『仮面ライダーリバイス』(テレビ朝日系)の制作に携わっていた映画配給大手「東映」社員の20代女性に対し、残業代の未払いがあったなどとして、中央労働基準監督署が同社に是正勧告を出した。
女性や女性が加入する労働組合が4月14日に記者会見を開き、明らかにした。
女性は2020年11月から『リバイス』のアシスタントプロデューサー(AP)となった。それに伴い、残業時間を月70時間とする「固定残業制」が適用され、どれだけ働いても一律料金制になったという。
女性によると、『リバイス』の制作期間中は1日13時間以上働くことが常態化していた。多いときには残業時間が月100時間以上に上り、休職するまでの約3か月間はほとんど休日がなかったと証言する。
女性は過重労働に加え、制作現場でフリーランスの男性スタッフや助監督からセクハラ被害に遭ったと主張。適応障害と診断され、休職している。
女性は長時間労働や残業代未払いについて、労基署に申し立てていた。女性が加入する労組「総合サポートユニオン」によると、違法な長時間労働や残業代の未払いがあったなどとして、中央労基署は東映に対し2022年4月1日までに是正勧告を出した。
東映の広報室は、是正勧告を受けたことを認めた。
その上で、「当該従業員の過去の残業時間等に関しては、同従業員が申し立てた労基署よりすでに公平な判断をいただいており、その判断に基づき対応しています」と主張。「従業員一人を対象とする是正勧告につきましてはすでに改善の報告書を提出済みです」とのコメントを出した。
東映によると、女性が適用されていた「固定残業制」は、同社内の労組との協議を踏まえて2021年中に廃止しているという。
女性は、是正勧告について「労基署から客観的に見ても問題があると認定されたことで、まずは安心しました」と話した。
一方で、「東映から直接連絡はなく、本当に改善されるのだろうかと不安がある」として、「名実ともに働き方改革を行い、真摯に体質改善に向き合ってほしい」と訴えた。
女性は記者会見で、「子ども向け番組の夢を壊す告発が正しいのかとても悩んだ」と明かした。
それでも声を上げた理由について、「社会問題化しなければ、東映が内々で見て見ぬふりをして何も変わらないと思った」と話し、自身の告発によって「同じ業界で傷ついてきた人たちが声を上げやすい空気になってほしい」としている。
総合サポートユニオン共同代表の青木耕太郎さんは、映画制作やコンテンツ産業での過重労働の問題は東映に限らないと指摘する。
「発注元から厳しい納期を押し付けられ、無理を言われても押し返せない構造がある。テレビ局など発注する元請けの意識や責任も問われないといけない」と話す。
「長時間労働や残業代不払いといった映画業界で当たり前になってしまっていることが、社会的に見たら違法であり不当であるということが(是正勧告で)明確になった。東映に限らず、業界全体の労働環境が改善していく方向を目指していきたい」(青木さん)
女性は過重労働のほか、撮影現場で60代の男性2人から性的ハラスメントを受けたとも訴えている。
1人目のフリーランスの男性スタッフからは、LINEで「会いたいです」などと頻繁にメッセージを送られたほか、現場で手を握られることもあったと主張する。
別のフリーの男性助監督からは、2人きりになるため「指導」の名目で呼び出されたり、ロケバスで隣に座るよう命じられたりしたという。
女性は、相談した上司から「あの人(助監督)は若い女の子が現場に来たらうれしくなってすぐはしゃいじゃうけど、根は悪い人じゃないからそんなに責めないであげて」「他の子たちは我慢していたよ」などと諭されたと主張している。
青木さんは、過重労働とハラスメントは同時に起こることが多い問題だと指摘する。
「過重労働でたまるストレスをパワハラやセクハラで吐き出す。企業は被害が起きていることをわかっていても、現場が回らなくなることを避けようとして、認めてしまう土壌がある。ハラスメントに依存している制作現場の風潮があります」
セクハラの告発をめぐって、女性は東映に対し、第三者機関による調査や謝罪、相談対応の改善などを求めている。
一方、東映の広報室は取材に「ハラスメントについては、これまでの団体交渉等において同従業員などから具体的な主張はなされていないと認識しております」とコメントした。
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仮面ライダー制作社員が長時間労働、東映に是正勧告。セクハラ被害も告発