2021年に国が難民と認定した人は74人ーー。
出入国在留管理庁の発表によると、2020年よりも27人増え、難民認定制度が始まった1982年以来、過去最多となった。
ただ、日本は国際社会で「難民鎖国」と称されるほど難民認定の数や割合が低水準にとどまっている。難民の支援団体や弁護士団体からは、こうした現状を厳しく指摘する声が上がっている。
難民認定の申請者は新型コロナウイルスの感染拡大で水際対策がとられた影響で、前年比1523人減の2413人だった。
難民認定された74人のうち、ミャンマーでの出身者が4割(32人)を占めた。同国では2021年2月に国軍のクーデターが起き、国軍や警察の発砲などで一般市民の死亡や負傷が発生。「情勢は引き続き不透明」(入管庁)という。
国籍別では、中国(18人)、アフガニスタン(9人)と続く。
入管庁は難民認定審査の「標準処理期間」を6カ月と定めている。2021年は、認定のための一次審査にかかる「平均処理期間」が約32カ月、不服申立ての平均処理期間は約20カ月だった。
こうした統計を同庁が5月13日に発表すると、支援団体などからは「厳しい状況だ」と指摘する声が上がった。
全国難民弁護団連絡会議(東京都新宿区)は入管庁の発表当日に出した声明で「本国の情勢から当然に保護されるべきミャンマーの32人を除いた人数は42人であり、保護されるべき難民が十分に保護されない極めて厳しい状況が続いている」と指摘。
比較的多く認定されたミャンマー人については「報告されている人権侵害の状況に照らしても余りに少ない数字と言わざるを得ない」。2021年8月に首都カブールが陥落し、現在に至るまでタリバンが統治するアフガニスタンの出身者については「難民認定等の決定を待つ人が相当いる」と述べた。
ミャンマー、中国、アフガニスタン以外の出身の難民認定者は16人にとどまる。申請数の多いトルコの出身者が難民認定を受けた例がないことを挙げ、「政治的要素が引き続き影響を与えている」とした。日本政府はトルコとの友好関係を重視し、トルコ国籍のクルド人を難民と認めようとしないとの指摘もある。
審査期間の長さに関しては「(審査の間)申請者のほとんどは非常に不安定な状況に置かれている」とした上で、入管庁から「何ら反省も改善の方策も示されていない」と指摘した。
その上で、「国際的な保護が必要な者が保護を受けられない状況は依然として変わっていない」とし、「難民認定制度の抜本的な改正とともに、運用の改善を強く求めていく」と結論した。
認定NPO法人難民支援協会(東京都千代田区)は18日に声明を出した。
ミャンマー出身者の難民認定が増えた一方、アフリカ諸国からの認定は6人にとどまることから、「様々な国や地域から逃れた人を保護するための包括的な制度改善が求められます」と指摘。ミャンマー出身者についても、認定者よりも不認定となった人が多いことなどから「国際情勢を踏まえた対応とは言えません」と述べた。
審査期間が長期化する傾向については「(審査期間中に)申請者が安心して暮らすことができるよう、在留資格や就労許可、公的支援へのアクセスといった仕組みの確立がより一層重要」と求めた。
日本の難民認定制度では「国際社会における保護対象の広がりを踏まえない、難民定義の限定的な解釈が行われています」とした上で、「国際基準に則った難民認定基準の策定や見直しが行われるべき」と訴えた。
難民認定数が低水準で推移する中、日本は2022年3月以降、ロシアによる侵攻を受けたウクライナ出身者を「避難民」として受け入れてきた。
一方で、有識者らは、ウクライナ以外の国々から日本に退避しようとする人々に対しても同様の対応を取れるよう、支援の拡充を訴えている。
アフガニスタンで迫害を受ける人々を支援する千葉大学の小川玲子教授(移民研究)はその1人だ。
小川教授によると、2000年代に日本政府によるアフガニスタン復興支援の一環として国費で来日した元留学生たちは、今や日本とのつながりを理由に迫害されているという。命が脅かされる状況でも、来日できる条件が整わずになかなか退避できないケースが少なくないそうだ。
2021年にタリバンが政権を奪還して以降、小川教授は来日を望むとあるアフガニスタン人家族への支援策を検討してきた。そんな折の2022年4月、外務省から1通のメールが届き、内容に落胆したという。
そこには▽アフガニスタン出身者には、来日前に留学先か就労先を決めた上でビザの取得を求めるという従来の方針に変更はない▽ウクライナからの避難民の受け入れは、日本政府による「緊急措置」として取り組んでいる▽そのため、他国の人々への対応と比較することはできないーーと書かれていたそうだ。
アフガニスタン出身者とは対照的に、ウクライナからの避難民は来日前に留学先や就労先などが決まっていなくても「短期滞在」というビザの発給を受けて入国できる。
小川教授は「ウクライナからの避難民に対する寛容な支援は、今後の難民受け入れのモデルケースになるでしょう。アフガニスタンを含む他国の人々にも適用できる『スタンダード』になったら」と切望する。
国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチのプログラムオフィサーを務める笠井哲平さんも「ウクライナの難民(*)に対するスピード感ある対応を、なぜ他国の難民には適用できないのでしょうか」と首を傾げる。
笠井さんは、難民が生まれる他国の状況に日本がどう関与しているかを広く知ってほしいと願う。
「日本は、市民を攻撃するミャンマー国軍の関係者を防衛大学校や自衛隊の施設に受け入れてきました。日本はミャンマー情勢に、当事者として関わっている側面があるのです。
『他国で大変なことが起きている』と他人事のように捉えるのではなく、当事者として難民を受け入れる責任が生じていることに、多くの人に気づいてほしいです」
(*)日本政府はウクライナからの避難者のことを「避難民」と呼んでいるが、ヒューマン・ライツ・ウォッチは国外への避難者を一律で「難民」と定義している。
〈取材・文=金春喜 @chu_ni_kim / ハフポスト日本版〉
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ウクライナ避難民支援は「緊急措置」なのか。アフガン難民の支援者が問う「なぜ他国にも適用しない」