投票用紙はなぜ書きやすい? 実は「紙」じゃなかった【衆院選】

10月31日は、衆院選の投開票日。選挙のたび、SNSでは陰ながら「投票用紙」についても注目が集まります。触り心地がつるつるで、鉛筆の「ノリ」が抜群…。そんなコメントが寄せられます。

実はこの投票用紙、木材からできた「紙」ではありません。

いったい、どういうことなのでしょうか? そして、なぜあんなに「書き心地」が最高なのでしょうか? 開発会社への取材などをもとに、投票用紙にまつわる『豆知識』を探りました。

 

「投票用紙」は、一般に流通していない合成紙を使っている

実は、国内で使われている投票用紙は、一般的な「紙」とは異なります。

独自の製法により開発された合成紙で、プラスチックフィルムの一種です。「ユポ」と呼ばれ、ポリプロピレン樹脂と、目視できないほどに細かくした「無機充填材」という天然の鉱物を混ぜて製造されています。

ユポを開発したのは、合成紙メーカーの「ユポ・コーポレーション」。もともとユポは、森林資源の保護のため、安価な石油を使って製造する一般紙の「代替物」として開発されました。

しかし、その後2度のオイルショックを迎え、「一般紙の代替」という当初の目的とは方針を転換。耐水性に優れているなどの利点を生かし、ポスターやシールなど、さまざまな用途で使われるようになりました。たとえば、コーヒーやペットボトルなどに貼り付けられているキャンペーンシールなどに採用されています。

そして、投票用紙に使われているユポは、選挙機材大手の「ムサシ」と「ユポ・コーポレーション」が共同開発したもので、一般には流通していません。

投票用紙以外の用途では使われていないため、あの「書き味」を堪能できるのは、選挙の時だけなのです。

「投票の権利がある方は、ぜひ投票に行っていただいて、よろしければユポの書き心地も試していただけると嬉しいと思います」

ユポ・コーポレーション管理本部・総務部マネージャーの松田篤さんはそう話します。

  

折っても自然に開くから、開票の手間が省ける

投票用紙の特徴は、折り畳んだとしても自然に「開く」ということです。

「フィルムは戻ろうとする力が働きます。長時間折った状態にしてクセをつけると折れるのですが、投票用紙に書き込んで、折りたたんで投票箱に入れる程度であれば、フィルムが戻ろうとする力の方が強い。投票箱の中で、自然にほぼ平らな状態に戻るようになっています」(松田さん)

この特徴によって、「紙を開く」作業時間が短縮され、効率よく開票作業ができるようになりました。 

 

なぜ、あんなに書き味が良いの?

投票用紙は、ひっかかったり、すべったりしない書き味が特徴的です。あの書き味はどうやって生み出されているのでしょうか?

「鉛筆で書く時は、黒い芯が紙の凹凸に引っかかって削れていくことで線を引くことができます。ユポの原料である鉱物は目視できないほど細かくなっているので肌触りには影響しませんが、実は投票用紙の表面は凹凸になっています」(松田さん)

その細かい凹凸が、滑らかな書き味を生み出しているそうです。

さらに、投票用紙に使われているユポを含め、全国に流通しているユポは、すべて茨城県神栖市にある鹿島工場で製造されています。

「投票用紙は間違っても欠品してはいけないので、在庫を保管しておくなど準備に細心の注意を払っています」と松田さんは話します。

 

余った投票用紙はどうなるの?

一方で、これまでの国政選挙では、低投票率が続いています。

余った投票用紙はどうなるのでしょうか。

世田谷区の選挙管理委員会に問い合わせたところ、東京都23区では、選挙後にまとめて余った投票用紙をリサイクルに出しているそうです。

しかし、リサイクルに出しているとはいえ、投票用紙は選挙の時にしか遭遇することはできません。ぜひ投票に行って、その書き心地を試してみてください。

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