テレワークは感染対策だけが目的ではない。「出勤者7割減」から考える“集まる意味”とは

『これまで人流抑制や接触削減の観点から、テレワークなどによる出勤者数の削減が求められてきたが、今後は、「出勤者数の削減」目標について、科学的な知見を踏まえ、見直すべきである』

経団連は11月、政府が新型コロナ対策として呼びかけてきたテレワークなどによる「出勤者数の7割削減」を、科学的な知見を踏まえて見直すべきだとする提言を出した。

十倉雅和会長は理由について、「出勤者数の7割を一律に削減すると経済活動に支障となる。ワクチンの効果などもあって、人流増加と新型コロナウイルス感染症の実効再生産数は相関しなくなってきているというデータも踏まえて見直すべきだ」と記者会見で語っている。

「テレワークは働き方改革の一環として、今後も続けるべきだ」とも述べ、テレワーク自体を否定しているわけではない。

だが、たとえ「一律7割削減」という目標に無理があったとしても、「経済活動への支障」を理由に、経団連がテレワークに“後ろ向き”とも見られかねないような提言に、SNS上では様々な意見が上がった。

「恒久的にテレワークを奨めてほしい」

「政府は水際対策と同時にテレワーク推奨を経団連通して大きな声で伝えて欲しい」

「もう遠隔でできる仕事はテレワークを標準にすればいいのに」

「経団連はテレワークが進みすぎると人流が減って従来型の経済が停滞することを恐れているのでは」

テレワークは、感染対策としてだけではなく、多様な働き方を実現するために必要不可欠だ。10月には緊急事態宣言が解除されたものの、新型コロナの変異株「オミクロン株」も見つかり、コロナ禍の収束は見通せない状況が続く。

職場に“集まる意味”について、改めて考えてみた。

コロナ禍でも約半数がコミュニケーション総量「変わらない」

リクルートワークス研究所が実施した、こんな調査がある。

コロナ禍をきっかけに広がったリモートワークなどの新しい働き方が、職場の“集まり方”にどのような影響を及ぼしたのか、その実態を調べたものだ。

インターネットモニター調査で、三大都市圏にある従業員50人以上の企業で働くオフィスワーカーを対象に10月に実施され、20歳〜69歳の4202人が回答した。

12月2日に発表された調査結果によると、コロナ禍前と比べてコミュニケーションの総量が「減った」と37.6%が回答した一方で、半数以上の53.5%が、コロナ禍でもコミュニケーション総量が「変わらない」と回答した。

どのようなコミュニケーションに影響があったのか。

調査結果によると、「減った」よりも「増えた」の回答が多かったのは、「情報伝達のための会議」と「意思決定・合意形成のための会議」。一方で、「仕事とは関係のない雑談」は 45.1%が、「会議の前後に発生する会話」は 35.2%が「減少」と回答した。

「情報伝達」や「意思決定・合意形成」といった目的が明確な「集まり」は増えたものの、雑談や会話は減ったーー。

そんな傾向が見えてくるが、こうしたコミュニケーションに関する課題を解決するためにどのような工夫をしているのかをたずねた質問では、

「会議などで職場のみんなが参加できるよう、発言を促したり意見を尊重したりする」

「日常的に雑談など気軽に話ができる職場風土をつくろうとしている」

と回答した人が30%を超えた一方で、

「目的に応じて、対面、オンライン(ビデオあり・音声のみ)の場をうまく使い分けている」と回答した人は 28.5%にとどまることがわかったという。

対面、オンライン…どんな「集まり方」がどんな「集まり」に適している?

会議や会話の目的別に、有意義な「集まり方」をたずねたところ、「伝達」を目的とした会議は、オンラインでも有効であることがわかったという。

調査結果によると、「情報伝達のための会議」「経営や事業の方針伝達のための会議」などの機能的な伝達を目的とした会議については、「オンラインのほうが対面より有意義な場になる」「オンラインでも効果は同じ」との回答が半数を超えた。

「ブレーンストーミングや意見交換のための会議」などの会議については、「対面のほうが有意義」と回答した人と、「オンラインでも対面でも同じ」の回答がほぼ同じだった。

リクルートワークス研究所の辰巳哲子主任研究員は、今回の調査の狙いについてこう話す。

「これまで日本の企業は『毎日会社に出勤できる人』を中心に集めていましたが、今はそのような時代ではありません。海外にいても、地方に住んでいても、オンラインで会議や集まりに参加できるようになり、多様な人が職場に参加しながら新しい事業を作っていくという時代に変わりつつある中、個人が自律的に働けることが重要ですが、その制約となっているのが『職場で集まる』ということです。だからこそ、『集まる目的』がきちんと定義されていたら、『集まり方』を考えることができるのではないか。そう考え、『集まる意味』を考えるプロジェクトを立ち上げました」

『集まる意味』を考えた上で『集まり方』を決めよう

辰巳さんは、多様な働き方を実現する上で「目的と戦略の重要性」を強調する。「オンラインと対面の『ハイブリットワーク』を目指す企業は多いが、目的があって対面で仕事をしているケースもあれば、そうでないケースもある」

「例えば富士通では、『オフィス=体験する場所』と定義し、出社した社員たちが社員間の体験を増やせるよう、偶発性を高めるためのアプリを導入している。『集まる意味は何か』を考え、対応をすることが大切です」と指摘する。

辰巳さんによると、戦略的に『集まること』について考えている企業には共通点があるという。「企業としての一律のルールをつくるのではなく、それぞれの現場、チーム、部署ごとに必要に応じて目的を設定し、その目的に沿った『集まり方』を考えるようにしていることです」

一方で、会社側がすべきことはどのようなことなのか。辰巳さんは「他部署とのつながりを持てるようなハブとなる機能を用意することと、社員のコミュニケーションスキルの育成」を挙げる。

「オンラインでの働き方が浸透し、多様な個人と働くことが前提になってくるからこそ、まず自分の個性や状況を開示できること、そしてそれぞれが共感できることが必要になります」

最後に、テレワークなどの多様な働き方を実現する重要性についてたずねてみた。

「多様な属性を持った人たちと働くということそのものが企業の競争力を決める時代になってきています。その前提で考えた時に、目的に合わせてコミュニケーションの方法を変えていくのは当然のことです」

「このコロナ禍で、『集まることの意味を考えていなかった』『目的に合わせた場が作られていなかった』ということに気づくことができた方も多かったのではないでしょうか。集まり方を考えることは、個人の強みや可能性を活かすことにつながります。今こそ、それぞれの組織にとって最適な『集まり方』を考えるいい機会だと思います」

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