「脱炭素」掲げても石油を捨てきれない中東産油国。ジレンマに日本が無関係ではない理由

中東産油国が相次いで「温室効果ガスの実質排出量ゼロ」を掲げている。

たとえば、有力な産油国の一つで、日本が原油の輸入先として最も頼っているサウジアラビア。2021年10月に首都リヤドで開いた会議「サウジ・グリーン・イニシアチブ」で、ムハンマド皇太子が、2060年までに温暖化ガスの実質排出量をゼロとする目標を明らかにした。再生可能エネルギーなどへの投資を打ち出している。

これに先立つ2016年、サウジは「ビジョン2030」を発表し、石油依存の経済からの脱却を目指している。UAEやカタールなどの湾岸諸国も「石油だけでは食べて行けなくなる」との危機感が強く、「産業の多角化」を目指している。

ただ、石油だけに頼っていた社会を変えていくのはそう簡単ではない。

「カーボンニュートラルの実現に向けては、日本だけではなく、中東も課題を抱えている。お互いにウィンウィンの関係で解決していくことを目指すべきだ」と語るのは、中東に詳しい三菱総合研究所の主席研究員・中川浩一氏だ。

2021年11月にサウジアラビアを訪れ、政府関係者や大学関係者らと面会を重ねたという中川氏に、中東産油国の現状とジレンマについて聞いた。

中川氏は、「中東は再生可能エネルギーの“適地”だ」と話す。太陽光発電や風力発電に効果的な広大な土地や砂漠がある。中東産油国は「再生可能エネルギーへの転換を目指すべき」としつつも、一足飛びに進まない理由についてこう語る。

「彼らは、脱炭素社会での石油やガスのあり方を見極めながら、将来的な再エネへの展開を図りたいと考えていますが、そのロードマップはまだ描けていません。石油生産をある程度維持しながら、将来に向けて再エネに投資していきたいとしているのが現状です。『脱炭素』を掲げる一方で、自国に残る石油をゴミにするのではなく国の繁栄のために使いたいというジレンマを抱えています」

一方で、欧米を中心に温室効果ガス排出につながる石炭や石油関連事業への投資を引き上げる動きが進む。

中川氏は「中東産油国は大きく影響を受けている」としつつも、「世界的なエネルギーの需給バランスが見通せない中、彼らとしては石油を“武器”にしたいという思惑がある」と解説する。

日本は、そんな中東からの石油に依存している。2021年のエネルギー白書によると、日本の石油の中東依存度は89.6%(2019年度)。原油の輸入量は減少傾向にある一方、中東依存度は増加傾向にある。特に輸入量が多いのはサウジアラビア(34.1%)とUAE(32.7%)だ。

日本の一次エネルギーの国内供給に占める石油の割合は2019年度で37.1%となり7年連続で減少しているものの、原油や石炭、天然ガスなどの化石エネルギーへの依存度は88.6%(2018年度)で世界の主要国に比べて高い水準にある

日本も脱炭素に向けた取り組みが求められる中、中東の脱炭素化が進めば、日本も進むのではないか。中川氏は「中東は再エネ関連事業を含め、環境・エネルギー分野への日本企業の参入には期待感があり、ビジネスチャンスに溢れています。日本と中東がお互いにビジネスでウィンウィンの関係を築くことができれば、中東の脱炭素を後押しし、日本の脱石油にもつながる」と話している。

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