精神科医・本田秀夫さんに聞く、発達障害のある子どもの育て方で大切なこと

精神科医の本田秀夫さんは、子どもから大人までさまざまなライフステージの当事者を診てきた経験から、発達障害のある子どもの子育てについて積極的に情報発信している。書籍や講演は当事者や支援者からの信頼が厚く、およそ2時間ある講演会の動画は、YouTubeでなんと100万回以上再生されている。

新刊の『子どもの発達障害 子育てで大切なこと、やってはいけないこと』(SBクリエイティブ)では、30年以上の臨床経験で診てきた発達障害当事者の成長のプロセスや医学的な知見をもとに、特性のある子どもを育てる考え方を伝えている。

発達障害のある子や、いわゆるグレーゾーンの子の子育てについて、本田秀夫さんにお話を聞いた。

発達特性とは、生物学的なバリエーション

━━発達障害とは何ですか?

注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、学習障害(LD)などの障害をまとめた総称です。

不注意や多動性、こだわりの強さ、読み書きの苦手さなどの特性によって困難を抱える人たちですが、いわゆる「定型発達」の人と優劣の差があるわけではありません。彼・彼女らは少数派の「種族」であり、多数派向けに組み立てられている社会に合わせて暮らしているため、生きづらさを抱えることがあるのです。

発達障害の特性は、生来的なものと考えられています。生物学的に通常の人たちと違いがある少数派の「バリエーション」です。それが障害なのかどうかは、社会との関係である程度決まります。この整理は大事です。

生物学的バリエーションのうち、機能不全のために生活に支障があるものが病気とみなされ、福祉などの特別な支援が必要な場合に障害と呼ばれます。

たとえば、近視は病気です。でも、日本人成人の過半数は近視なので、当たり前のように眼鏡やコンタクトレンズを使って支障なく生活しています。よほど重度の近視でない限り、障害とはみなされません。

一方、「多指症」と言って手や足の指を6本持って産まれるバリエーションがあります。豊臣秀吉がそうだったとの言い伝えがあります。生活に支障がなければ必ずしも病気や障害とは言えませんが、現在は子どものうちに手術して5本に整形するのが一般的です。

それは、少数派であることに由来する偏見に影響されているかもしれません。病気である近視よりも機能的には異常の少ない多指症の方が偏見を持たれやすい。これは数が多いか少ないかという問題も大きく影響しているのです。

発達障害の特性のある人は、1割程度と推定されます。決して稀ではありませんが、少数派のバリエーションです。特性が目立つ場合には生活に支障をきたし、障害とみなされます。生活に支障がなければ、障害とみなす必要はありません。

でも、少数派であるために偏見を持たれることや、ハラスメントの被害を受けることがあり、その結果、うつや不安などの二次的な問題が出て生活に支障が出ることがあります。同様のことは、セクシュアルマイノリティにも言えることです。

ASDの特性が見られても障害とはいえない人がいることを私は以前から指摘し、「非障害自閉スペクトラム」と呼んでいます。他の発達障害でも同様です。

最近では、障害といえる場合もそうでない場合もまとめて「AS」「ADH」(「ASD」「ADHD」から、Disorder=障害を除いた表現)などと呼んでいます。「AS」「ADH」の特性がある中で障害とみなす場合に「ASD」「ADHD」と診断するのです。

このように、発達障害の特性があることをすぐに病気や障害と結びつけるのは正確ではないのです。

 

多数派に、平均値に、友達に「合わせない」

━━発達障害と診断されたり、診断はなくても支援を受けたりしている子どもの数は増えてきています。発達特性のある子どもたちを育てていくうえで大事なことは、どんなことですか?

「多数派に合わせない」「平均値に合わせない」「友達に合わせない」の3つが大事です。これらはつまり、「発達障害の子に世間一般の基準に合わせることを求めて、無理をさせてはいけない」ということです。ちょっと変わっていても、最低限の社会のルールさえ守っていれば、やりたいことをやっていていいのです。

私はよく「グレーとは白ではなくて薄い黒」と言っています。発達障害の行動特性は、周りの大人の育て方次第で、軽減することもあります。

しかし、困難が軽減したとしても、本人の特性が消えて「白」になるわけではなく、「薄い黒」であり続けます。「薄くなっていっていつか消えるもの」ではなく、「どんなに薄くてもずっと残るもの」と考えて育てていくことが大切です。

━━「育て方次第」と言われると、私も親の1人としてドキッとします。

「こういう風に頑張りなさい」と言っているのではなく、「みなさん頑張りすぎているから、ちょっと手を抜いてください」という意味なんですよね。それに、子どもを育てるのは、親御さんだけではありません。保育園・幼稚園・学校の先生たちにも同じことが言えます。

「多数派に合わせるように教えるのが子どものため」といった考えを持って接すると、子どもは極端に萎縮するようになってしまって、「過剰適応」の道に進んでしまいます。

 

焦る気持ちを抑えて「早期発見、早期ブレーキ」

━━「過剰適応」とはどんなもので、どのようにして起こるのでしょうか?

そもそも人は、自分がやりたいことをやるときに生きがいを見出すわけですよね。ところが、自分がやりたいことのなかには他人の権利を侵害したり、他人を傷つけたりするようなことも一部含まれます。だから、それぞれがやりたいことを出しあったうえで、ある程度理性的に合意をして、折り合いをつけます。それが人間関係であり、社会です。

発達障害の人の場合、子どものときにちょっとわがままに見えてしまうわけです。ただ、実際には悪気はないので、後で「これはわがままなんだ」と思うと、人一倍それを気にして、他人を傷つけないように過度に努力してしまうんです。

一方で、「ここまではやりたいことをやるけど、そこからは他人に配慮する」という話し合いのときに、少数派の人の意見が通ることは滅多にない。

だから多数派の人に比べると、周りに合わせることをより強いられやすく、自分が本当にやりたいことを過剰に抑えて、周りに合わせることだけを優先してしまうようになる。この状態が「過剰適応」です。過剰適応が続くとストレスが蓄積し、うつや不安の原因になります。

それを防ぐためには、私は大人の方々に「早期発見、早期ブレーキ」と伝えています。

━━「早期発見、早期療育」は発達障害の子育てにおいて、昨今よく耳にするキーワードですが、「早期発見、早期ブレーキ」とはどういう意味ですか?

お子さんに何かしらの問題があると思うと、その問題を克服させようと思って、親御さんが焦るわけですよね。

だけどそうではなくて、物事を教えるにはそれぞれのお子さんに適した時期とやり方があります。時期尚早なのに無理をして教えようとすると、かえってお子さんを追い込むことになってしまうわけです。

親御さんや学校の先生、支援者の接し方次第で、子どものためによかれと思ってやっていることによって、お子さんは二次障害が起きやすい状態になってしまいます。それを防ぐためには、親御さんが焦る気持ちにブレーキをかける必要があります。なるべく早くブレーキをかける方が、立て直しやすいです。

だから、問題を早期発見したら、親御さんが焦る気持ちにブレーキをかけるのが一番大事なんです。

いま、子育て全般において早期の英才教育をよしとする風潮があるので、親御さんたちがみんな焦っているんですよね。そうではなくて、一人ひとりのお子さんに合わせたオーダーメイドの育て方をもっと普及させた方がいいと思っていて、春には「TOIRO」というスマートフォン・アプリを開発してリリースしました。年齢にとらわれたり、他の子と比べたりしないような接し方を普及させたいですね。

━━では、どんな大人を目指して子育てをしていくのが望ましいと思いますか?

明るくお気楽な生活ができる大人ですね。楽天的で、リラックスしている性格です。いわゆる定型発達に近づけるのではなく、変わらない特性があっても、生活の質を向上させて、楽しく生きている状態です。

何かがうまくいったときには自信を持ち、できなかったときには運が悪かったからしょうがないと諦められることですよね。努力が足りないと絶対思わないことが大事です。

そのために子育てにおいて大事なのは、ちょっと努力したら報われるという体験をどれだけ作れるかです。ポイントは、目標をやや低めに設定することと、その低めに設定した目標をこのくらいの時期に達成したいと思ったときに、ある程度それが実現することです。

相撲の力士は、本場所で15日間取組し、勝敗を争います。「優勝を争う」「勝ち越しを目指す」といった大きな目標はありますが、取組後のインタビューを聞いていると、「また明日から一番一番頑張ります」と言うわけです。あれはすごく大事な考え方で、目標は高く持つかもしれないけども、とりあえず目の前のことを頑張る。

あと、スポーツ選手で強くなる人は、負けたときにサバサバしてますよね。つまり、もう終わってしまったことにいつまでもくよくよしないで、また明日について考えることでうまく切り替えられるんですよね。

失敗したことをそんなに苦にせず、明日に生かす。遠い先のことは高い目標や夢として持つけれども、あまりそこにとらわれずに近くのことを見ている。そのあたりがうまくいく人は、健康的です。

 

「どうすれば楽しい日々を送れるか」を考える

━━発達障害のある子どもの子育てにおけるよい環境とは、どんな環境でしょう?

親御さんには、「どうすれば自分も子どもも、楽しく日々の生活が送れるようになるか」を考えてみるよう勧めています。親子で一緒に遊んだり、くだらない話をしたりすることのできる環境が持てている人は強いですよね。

また、思春期に一緒に遊ぼうとして子どものほうから断られているかどうかが大事です。健康的な自立とは、親が子どもと遊ぼう、関わろうとするのを、子どもがうっとうしく思って蹴飛ばして離れていくことなんです。

反対に、親の側がちょっとバリアを張って、子どもを受け入れようとしないような面を子どもが見てしまうと、不安になり親からの自立が難しくなってしまいます。子どもに対して命令的であったり、教育的にだけ接していたりすると、あまりうまくいかないですね。

大人の側が早く自立してほしいっていう気持ちを持っているうちは子どもは不安がって自立しないけれども、「まだいかないでよ」とすがっていると、蹴飛ばして自立していく。そのことを、親御さんたちに伝えるようにしています。

また、社会に目を向けると、発達障害の特性に対する配慮は、身長の高い低いに対する配慮に似てるところがあると思います。例えば身長が高い人に対して、「うちはMサイズしかないのでこれを着てください」と言うのではなくて、高い身長に合わせた服を用意しますよね。それと同じように、「オーダーメイド」までいかなくても「セミオーダー」ぐらいは社会が用意できるといいなと思います。

発達障害に関する相談窓口はこちら

発達障害者支援センター

発達障害教育推進センター

(取材・文:遠藤光太 編集:毛谷村真木/ハフポスト日本版)

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精神科医・本田秀夫さんに聞く、発達障害のある子どもの育て方で大切なこと

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