連載32年目の「こっちむいて!みい子」で、トランスジェンダーの中学生が初登場。その思いとは【作者インタビュー】

「みい子でトランスジェンダーの話を描いてくれるの嬉しい」「描かれ方が素敵」―。

1990年に始まり、現在「ちゃお」(小学館)で連載中のコメディ漫画「こっちむいて!みい子」。主人公・山田みい子の学校生活がハートフルに描かれる同作は1998年にテレビアニメ化し、現在も「ちゃお」で最長連載の看板作品として、人気を集めています。

そんな「みい子」で2021年、トランスジェンダー男性(FtM)の同級生が初登場しました。彼の思いや葛藤を描いたストーリーが、反響を呼んでいます。

「多くの子どもや大人に届いてほしい」との思いから、3月7日まで、「ちゃおコミ」で無料公開されています。

作者のおのえりこさん( @marimiiko )に、多様な性を描こうと思ったきっかけ、伝えたいメッセージについて、インタビューしました。

◆3月7日まで無料公開

トランスジェンダーの思いが描かれたのは、コミックス35巻収録の「なつきという子」という、全3話のエピソードです。

漫画はこちらから↓

(※記事中には漫画のネタバレを含みます。注意してご覧ください)

◆「男の子と仲よすぎ…」「生理じゃないでしょ?」周囲からの視線

みい子が制服を着ていることに驚いた方もいるかもしれません。連載当初は小学4年生だったみい子も、2020年6月号で中学生になりました。

中央に描かれているのが、このエピソードで初登場するみい子のクラスメイト・水原なつきです。

クラスの男の子と仲が良いなつき。ある日、クラスメイトの話題になります。

なつきはいつもプールの授業を休んでいるようで、「生理じゃないよね?」「ずるい」といった声も。ある日、クラスメイトから「なんで毎回プール休むの!?」と聞かれます。

みい子は体調を心配し、「よくねてよく食べてさ〜次のときはいっしょに入ろうよ!!」と語りかけます。

なつきは「女だって思われたくないんだ…」と思いを吐露しました。

なつきは自分の家に来てくれたみい子に対し、自分が男であると打ち明けます。

驚きながらも、なつきの気持ちに共感するみい子。

一緒に服を買いに行こうと誘います。

◆理解・支えてくれる人がいる希望

なつきはなぜ、みい子に打ち明けようと思ったのでしょうか。

ストーリーが少し戻りますが、カミングアウトの1週間前、みい子となつきは兄弟のお迎えの際、保育園でバッタリ遭遇します。そこにいたのは朝田先生です。

保護者が「朝田先生ってめっちゃ声低くない?」「オネエだよね〜?」と言っているのを聞いたみい子は「朝田先生の声、あたし好きだな〜!」と笑顔。

なつきははっとした顔を見せます。

なつきの希望になったのは、みい子だけではありませんでした。

朝田先生も、自身がトランスジェンダー女性(MtF)であることを教えてくれ、「私みたいに子どもの時につらい思いをした人も幸せに生きている人がいっぱいいる。だからなつきもやりたいことをどんどんやってね」と言葉をかけます。

これがなつきの背中を押すことになります。

この後のお話は、こちらからお読みください。あたたかなストーリーが続きます。

ちゃお編集部 (@ciao_manga) on X
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コミックス35巻にも収録されています。

全体的なカラーリングは、多様な性を象徴する6色の虹色。みい子のTシャツにも注目です。

◆「多様な性の子どもが身近にいる。だからみい子で描きたい」

おのえりこさんに、作品に込めた思いを聞きました。

―「こっちむいて!みい子」で、多様な性を描こうと思ったきっかけ、伝えたい思いを教えてください。

もともと映画などを通し、多様な性に関心があったのですが、特に大きかったのは最近、読者さんからの「LGBTQの話を描いてほしい」という手紙が増えてきたことでした。

LGBTQに関する本や記事を読み進める中で、日本の小中学校の学習指導要領にはLGBTQが載っていないことを知りました。保健体育の教科書には「思春期になると、異性を好きになる」と書いてあります。同性を好きになる子や恋愛をしない子、自分の性に違和感を持つ子はいないことになっていると感じました。

「ちゃお」やみい子のメインの読者は小中学生で、インターネットに触れる機会が少ない子もいると思います。学校で教える枠組みがないことで、多様な性に関する知識を得られなかったり、親に言えなかったりなど、苦しい思いをする子もたくさんいると想像します。

当事者の子には「あなただけじゃないよ」「まわりと違っていても良いんだよ」と、また多くの人に「みんな違うんだよ」「それが素敵なんだよ」ということを伝えたいと考え、みい子で描くことを決めました。

ー描く上でこだわったことなどを教えてください。

1番は当事者の子どもたちに受け入れてもらえるお話にすることです。小学生にも理解しやすく、希望を持てるストーリーにしたいと考えました。セリフの一つ一つに思いを込めて描いています。

描く上で取材した当事者の遠藤まめたさん( @mameta227 )とMizuki Tsujiさん( @mizuki_ijust )の子どもの頃からのお話は本当にリアルで、なつきのキャラクターが一気に起き上がってくる感じでした。

「つらい思いをすることもあったけれど、わかってくれる人は必ずいる」「幸せに生きている人もたくさんいる」といった言葉が強く印象に残っています。
トランスジェンダーが悲劇的に描かれる作品もありますが、私は希望こそ、描きたいと思いました。葛藤だけでなく、大きな希望も、読者に届けたいと思ってます。

―どんな反響がありましたか。

子どもたちからは、なつきとみい子のイラストがたくさん送られてきて、とても嬉しく思いました。届いているんだなあ…と。

また保護者の方から、「テレビにトランスジェンダーの方が出ていた時、子どもが詳しかったので、なんで知ってるの?と聞いたら、『みい子で読んだ!』と言われ、自分も読んだら涙が出ました」といった手紙もあり、胸があたたかくなりました。

インターネット上では、「みい子で、多様な性を描くなんて嬉しい」「周りの友達や先生がどう行動してくれたら自分らしくいられるのか、そしてその行動がトランスジェンダーじゃない生徒にとっても心地良い学校づくりに繋がることが描かれていて、素敵」といった意見が寄せられ、嬉しく思いました。当事者の方からも「共感した」などとシェアしてもらえることが多く、本当にホッとしました。

「子どもが読む作品で、描いて良いのか」といった意見も寄せられました。

トランスジェンダーの方への差別の根強さを感じる部分もあり、胸が痛むこともありました。だからこそ、これからも表現の仕方については熟考を重ね、漫画を通して、自分らしく生きられる社会の一助になれたらなという思いも、改めて持ちました。

―なつきは今後も登場しますか。

はい。みい子のクラスメイトですし、私たちの身近に多様な性の人がいるように、なつきも当たり前に、みい子の身近にいます。また、なつきの思いを深掘りする話も描いていこうと思っているので、楽しみにしていただければ。

私自身、いろんな本や作品からたくさんのことを知ることができました。「なつきという子」を読んだ方が少しでも多様な性に関心を持ち、ドキュメンタリー作品や映画を見たり本を読んだりするきっかけになれば嬉しいです。 

◆「自分の好きなことを大切にしてほしい」との思い

「なつきという子」で、おのえりこさんの取材に応じた遠藤まめたさんにも話を聞きました。

―おのえりこさんから取材依頼が来た時の思い、どんなことを話したか、教えてください。

小学生が多く読む漫画で多様な性を取り上げられることが、うれしかったです。
私は普段、LGBTやそうかもしれない子どもと接する機会が多いので、家族からも理解されないで苦しむ子が多いことや、学校も少しずつ柔軟な対応ができるよう変わっていることなどをお伝えしました。

また読者へのメッセージとして、性別を理由に自分が好きなことややりたいことを諦めるのではなく、自分の好きなことを大切にしてほしいということを伝えました。これは朝田先生のせりふに反映されていると思います。

私自身もトランスジェンダーです。子どものときに楽器がよく弾けてバイオリンの先生からジュニアオケに誘われても、服装が男女でわかれているので断っていました。今でも服装で困ってフィギアスケートの習いごとを諦めたり、トランスジェンダーだから学校の先生になりたいけど無理かもしれないと悩んだりしている子どもたちはいます。

―「なつきという子」を読んだ感想を教えてください。

日本中でなつきのように悩みをもっている子、またはみい子のように友達からカミングアウトされる経験を将来する子がいます。その子たちにとってエンパワメントとなる作品だと思いました。

特に家族から理解されない苦しみをもっているなつきのような子にとっては、まわりに理解者がいなくても、このような作品が居場所になって生きる力をささえてくれるだろうと思いました。無理解な環境におかれていても、自分のことをわかってくれる人はどこかにいます。

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連載32年目の「こっちむいて!みい子」で、トランスジェンダーの中学生が初登場。その思いとは【作者インタビュー】

Takeru Sato