無印良品、ファミリアなど大手企業から、土屋鞄製造所やマルニ木工などこだわりのお店まで50以上が集まった蚤の市「PASS THE BATON MARKET」。
行ってみると、安くてお得に買えるものから、ずっと欲しかったけれど販売終了したアイテム、それに通常盤よりもっと可愛くなった商品がたくさん集まっていました。
思わず目移りしながら手に取ると、「なんでこれが倉庫に眠っているの?」「こんな小さなキズでもB級品なんだ!」と驚くことばかり。
「PASS THE BATON MARKET」を運営する株式会社スマイルズのパスザバトン事業部事業部長、箕浦俊太さんは「倉庫にこんなに良い商品が眠っているとは、ほとんど知られていません。お気に入りの商品と一緒に、“気づき”も持って帰ってもらえたら」と話します。
オンラインで気軽にモノが買えるようになった時代。「イメージと違った」「写真と色味が違う」と、返品も気軽にできるようになりました。
しかし、箕浦さんは「綺麗な状態であっても、返品した商品は通常の商流に乗せられないことがほとんどです」と日本の倉庫の現状を語ります。
たとえば、段ボールに入った商品のうち一つでも規格外品があれば、その段ボールに入っているもの全てが販売できなくなることも。
「他にも、たとえばインドの工場の規格ではA級でも、日本の厳しい規格ではB級になってしまい、流通に乗せられないこともあります」(箕浦さん)
一方、日本の厳格な規格は、日本の商品の高いクオリティにも繋がっています。箕浦さんは、「どちらが正しいというわけではなく、お客さんの選択肢が増えればいいなと思っています」と話す。
企業が長年倉庫に眠る商品を抱えたままだった理由の一つが、「ブランド棄損につながると企業が思っていたから」だと箕浦さんは指摘する。
「1ミリのズレもなく完璧に作られ、綺麗に包装されていることが『当たり前』という価値観の中で、ちょっとでも規格外だったらクレームやマイナスイメージの原因になりうる。そうしたことを避けるために、少しでもリスクがあるものは売らない、というのが多くの企業の判断だったように思います」
しかしそれが、SDGsや環境問題への認識の広がりなどを背景に変わってきている、と箕浦さん。「お客さまに訳を伝えながら販売していくことで、むしろ商品やモノづくりへのこだわりも合わせて伝えていくことができたので、ブランドを棄損するどころかポジティブに捉えてもらうことができた」という企業担当者の声もよく耳にすると言います。
それぞれのお店の人に「ブランド棄損になるのではないか」という壁をどう乗り越えたか話を聞くと、「PASS THE BATON MARKETだから出店しました」と口を揃えます。
「やはり現状では、どこで売っても大丈夫というわけではない、と思います。PASS THE BATON MARKETには、入場料を払ってブランドを理解した上で訪れるお客さんが集まるので、B品やデッドストックに寛容な方が多いのが特徴です」(箕浦さん)
完璧なもの以外すべて廃棄していくのはおかしいのでは? という疑問に共鳴する人が集まる空間。けれどももちろん「正しさや倫理観だけでは、人は動かない」とも箕浦さんは言います。
「SDGsとか、環境に優しいとか言われても、お客さんはそれだけで買うわけじゃない。かっこいい、可愛いなど“楽しさ”が大事だと思っています。もちろん、『安く買える』という経済合理性でもいい。それも大事だと思うんです」
さまざまな理由で買い物を楽しむお客さんに手渡されるのは、出店者の思いが詰まったタブロイド紙。
「『倉庫が空っぽになったら、やりたいことがあるんです』『木の節目や陶磁器の色むらなどの“ゆらぎ”は魅力だと思う』など、出店者がPASS THE BATON MARKETにかける思いがつづられています。それを空いた時間や帰った後に読んでもらって、買ったモノの裏側も伝えられたらいいと思っています」
デッドストックや規格外品にスポットを当てることで、消費者側にも企業側にも新しい価値観が生まれるかもしれません。実際にPASS THE BATON MARKETを運営していて、変化を感じることはあるのでしょうか?
箕浦さんは、「嬉しかったのは、『倉庫が空っぽになったので、出店できません』と企業から言われたことです」と笑顔をみせました。
「空っぽなので、スペースを気にせず思い切ってものづくりができます!と言ってもらえました。倉庫を空っぽにした向こう側をみたい、とワクワクしています」
そんなPASS THE BATON MARKETは、「セレクトリサイクルショップ」から新しい商流を生み出す“共有地”を意味する「ニューサイクルコモンズ」へと変化を遂げようとしている。
「サステナビリティに配慮した商品であっても、一定数の規格外品は出る。デッドストックやB品を含めて流通できる、“あたたかい商流”にしていく必要があります。そのためにも、もっとたくさんの企業やブランドと連携していきたいです。
“完璧じゃなくても良いモノ”を新しい選択肢として楽しむ。新しい消費のあり方のヒントになりそうです。次回は来春の開催を予定しています。
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箕浦さんは、ピンクのズボンを履いたコクヨのTHE CAMPUSのファシリティマネージャーがたまたま通りかかると、挨拶をしながら「PASS THE BATON MARKETは、コクヨの新オフィス『THE CAMPUS』でぜひやりたいと思っていました」と話します。
「PASS THE BATON MARKETもコクヨのTHE CAMPUSも、偶然ですがキーカラーがピンクなんです。さっきのファシリティマネージャーの方も普段は着ないピンクの服を着るくらい姿勢は前のめりですし、柔軟に『まずはやってみよう』とする姿にとても共感しています」
コクヨのTHE CAMPUSは、元々あったコクヨのオフィスをフルリノベーションした場所。コンセプトは「街にひらく」オフィスです。
コロナ禍でリモートワークが当たり前になった時代、オフィス用品や文房具の作り手であるコクヨは、THE CAMPUSを通して「オフィス」という場所をどう再定義したのでしょうか。また、大量生産、大量消費を行ってきたコクヨは今、消費のあり方とどう向き合っているのでしょうか。
コクヨのインタビューはこちら。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
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