「温暖化したおかげで北海道のコメは美味くなった」。
10月25日、北海道小樽市で行われた街頭演説での自民党の麻生太郎・副総裁の発言が波紋を呼んでいる。「農家のおかげですか?農協の力ですか?違います」という内容にはSNSで「品種改良の努力を踏みにじっている」などと批判もあがっている。
そもそも、この主張は正しいのか。
北海道大学農学研究院の専門家は、品種改良に加え、栽培技術や収穫後技術の改善を積み重ねた結果だと指摘。「温暖化の影響はほとんどない。猛暑である必要も、地球温暖化である必要もありません」と話している。
問題の発言があったのは10月25日。小樽市で衆院選の自民党公認候補とともに街頭演説に立った麻生氏は「今、北海道は色々な意味であったかくなった。平均気温が2度上がったおかげで北海道のコメは美味しくなった」と切り出した。
そして「昔、北海道のコメは『やっかい道米』と言われるほど売れないコメだった。今はその北海道がやたら美味いコメを作るようになった。農家のおかげですか?農協の力ですか?違います。温度が上がったからです」と発言した。
さらに「平均気温が2度上がったおかげで北海道のコメは美味しくなった。地球温暖化といえば悪い話しか書いてありませんが、温暖化でいいこともあります」とも話した。
この発言が報じられるとSNSでは、「品種改良の努力を踏みにじっている」などと批判の声が相次いだ。
発言では「おぼろづき」「こちぴかり」という銘柄を挙げ「金賞を取った」ともしているが、「こちぴかり」という銘柄は存在しない。類似の名前で「コシヒカリ」はあるが、北海道では生産されていない。
では、「温暖化したおかげで米が美味くなった」とする麻生氏の発言はどの程度、正確と言えるのか。
北海道大学農学研究院の川村周三(しゅうそう)研究員・元教授は「温暖化の影響はほとんどない」と指摘する。
北海道のコメは、以前は「美味しくない」という印象を持たれていた。「やっかい道米」と揶揄されていたのも事実だ。
この課題に1980年から取り組んできたのが農家や農協、それに農業試験場や研究者らだ。川村さんによると、①品種改良②栽培技術③収穫後技術の3点が、北海道産米の食味向上のポイントだという。
コメは一般に、でんぷんの成分「アミロース」とタンパク質の含有量を適度に下げることが必要になる。粘りがあり柔らかくなるからだ。
「北海道では初めてのコシヒカリ系統となる『きらら397』が1989年にデビューし、やっと美味しいコメが出てきました。さらに『彩(あや)』という遺伝的にアミロースが少ない品種が生まれると、今は同じ低アミロース系統品種の『おぼろづき』『ゆめぴりか』が広く栽培されています」
さらに、タンパク質量についても、原因となる窒素肥料を抑えるなど、栽培技術を向上させることで減らすことに成功した。
コメの収穫後に用いられる技術の進歩も味の向上につながった。例えば収穫後のコメのタンパク質量や成熟した米粒の割合を測る「自動品質判定」や、北海道の冷たい自然の空気をサイロに送り込むことで、籾をマイナス5度からマイナス10度程度まで冷やす技術などを独自に開発した。
こうした過程を踏まえると、麻生氏の「農家のおかげですか?農協の力ですか?違います。温度が上がったからです」という発言は誤っているとみられる。
一方で、温暖化の影響が考えられるのは、稲の花が咲いてから収穫するまでの登熟期間だ。この期間の気温が高いとアミロースは低下し、粘りがあり柔らかいコメになる。麻生氏も「お米の花が実に変わるあのころの温度が2度上がった」と発言しているが、このことを指している可能性はありそうだ。
しかし川村さんは「暑い年でないと美味しいコメができない、というわけではありません。平年並みでも、過去には冷害年でも『ゆめぴりか』は食味試験で高い評価を得ています。猛暑である必要も、地球温暖化である必要もありません。さらに、高温障害は本州以南で問題になっています」と指摘している。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「温暖化のおかげで北海道の米がうまくなった」麻生氏発言→専門家「温暖化の影響はほとんどない」と指摘