コロナ禍でストップした旅行が、徐々に回復の兆しを見せています。そして旅に戻ってきた旅行者が、重視するようになっているのがサステナビリティです。
オンライン旅行会社エクスペディアグループが2022年に実施した調査では、90%の人たちが「旅行をする時により持続可能な選択をする」と回答。5人に2人が「サステナブルではない旅先や交通手段を選ばない」と答えました。
人の移動が制限されたコロナ禍で、大気汚染や温室効果ガスの減少が報告されたことを考えると、この傾向は驚きではないかもしれません。
エクスペディアグループのアディティ・モハパトラ氏は、「旅行者にサステナブルな選択肢を提供することは、私たち自身の責任だと考えている」と話します。
世界的な旅行会社である同グループは、旅行をよりサステナブルにするためにどんな取り組みをしているのでしょうか。
ハフポスト日本版はグローバルソーシャルインパクト&サステナビリティ副統括責任者であるモハパトラ氏に、アメリカ・ラスベガスでインタビューしました。
――エクスペディアの調査では、90%の消費者がサステナブルな旅行を求めている一方で、70%の人たちが何から始めていいかわからないと感じていると答えています。エクスペディアはどのような形で、サステナブルな旅行の取り組みをしているのでしょうか?
私たちが取り組んでいる一つが、サステイナビリティに関する情報を早いスピードで旅行市場に提供して、持続可能性のための動きを加速させることです。
その方法の一つとして、予約サイトの選択肢に電気自動車の充電スタンドなどを加えて、旅行者が持続可能な取り組みをしている宿泊施設や航空業界を選べるようにしています。
さらに「多くの消費者がサステナビリティを重視するようになっている」ということを宿泊施設や航空会社などに伝えて、彼らに持続可能性の取り組みを増やすよう促します。
その上で重要なのが、業界で統一した情報を提供することです。私たちはそのために「トラバリスト」に参加しました。
トラバリストは、他の旅行会社と提携できる場所です。彼らと協力することで、旅行者により一貫性のあるサステナブルな旅の情報を提供できます。
―― 「トラバリスト」をヘンリー王子とともに立ち上げたブッキング・ドットコムは、ライバルでもありますね。
他社とは競争できる部分がある一方で、協力できることもあると思っています。その中でもサステナビリティは私たちが一緒になれるユニークな場所です。
旅行者はホテルや航空会社、エクスペディア、Googleなどに、一貫した情報を提供するよう求めており、トラバリストで旅行業界の人たちと提携することで、その要望に応えられると思います。
サステナビリティは一企業だけでは実現できないことであり、大きな変化を起こすためには、協力が欠かせません。
私はコーポレートサステナビリティの分野で長く働いてきました。こういった協力は旅行業界にとって新しい取り組みですが、多くの業界で協力が鍵です。
ですから、この分野ではライバル企業が協力し合うのを目にすることになると思いますし、私たちもイノベーションなど様々な面で協力していきたいです。
私たちはトラバリストの他にも、ユネスコのサステナブルトラベル誓約にも署名していて、賛同する宿泊施設に、サステナビリティに関するアドバイスを提供しています。
現在、エクスペディアのサイト上で、宿泊施設がサステナブルトラベル誓約に署名しているかどうかが表示されるようになっています。
今後は検索項目にも加えて、旅行者がこの誓約に賛同している宿泊施設を選びやすくする予定です。
他にも、個人の炭素排出量の可視化や、サステナブルな選択肢のパーソナライズ機能など、様々な面で持続可能性の選択肢を増やしたいと思っています。
―― 気候変動は旅行業界にも影響を与えていますか?
もちろんです。気候変動は、エクスペディアグループも含めた旅行業界全体に、影響を与えている問題です。
将来の世代も旅行を続けられるようにするために、旅行業会は自分達の問題として気候変動に取り組んでおり、セクターを超える提携が必要です。
私たちは旅行テクノロジー会社として初めて、国連の「観光における気候変動対策に関するグラスゴー宣言」に参加しました。
グラスゴー宣言に署名すると、気候変動対策についての行動計画を12カ月以内に策定し、実践する必要があります。
しかし、それだけではありません。グラスゴー宣言では、小規模ツアーオペレーターから大きな旅行会社まで、業界全体が協力して気候変動に取り組むことができます。
グラスゴー宣言以前に、そういった場所はなかったので、この取り組みにとてもワクワクしています。
――旅行では多くの人が飛行機を利用します。その一方で二酸化炭素排出量の多さから「飛び恥」という言葉も生まれるなど、飛行機の利用を否定的に捉える見方もあります。旅行での飛行機利用をどう考えればいいでしょうか?
飛行機が、二酸化炭素排出量の多い交通手段であるということに疑いの余地はありません。その一方で良いニュースもあります。
航空業界では、よりサステナブルな航空機を作るコラボレーションや、サステナブルな燃料を使おうとする取り組みなど、ユニークな協力がかつてない規模で進んでいます。
こういったテクノロジーはまだ初期段階で、もっと投資が必要ですが、大きな可能性を秘めています。多くの航空会社が、この分野への投資を促す援助を政府に求めています。飛行機をよりサステナブルにするためには、そういったテクノロジーを大規模に適用するための、構造変化が必要です。
また、飛行機の二酸化炭素排出量を表示する取り組みも徐々に一般的になりつつありますが、旅行者一人一人にとって、その数字の意味を理解するのはまだ難しいと思います。
二酸化炭素排出量の表示は、食品カロリーと比較しやすいのではないでしょうか。
私たちの多くにとって食事のカロリーは理解しやすい一方で、例えば、50キログラムの炭素排出量が何を意味するのかを理解するために、もっと多くの情報や教育が必要です。
エクスペディアのような会社は、旅行者にそういった情報をわかりやすく提供する方法を考えなければいけません。
単に数字を伝えるのではなく、「このフライトは一般的なフライトより50%炭素排出量が少ない」など、選択の決め手となる有益となる内容を伝えられればと思っています。
そのためにも、データの正確性が重要になります。私たちはより正確なデータを集め、それを旅行者がより選択しやすいよう、意味ある方法で提示したいと思っています。
――サステナブルな旅行は、旅先にも良い影響を与えられると思いますか?
はい。エクスペディアの調査から、旅行者たちは、環境面だけではなく、経済的な面や社会的な面でのサステナビリティも重要視していることがわかっています。
旅行者たちは、よりインクルーシブなビジネスを選ぶなど、様々な面からサステナブルな選択をするようになっています。
私たちも、必要な情報を提供することで旅行者をサポートしたいと思っています。
私たちがサステナビリティにより力を入れるのは、消費者の興味が非常に高いからだけではなく、会社としての責任だと思うからです。
私たちが販売する旅行は、気候変動対策への責任を担っています。よりサステナブルな選択肢を提供することで、私たちは会社としてカーボンフットプリントを減らすことができると思います。
(取材協力:エクスペディアグループ)
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「サステナブルな旅行」とは? 推進するエクスペディアの責任者に聞いてみた