「労働者が、人間として安心して生活し、働ける社会を」ーー。
過重労働や賃金不払い、暴力や妊娠中絶の強要…。外国人技能実習生に対する人権侵害が後を絶たない中、技能実習制度の廃止を求める動きが全国に広がっている。
「技能実習制度!」「ノー!」
「奴隷制!」「ノー!」
6月12日昼、東京・上野。雨が降りしきる中、技能実習生や支援者ら約200人がデモ行進し、外国人技能実習制度の廃止を求めて声を上げた。
シュプレヒコールのほか、労働者の保護を訴えるスペイン語の歌声も響いた。沿道の店のスタッフたちが店外に出て、デモの列に視線を送っていた。
デモは、NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)など全国の団体やネットワークでつくる「外国人技能実習制度廃止!全国キャラバン」実行委員会が主催した。
キャラバンは5月下旬に発足。制度廃止を目指し、これまでに43都道府県で街頭スタンディングなどの活動を繰り広げてきたという。
技能実習生は、外国人技能実習制度を利用して日本に在留する人たちを指し、約35万人に上る(2021年10月時点)。
制度の目的は、「人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識の移転による国際協力を推進すること」とされ、「労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」と法律で定められている。
だが現実には、企業側にとっては「労働力の補充」、実習生にとっては「出稼ぎ」が実態とみられ、建前と本音が乖離していることが繰り返し指摘されてきた。
制度上、母国の送り出し機関を通じて来日する仕組みになっており、仲介手数料や教育費を支払うために多くの実習生が借金を背負っている。
さらに、転職が原則として認められていないことも重なり、実習生が人権侵害にさらされやすい構造的な問題がある。
東京都内で行われたデモ翌日の13日、全国キャラバンの実行委は岸田文雄首相ら政府に対し、技能実習制度の廃止を求める要請書を提出した。
要請書では、実習生たちが来日の際に多額の借金を背負ったり、転職の自由が認められなかったりという構造的な問題があること、それにより実習生が権利侵害に対して脆弱な立場に置かれていることを指摘。2022年度内での技能実習制度の廃止を求めた。
移住連の共同代表理事の鈴木江理子さんは、要請書の提出後にあった記者会見で「(外国人労働者の受け入れに関する)他の制度がないから、あらゆる産業が技能実習制度に依存しなければいけない状態になっている。それによって、技能実習生本人だけでなく家族や受け入れている企業も、制度の犠牲になっている」と指摘。
「この制度を続ける限り、適正化などあり得ません。今こそ政治が決断すべきです」と訴えた。
移住連の代表理事の鳥井一平さんは、「現実に直面しているのは(産業の)担い手の問題。一人の農家や一人の社長では解決できない問題が、技能実習制度のもとで個人個人に責任転嫁されてきたんじゃないか」と疑問を呈した。
その上で、「一次産業や製造業などあらゆる産業の担い手をこれからどうしていくのか、産業政策を考えていかなければならない」と強調した。
「技能実習」と、外国人労働者の就労拡大に向けて創設された「特定技能」の両制度に関し、古川禎久法相は1月の年頭所感で「これらはちょうど今見直しの時期を迎えています。この際、大胆に見直し作業に取り組みたい」と明言した。
さらに、技能実習制度をめぐって「本音と建前のいびつな使い分けがあるとのご意見、ご指摘にも正面から向き合わなければなりません」として、見直しに前向きな姿勢を示していた。
古川法相はその後、これらの制度の見直しを検討する勉強会を設置している。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「奴隷制はいらない」技能実習制度の廃止求め、政府に要請。全国で運動広がる