌悪的なネットミームを使うことは、同性愛者を嘲笑しても良いという認識を広げることになります。こうした流れが放置されることで、差別や偏見が固定化されたり、『憎悪のピラミッド』が示すような、学校でのいじめや職場でのハラスメント、ヘイトスピーチやヘイトクライムに発展していく危険性があります」と指摘。
また、東急ハンズの「不快に受け止められた方に謹んでお詫び申し上げます」「差別的な意図は念頭になく投稿したもの」といった謝罪が、受け取り手に責任を転嫁する「ご不快構文」だという批判もある。
松岡さんは「そもそも差別は『悪意』のあるものに限らず、『意図』がなければ問題がないわけでありません。その上で、もし本当に差別する意図がなかったのであれば、性的マイノリティが置かれる差別の問題に対する認識が欠如しており、企業として人権問題に対するリスクや認識の甘さがあると指摘せざるを得ません」と話す。
東急ハンズは、行動規範に基本的人権の尊重を明記し、3月にも全従業員を対象にLGBT理解促進をテーマにした研修を行っているという。松岡さんは「6月は、性の多様性に関する人権課題に目を向けるべき『プライド月間』です。ツイートした担当者レベルだけでなく、企業として今回の件を重く受け止めて、全社的に、取り組みをより進めてほしいです」と語る。
今回の件に限らず、インターネット上には日々、同性愛者を侮蔑するような言葉やコンテンツが多く投稿されている。
例えば『ニコニコ動画』ではゲーム『FINAL FANTASY X(ファイナルファンタジーX)』のキャラクターをゲイとして揶揄する動画が数多く投稿されており、ゲームの販売元であるスクウェア・エニックスの著作権侵害の申し立てにより、6月6日に削除された。そのほかにも、アダルトビデオに出演した人がキャラクター化され、嘲笑の対象になっているものをはじめ、問題のある動画が残ってしまっているのが現状だ。
差別的なインターネットミームが広がる原因について、松岡さんはプラットフォーム側の責任もあると指摘し、「運営側が削除するなど、積極的な対応をしていってほしい」と話す。Twitterに対しては「同性愛に対する侮蔑的なインターネットミームがトレンドにあがっている時は、トレンドから削除してほしい」と語る。
一方、投稿を全て差別的な文脈だと判断するのは、難しい側面もあるという。「差別的な表現が溢れていることを認識した上で、不適切なものは削除するなど、対応を進めてほしいと思います。同時に、今回のようにその都度、問題を提起し、社会全体の認識を変えていく必要があります」と話す。
<取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>
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“同性愛者を侮辱“する投稿で物議。東急ハンズの見解は?過去にも、性的マイノリティ差別的な投稿していた