「だって黒人でしょ」人種差別的な職務質問の調査、329人が訴え【レイシャル・プロファイリング】

「だって黒人でしょと言われた」

「断りなくバッグの中に手を入れられた」――。

人種差別的な職務質問に関するハフポスト日本版のアンケートに、日本で暮らす外国人や海外にルーツがある329人から、人権侵害だと思ったり嫌だと感じたりした体験が寄せられた。

警察などの法執行機関が、人種や肌の色、民族、国籍、言語、宗教といった特定の属性であることを根拠に、個人を捜査の対象としたり、犯罪に関わったかどうかを判断したりすることは「レイシャル・プロファイリング(Racial Profiling)」と呼ばれる。

アメリカ大使館は2021年12月、「レイシャル・プロファイリングが疑われる事案で、外国人が日本の警察から職務質問を受けたという報告があった」として、日本で暮らす同国民にSNS上で警告を出した。東京弁護士会も調査を進めている

海外にルーツのある人たちへの職務質問の現場で、何が起きているのか。

レイシャル・プロファイリングという公権力による人権侵害をなくすために、必要なことは何か。

「日本のレイシャル・プロファイリング」の実態をシリーズで伝える。

職質「11回以上」は53人

職務質問の根拠となる法律「警察官職務執行法」は、「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断」して、

・何らかの犯罪を犯し、もしくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者

・すでに行われた犯罪について、もしくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者

に対し、警察官は停止させて質問することができると定めている。職務質問は強制ではなく任意捜査だ。

ハフポスト日本版は2021年9月から、人種差別的な職務質問に関するアンケートを実施。日本で暮らす外国人や、海外にルーツのある人またはその家族・支援者を対象に、人権侵害だと感じたり、嫌だと思ったりした職務質問の体験を日本語と英語で尋ねた。

2021年12月末時点で計384人から回答が寄せられた(回答者に海外ルーツがない場合など、調査対象外の回答は含まない)。

このうち、職務質問の際に人権侵害だと感じたり、嫌だと思ったりした体験を記入したのは329人。職務質問を受けたことはあるが具体的な体験の記述がない人は13人だった。

一方、職務質問で人権侵害だと感じたり、嫌だと思ったりした経験はないと答えたのは24人。「職務質問を受けたことがない」と回答したのは12人だった。

職務質問以外で警察の対応を不当と感じた体験を記入したのは6人だった。

職務質問を受けた回数別では、1〜3回は190人、4〜10回は122人、11回以上は53人、わからないは3人だった。

調査で見えた「4つの傾向」

アンケートの回答と個別インタビューから、レイシャル・プロファイリングが疑われる職務質問には、主に4つの傾向があることが浮かび上がった。

ケース1)人種や海外ルーツの見た目が理由と説明された

ケース2) 名前や日本語のアクセントを確認後、警察官の態度が変わった

ケース3)理由を明確に説明されなかった

ケース4)許可なく所持品検査をされた

この記事では、ケースごとに回答の一部を紹介する。

より詳しい回答は、こちらから⬇︎

【人種差別的な職務質問に関するアンケート回答の詳報】

※( )内は、出自のルーツ、年代、性別、居住地の順。回答の記述は、意味が変わらない範囲で編集・翻訳しています。インタビューに応じていただいた方のうち、本人の了承を得られた場合のみ実名や写真を掲載しています。

ケース1)人種や海外ルーツの見た目が理由と説明された

「カナダ人はマリファナが好き」「お兄さん目立つんで」

(アメリカ出身・両親がアフリカ系アメリカ人、20代男性、兵庫)

警察官たちに日本語で、なぜ周囲の人たちの中から私を調べようとしたのかを尋ねた。彼らは「あなたのような外国人は、たいてい危険な凶器かドラッグを持っているから」と言った。

(白人・カナダ人、40代男性、東京)

警察官に「カナダ人はマリファナが好きだ」と言われ、バッグとバイク置き場を調べられた。

(ジャマイカ人、60代以上男性、配偶者が日本人、東京 ※家族が回答)

六本木駅で4人の警察官に囲まれて、バックパックの中を見せろと言われた。妻の私が理由を聞いたら「麻薬を持っているかもしれないから」と言われた。私が「今向こうに歩いて行った人は日本人に見えるけど、実は外国人で在留資格もなくてあのバックパックいっぱいに麻薬が入っていたら?」って聞いたら(夫のことを)「いや、だって黒人でしょ」と警察官に言われた。

(白人・アメリカ人、40代男性、妻が日本人、東京)

明確に覚えている3回の職務質問でいずれの場合も、私を止めたのは私が日本人でないからだとはっきり言われた。

(黒人・イギリス人、30代男性、鹿児島)

スーパーに行く途中、警察に呼び止められた。身分証を見せるよう言われたので理由を尋ねた。彼らの言い分は、「多くの外国人がオーバーステイ(超過滞在)をしているから」だった。

(父が日系ペルー人2世、母がペルー人、30代男性、茨城)

警察官に職質の理由を聞くと、「お兄さんみたいな見た目の人で、大麻とかやっている方結構いらっしゃるんで」と何度も言われました。

東日本大震災で被災した知人に物資を届けるため、茨城県大洗町に行った時にも警察官に声をかけられ、「お兄さん目立つんで」「日本人ぽくない見た目ですよね」と言われました。

2015年に鬼怒川が決壊し、知人に支援物資を持って行った時にも警察官に在留カードを確認され、車の中を調べられました。

私は1歳から日本で暮らしているのですが、職質の経験のうち約半数で「いつ頃まで日本にいるんですか?」といった発言があり、排他的なニュアンスを感じてとても悲しい思いをしました。「物心がつく前から日本に住んでいる」と伝えていても、このような言葉をかけられます。

駅前にいると高い確率で警察に声を掛けられるので、なるべくタクシーで移動します。子どもや甥・姪と公園に行く時は目立たない格好で出掛けるようにしています。

ケース2)名前や日本語のアクセントを確認後、警察官の態度が変わった

「笑顔消えてタメ口に」

片山ローワンさん(33)、母がスイス人、父が日本人。小学生の頃から日本で育つ

4〜5年前に大阪府内で、勤務先から自宅に車で帰る途中、後ろからきたパトカーに呼び止められました。

40代くらいの男性の警察官2人が免許証で名前を確認すると、丁寧だった警察官たちの態度が“警戒モード”に一変し、「日本の方じゃないですよね。今時はあなたみたいな人が脱法ハーブやってることが多いから車内を検査します」と言われました。明らかに名前を見てそう言われ、耳を疑いました。車内の検査は20分ほど行われました。

大分で大学に通っていた頃は多いときで月に1回、自転車に乗っているときに職務質問され、「どことのハーフなの?お父さんお母さんどっち(が外国人)?」といった、人種やルーツに関わることをほぼ必ず聞かれていました。なので大阪で「あなたみたいな人」と言われた時も、一瞬絶望を感じたけれど、『海外ルーツ』を一括りにして犯罪の疑いをかける警察官が多いのだと受け止めました。

(韓国出身、30代女性、東京)

飲み会後の終電で帰宅し、駅から自宅まで自転車で移動していたときに職務質問を受けました。制服を着た男性の警察官1人で、40〜50代に見えました。最初は「身分証を見せていただいてもよろしいでしょうか」とすごく丁寧な対応だったのですが、運転免許証を見せると名前から外国人であることが分かったのか、警察官の態度が急変しました。笑顔が消え、「在留カードは?」とタメ口で求められました。

その後も、なぜ深夜に自転車に乗っているのか、自転車は自分のものなのかと疑われ、自転車の照会もされました。

免許証を見せた直後にあまりにもあからさまに態度が変わったので、何か犯罪があったのか、なぜ自分が止められたのかを尋ねたのですが、質問は全て無視されました。外国籍であることが分かる見た目でもないので、国籍を確認した後に態度が豹変したことがはっきり分かります。外国人であっても日本人と同じように対応してほしいです。

(父母が台湾出身、30代男性、東京)

夜間に無灯火で自転車に乗っていたため呼び止められた。私の日本人らしくないアクセントを聞くと警察官たちの態度が急に変わり、なぜ日本にいるのかなどさらに多くの質問をするようになった。私が友人から買った自転車を「盗んだのか」と何度も聞かれ、その都度否定したが「あなたはこの自転車を盗んだのでしょう?」と繰り返し聞かれた。2009年のこと。私が日本人でないことに気づいてから、質問と非難が始まった。人差し指を鋭く突きつけるなど、その態度はかなり厳しいものだった。

ケース3)理由を明確に説明されなかった

「捜査に同意しなければ交番に連れていく」

ニック・テイラーさん(46)、アフリカ系アメリカ人、2010年から日本在住

2017年ごろ、成田空港の駅券売機前でアメリカの友人と切符を買おうとしていたところ、20代くらいの警察官から突然「身分証を見せてください」と言われました。職種や住所も聞かれました。なぜ自分たちに聞くのかを尋ねると、その警察官は「不審者が多いから」とだけ答え、なぜ自分たちを不審だと疑ったのかということの説明になっていませんでした。職務質問を避けるため、夜は地下鉄ではなく、できるだけタクシーを使うようにしています。

(白人、30代男性、東京)

勤め先の学校の前で呼び止められ、生徒の目の前で所持品検査をされたことがある。

最後に職務質問された場所は最寄り駅で、一日で最も混雑する時間帯だった。

なぜ自分を止めたのかを尋ねたが、警察官がはっきりと答えてくれなかったので、個人情報を提供することも、所持品検査も拒否した。

警察官は、私が口論の様子を撮影することを認めなかった。「外国人だから止められたのか」と聞くと、警察官は怒って、「捜査に同意し、個人情報を教えなければ交番に連れて行く」と言い始めた。結局、私は承諾し、彼らはバッグの中をすべてチェックした。大勢の人が見ている前での出来事だった。

(白人・イギリス出身、30代男性、東京)

出勤途中の赤羽駅で、2人の警察官(年配者と若年者)に呼び止められ、身分証の提示を求められた。理由を尋ねると、理由はない、不審な行動もしていないと言われたが、彼らの求めに従うしかなかった。

ケース4)許可なく所持品検査をされた

「財布を勝手に取られた」

職務質問の付随行為として行われる「所持品検査」。アンケートでは、許可なくバッグや財布の中を探られたという違法性が疑われる訴えも複数寄せられた。

(在日韓国人4世、20代男性、東京)

警察官の方が財布とカバンを見るねと言うだけ言って、許可をしていないのに見られたことがありました。「外国人のクレジットカード犯罪が多いから」と言いながら、財布の(カードの)一枚一枚をチェックされ、カバンの隅々まで確認されました。外国人という理由だけでこのような強引な職務質問が行われたのです。私はこの対応が腑に落ちず警察の相談窓口に訴えましたが、相手にしてもらえませんでした。

(イスラエルと中東にルーツ・ユダヤ人、30代女性、配偶者が日本人、東京)

道を歩いていたら目の前でパトカーが停まり、2人の警察官が降りてきた。停止するよう言われ、1人が断りもなく私のバッグの中に手を入れた。通りがかりの多くの人が立ち止まって見ていた。非常に屈辱的だった。

(白人・アメリカ人、30代男性、大阪)

自転車に乗っているところを呼び止められ、財布を勝手に取られて調べられました。理由も令状もなく、バッグや財布を勝手に取って調べるのはやめてほしい。

「100回以上は経験」「近所のDV通報で職質」

繰り返し職務質問を受けたり、不必要な質問をされたりしたという声もあった。

(中東出身、40代男性、日本に20年近く暮らす)

100回以上は職質を経験していると思う。身分証をチェックするだけならいいが、身分証をチェックした後、危険物を持っていないかバッグとズボンを調べ、さらにポケットに手を入れてプライベートな部分を触り、薬物を持っていないかチェックされた。所持品検査に20分以上かかることもある。

(フランス出身、20代女性、配偶者が日本人、神奈川)

隣の家で親が子どもに暴力を振るっているような音を聞き、警察を呼んだ。警察官は到着すると私の在留カードを確認し、「留学生?学生カードも見せてください」「専門はなんですか」「彼氏とどこで出会いましたか」「結婚する予定ですか」などのプライベートな質問をした。近所のDVを通報するために警察を呼んだのに、どうして私が職務質問されるのかと思った。自分の経験から人種差別を強く感じている。外見や国籍などを理由に職務質問するのはやめてほしい。

頻繁に職務質問を受けたり、理由の説明もなく所持品を調べられたりした経験から、職質を避けるために行動を変えているという声も多く届いた。

(アフリカ人、20代男性、滋賀)

特に夜は外を出歩かないようにしている。自転車になるべく乗らないようにしている。

(アメリカ出身、50代女性、神奈川)

外見から白人と気づかれないよう、髪を隠したりサングラスをかけたりしている。

(東欧系ユダヤ人、30代女性、東京)

日本語以外の言語を話す場合は、注意を引かないように小さな声で話すようにしている。日本人以外の友人とは、公式な目的(食事会など)がない限り大勢でつるまないようにしている。

このほかアンケートでは、職質以外の状況で、差別的だと感じた警察官の対応を訴える回答もあった。

(黒人・フランス人、30代女性、東京・京都)

自転車を盗まれたので警察署に届けに行ったら、犯罪者扱いされて指紋を取られたことがある。

(フィリピンとアメリカのミックスルーツ、30代女性、大阪)

DVで警察に通報したが、信じてもらえなかったことがある。警察官は文化的な問題だと言ったり、私を責めたりした。

国連の委員会「不当な差別」

国連の自由権規約委員会は2009年、警察官などの法執行官によるレイシャル・プロファイリングを条約機関として初めて「不当な差別」と認めた。

警察官が、人種や民族に関わる要素を理由に「罪を犯している、または犯そうとしている」と判断し、職務質問することは人種差別であり、国家賠償法などに違反する恐れがある。

レイシャル・プロファイリングの問題をめぐり、国連の人種差別撤廃委員会は2020年勧告を公表。レイシャル・プロファイリングを禁止する法律や政策を実施すること、独立した外部機構を設けて、違反があった場合に懲戒措置を取る仕組みをつくることなどを各国に呼びかけている。

ハフポストのアンケートに届いた329人の訴えからは、人種や外見を理由とした差別的な職務質問が日本でも横行している実態が浮き彫りになった。

「レイシャル・プロファイリングをやめてほしい」という声に加え、「なぜ自分に職務質問をしたのか、きちんと説明してほしい」という要望も多数寄せられた。

ある30代のアメリカ人男性=東京=は、「誰かに傷つけられたり、詐欺に遭ったりしても、警察に助けを求めようとは思えない。なぜなら彼らの私に対する態度は、いつも理由もなく自動的に(犯罪の)疑いを向けているようなものだから」とアンケートにつづった。人種差別的な職務質問で警察組織への不信感が強まれば、捜査の協力を得られなくなるリスクもある。

■ ■

「パンツ履いてますよね?」突然局部を触られた――。

【日本のレイシャル・プロファイリング】シリーズ第2回では、日本で生まれ育った海外ルーツの若者が受けた差別的な職務質問の体験を、詳しくお伝えします。

<レイシャル・プロファイリング(Racial Profiling)とは?>

警察や検察などの法執行機関が、客観的証拠や個人の行動ではなく、人種や肌の色、民族、国籍、言語、宗教といった特定の属性であることを根拠に捜査の対象としたり、犯罪に関わったかどうかを判断したりすること。

(取材・執筆: 國崎万智、デザイン: Jun Tsuboike、Yuki Takada)

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「だって黒人でしょ」人種差別的な職務質問の調査、329人が訴え【レイシャル・プロファイリング】

Machi Kunizaki