“化石燃料に9割依存”の電力会社が10年で「グリーン」に転身できた理由。デンマークのオーステッド社に聞く

オーステッドがイギリス東部沖に開発した世界最大の洋上風力発電所「ホーンシー1」

洋上風力発電で世界最大手のデンマーク企業「オーステッド」。

今でこそ、企業の持続可能性を評価する報告書で4年連続「世界で最も持続可能なエネルギー企業」に選出されている同社だが、もともとは事業のほとんどを化石燃料に依存する電力会社だった。しかし、2009年から一転「脱化石燃料」を図り、わずか10年間で電源構成の約90%を再生可能エネルギーへと転換させた。

華麗なる「大転身」の裏には、一体どんなストーリーがあったのだろうか。

同社のアジア太平洋地域・市場開発責任者であるイーチュン・シューさんに話を聞いた。

イーチュン・シューさん

ーー化石燃料依存からの脱却、そして再エネ事業への転換に舵を切った背景には、何があったのでしょう。

全ての始まりは、2009年に「85:15」という戦略を打ち立てたことでした。当時、私たちの電源構成は、石炭火力を中心とした火力発電が約85%で再エネが15%でしたが、この比率を2040年までに逆転させることを掲げたのです。

決断の背景には、社会における気候変動への関心の高まりがありました。とりわけ、2009年にデンマークのコペンハーゲンで開催された気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)は大きなターニングポイントとなりました。デンマークの石炭依存率がヨーロッパでも特に高いことに対して、国民の問題意識が一気に高まったのです。時を同じくして、EUや、当時弊社の株の過半数を握っていたデンマーク政府も再エネ推進に向けた明確な目標を掲げました。

こうした社会からの要請から、私たちも「変わらなければならない」という危機感を強くし、グリーンなエネルギーへの転換に舵を切る決意をしたのです。

ーー ところで、再エネの中でも、なぜ洋上風力に目をつけたのですか。

私たちは小規模な電力会社6社が2006年に合併して生まれた企業だったため、当時は多方面に小規模な事業を抱えていました。その一つに洋上風力発電事業がありました。

洋上風力にポテンシャルを見出したのは、何よりもデンマークの地理的な制約が理由です。国土が狭い上に山岳地帯が多く、陸上で発電に使える土地は限られています。ですから、必然的に海上に目を向けざるを得ませんでした。その上、デンマークの沖合では、強風が安定して吹いています。したがって、ベースロード電源(編注:季節、天候、昼夜を問わず、一定量の電力を安定的に供給できる電源)になりうると考えたのです。

ーー 同じように、山岳地帯が多く平地が少ない日本にとってもヒントがありそうですね。しかし、主力事業である化石燃料による火力発電からの脱却は決して容易ではなかったと思います。再エネ、そして洋上風力の推進に向けて、具体的にはどのようなことをしたのですか。

洋上風力発電は、資本集約型の事業で、火力発電に比べてもより大きな初期投資が必要になります。その上、当時は技術もまだ未熟で、発電コストも高い状況でした。コストダウンを図るには、技術革新と量産化、つまり発電所を大規模化して“規模の経済”を働かせていくことが大変重要でした。そして、そのためには巨額の投資が必要で、いかに資金調達を行うかが最も重要な課題だったのです。

そこで私たちはまず、所有している事業や資産、たとえば小規模な事業や自社ビル、傘下にある会社などを次々と売却していきました。これには、石油やガスの生産施設も含まれます。

さらに、ビジネスモデルも転換しました。新規発電所を開発するための資金を用意するために、稼働を開始した段階で、発電所の権利の半分を売却することにしたのです。こうすることで、売却して得た資金を新規の洋上風力発電所に投資することができるからです。私たちはこのビジネスモデルによって、当時所有していた洋上風力発電所の半数について、その権利を売却しています。また現在もこのビジネスモデルを適用することで、発電所の運営には責任を持って携わりつつ、より多くの新規発電所の開発を手掛けることが可能になっています。

こうして、2010年から2019年の間に再生可能エネルギーに投じた金額は、総額1930億デンマーククローネ(現在の日本円で約3兆5千億円)にも及びます。

並行して、火力発電所はその半数を閉鎖し、残りは木材ペレットなどを燃料とするバイオマス発電所へと転換させていきました。

こうした事業改革で、2017年には石油・ガス事業を完全に売却しました。この時、社名を「オーステッド」に変更しています。もともとの社名「ドンエナジー(DONG Energy)」は「デンマーク石油ガス(Danish Oil and Natural Gas)」の頭文字から取ったものでしたが、この社名は、もはや私たちにふさわしいものではなくなったからです。

2019年にはついに、当初の目標だった2040年を大幅に前倒しして、電源構成の86%を再エネにすることを達成しました。来年2023年には石炭火力から完全に撤退することを予定しています。

石炭火力発電からバイオマス発電に転換したデンマークのアベドア発電所

ーー 洋上風力発電事業への集中投資によって、現在のリーディングポジションを築くことができたということがよく分かりました。一方で、脱炭素社会への移行では、化石燃料関連の事業に携わっていた労働者が雇用を失うなど不利益を被ることがないよう「公正な移行」を実現していくことが重要です。オーステッドで、もともと化石燃料の事業に携わっていた従業員の雇用はどうなったのでしょうか?

化石燃料の事業に携わっていた従業員の多くは新しい組織に移行しています。

私たちが非常に幸運だったのは、石油と天然ガス事業で働いていたエンジニアに洋上風力事業に移行してもらうことができたことです。過去に従事していた石油・ガス事業の経験が活きる部分もあり、従来のスキルの多くを活かしてもらうことができたのです。

また、バイオマス発電所に転換した石炭火力発電所で働いていた従業員の多くが、転換後も働き続けています。その際にはトレーニングを実施し、スムーズに業務の移行ができるよう支援しています。

ーー オーステッドの「グリーン企業」への転身から、これから脱化石燃料を目指していく企業はどのようなヒントを得られるでしょうか?

私たちの成功には「3つの要因」が欠かせなかったと考えています。

1つ目は、何と言っても、経営リーダーがサステナブルな事業にシフトするという思い切った決断を下したことです。2つ目は、その確固たる決断を持って、サステナブルな事業をビジネスとして成り立たせるために徹底した努力と創意工夫をしたことだと考えています。そして最後が、国民や政府、株主などのステークホルダーの理解と支援です。

私たちは、グリーン化へのプロセスで次のことを学びました。

・現実を直視し、変化する事業環境や社会環境と向き合うこと
・サステナブルな事業のビジョンを定めること
・ステークホルダーと話し合い、協働すること
・確実に実行できる戦略を立ち上げ、遂行すること
・一定のペースでプロジェクトを進捗させ、高い目標に向けて着実に進むこと

こうした教訓は、これから脱化石燃料へのシフトを目指す企業にとっても欠かせないものだと考えています。

インタビューに応えるイーチュン・シューさん

ーー オーステッドは2019年に日本市場にも参入しました。最後に、日本における洋上風力のポテンシャルや課題について教えてください。

日本は四方を海に囲まれているため、洋上風力に非常に適していると考えています。日本政府も、2040年までに洋上風力の案件を30-45ギガワット形成するという目標を掲げています。

ただ、よく指摘されるように、日本近海は洋上風力が盛んなヨーロッパに比べると風が弱いというのも確かです。しかし実際は、日本近海でも風の強さには地域差があり、たとえば北海道の風況は大変素晴らしいと言えます。ただ、北海道の電力需要自体はそれほど高くありません。ですから今後は、洋上風力で発電した電力を電力需要が高い都市部に運ぶための送配電網の整備が求められると思っています。また、より弱い風でも発電できるローター(風車の回転部)の開発等も進んでおり、テクノロジーによって風の弱さをカバーすることも十分可能だと見込んでいます。

今後の課題は、やはりインフラ面の整備でしょう。先ほど申し上げた送配電網の整備や、洋上風力発電所の建設のために基地となる港が整備されているかといった点も重要になります。こうした課題に関しては、これまで多くの洋上風力発電所を開発・運営してきた事業者として、意見を発信していきたいと思います。

今日、ロシアによるウクライナ侵攻によって海外にエネルギーを依存する危うさが浮き彫りになるなか、自国でまかなえる再生可能エネルギーの供給量を増やしていくことの重要性が増しています。私たちがイギリスで運営している世界最大の洋上風力発電所の設備容量は1.2ギガワットあり、100万世帯以上の電力をまかなうことができます。洋上風力は日本にとっても、十分に現実的かつサステナブルな電源となり得ると考えています。

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Haruka Yoshida