ロシア軍の侵攻を受けるウクライナを助けるために、NATO加盟国から戦車が提供されることになりそうだ。
提供するとみられるのは、ウクライナが配備していて操縦に慣れている旧ソ連の戦車「T-72」だ。かつてソ連と軍事同盟を結んでいた東欧諸国でもライセンス生産されており、多くの車両が残っている。これをウクライナ軍に引き渡して即戦力にしてもらう狙いがありそうだ。
チェコ共和国の公共放送が動画付きでT-72の提供を報じたほか、ポーランドも米軍から最新鋭戦車を購入することが決まったことで、不要になったT-72をウクライナに提供する観測が浮上している。
これまでNATO加盟国は無人航空機や対戦車兵器を提供したものの、ロシアを刺激しないように戦車の提供は控えてきた。しかし、ウクライナの首都キーウ近郊の町ブチャで大量の民間人が遺体が見つかるなど、ロシア軍によるジェノサイドの疑惑が浮上する中で、本格的な軍事支援を決めたとみられる。
これまでの経緯を追いつつ、T-72とはどんな戦車なのかを調べてみた。
チェコ共和国の公共放送がTwitterに投稿した動画には、「T-72」が貨物列車に載せて移動する様子が映し出されていた。
今回の動画は、チェコ公共放送のニュース専門チャンネル「CT24」の公式Twitterが、4月5日に投稿したもの。「チェコ共和国はウクライナに歩兵戦闘車とT-72戦車を納入しました。これはNATO同盟国が合意したチェコ軍の贈り物です」と解説している。
ロイター通信によると、この映像に映っているのは5両のT-72戦車と、5両のBVP-1歩兵戦闘車だという。チェコ国防省の情報筋から、戦車と戦闘車両が送られたことを確認できたが安全上の懸念から、これ以上の詳細は不明だという。
ウクライナのゼレンスキー大統領は3月25日、北大西洋条約機構(NATO)の緊急首脳会議でオンライン演説して、ウクライナの都市を解放するために戦車の提供を呼びかけた。
AP通信によると「あなた方は少なくとも2万両の戦車を持っています。ウクライナに、その1%(200両)をください。譲渡するか売ってください。私たちは明確な回答を得ていません」と訴えていた。
これを受け、NATOもウクライナへの戦車の提供に本腰を入れることになったようだ。
ニューヨーク・タイムズは4月1日、アメリカ当局者の話として、バイデン政権は同盟国と協力して、ソビエト製の戦車を移管し、ウクライナ東部で激戦が続いているドンバス地域におけるウクライナの防衛を強化するという情報を伝えていた。
そして4月5日、ポーランド国防省は、アメリカの「M1A2エイブラムス」戦車の最新バージョン「SEPv3」250両をアメリカから購入する契約に調印したと発表した。
NATO加盟国の中でも、ポーランドは300両を超えるT-72を抱えていると言われており、アメリカから最新鋭の戦車を購入することと引き換えに、T-72をウクライナに提供する可能性が浮上している。
FNNでは4月3日、ポーランド国境地帯で大型トラックで輸送される複数のT-72の姿を捉えていた。
「T-72」はソビエト連邦が開発し、1974年にウラル戦車工場で量産がスタートした主力戦車だ。主砲の口径は125mmで、実用戦車砲では最大の口径を持っている。約20年にわたって生産されて旧ソ連内に配備された。ロシア側もウクライナ側もこの戦車を使っているのはそのためだ。
「堅実な設計と高性能を両立させた普及型戦車」と評されており、ソ連崩壊まで国内でしか使われなかった「T-64」や「T-80」といったハイエンド戦車と異なり、積極的に国外に供与された。
ソ連軍向け配備が始まってまもない1976年には完成品輸出と製造ライセンスの供与が正式に認可。ソ連からは1991年までに推定約5000両のT-72が13カ国に輸出され、加えてチェコスロバキアとポーランドで合わせて約3400両、インドで約2000両、ユーゴスラビアで約650両がライセンス生産された。
1991年のソ連崩壊でT-72を含む旧ソ連戦車の生産数は激減したが、旧ソ連諸国や東欧諸国が余った戦車を売却したことで、世界中に拡散した。2021年現在でT-72は47の国と地域で運用されているという。ウクライナ侵攻ではT-72は、ロシア軍とウクライナ軍の双方が使用している。
かつてソ連を中心とする軍事同盟「ワルシャワ条約機構」に加盟していた東欧諸国でも運用中の国は多い。2021年現在、ポーランドではT-72の輸出型「T-72M1」が358両が現役。チェコでは2018年から86両の「T-72M1」が現役復帰している。
T-72は1992年から2000年にかけて1484両と、国際武器市場で最も多く売買された「世界のベストセラー戦車」だが、西側諸国の評価は必ずしも高くない。というのは1991年の湾岸戦争の際、イラク軍のT-72がアメリカ軍の「M1A1エイブラムス」に防御・火力・射撃精度などで著しく劣っており、一方的な敗北をしたためだ。
それでもベストセラー戦車となった背景には、西側諸国の戦車に比べてコストパフォーマンスに優れていたことがある。西側諸国の戦車を購入できない国や財政的に厳しい国にとっては、十分な性能の戦車とみられていたようだ。
【参考文献】
・月刊「PANZER」2021年9月号所収 藤村純佳「拡散し独自の発展を遂げるT-72」(アルゴノート)
・〈決定版〉ソ連・ロシア 戦車王国の系譜(パンダパブリッシング)
・世界の戦車パーフェクトBOOK(コスミック出版)
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「T-72」とは?旧ソ連製の戦車をチェコがウクライナに提供へ