プロ野球ドラフト会議の季節がやってきた。
この時期の恒例行事が指名後の「採点」だ。12球団が指名した選手をもとに、アマチュア球界に詳しい人たちがスポーツ誌上などで点数をつけるというものだ。
しかし、これは必ずしも正確とは言い切れない。複数球団が競合する「目玉」がプロの世界で結果を残せずにグラウンドから去ることもあれば、「隠し球」が侍ジャパンのユニフォームに袖を通すことだってある。ソフトバンクの千賀滉大投手と甲斐拓也捕手はいずれも2010年に育成ドラフトで指名されているのだ。
「ドラフトは5年後にならないと分からない」ー。アマチュア野球ファンの間ではよく囁かれる言葉だ。では2021年のドラフトを前に、5年前、つまり2016年ドラフトを振り返ろう。
※記事中の成績は2021年10月4日時点。指名時のポジションはNPB公式サイトに準拠。
SMAP解散騒動から始まり、アメリカ・オバマ大統領(当時)の広島訪問に国民の目が注がれた2016年。野球界では広島が25年ぶりに優勝。赤ヘル旋風再来のきっかけとなった。
甲子園では作新学院(栃木)が優勝。エースの今井達也投手がドラフト戦線に急浮上する(ちなみに、4番打者の入江大生選手は大学を経て2020年に横浜DeNA入り)。
この年の目玉は創価大学の田中正義投手。大学3年時にプロ野球の若手ホープを集めたチームとの試合に登板すると、7者連続三振を奪う快投。150キロ中盤のノビのある速球にプロ野球のスカウトたちは惚れ込んでいた。桜美林大学の佐々木千隼投手も注目株。肘を下げなから投じる速球と変化球のコンビネーションで「ドラ1確実」の評価を確たるものにしていた。
高校では今井投手に加え、藤平尚真投手(横浜)、寺島成輝投手(履正社)、高橋昂也投手(花咲徳栄)が「高校BIG4」を形成。即戦力の田中か、それとも高校生か。それが焦点だった。
1位 山岡 泰輔 投手 東京ガス
2位 黒木 優太 投手 立正大
3位 岡﨑 大輔 内野手 花咲徳栄高
4位 山本 由伸 投手 都城高
5位 小林 慶祐 投手 日本生命
6位 山﨑 颯一郎 投手 敦賀気比高
7位 飯田 大祐 捕手 Honda鈴鹿
8位 澤田 圭佑 投手 立教大
9位 根本 薫 投手 霞ケ浦高
育成選手:
1位 張 奕 外野手 日本経済大
2位 榊原 翼 投手 浦和学院高
3位 神戸 文也 投手 立正大
4位 坂本 一将 内野手 石川ミリオンスターズ
5位 中道 勝士 捕手 明治大
オリックスのドラフトは誰がどう見ても大成功だ。1位の山岡泰輔投手は高卒→社会人のルートで年齢的には大学3年生と同じだったが、即戦力の評価。1年目から8勝を挙げ、2019年には13勝。すでに先発陣に欠かせない柱となっている。
4位の山本由伸投手は現状、日本球界最強の投手といえるだろう。2021年の東京五輪では準決勝・韓国戦などに先発し、右投手のベストナインに選出。2021年シーズンも16勝5敗、防御率1.42ともはや敵なし。球界のエースを4位指名で手に入れたのは慧眼としか言いようがない。
1位 柳 裕也 投手 明治大
2位 京田 陽太 内野手 日本大
3位 石垣 雅海 内野手 酒田南高
4位 笠原 祥太郎 投手 新潟医療福祉大
5位 藤嶋 健人 投手 東邦高
6位 丸山 泰資 投手 東海大
育成選手:
1位 木下 雄介 投手 徳島インディゴソックス
中日の指名も凄まじい。横浜DeNAとの競合の末獲得した柳裕也投手は、豪速球こそ無いが制球と球のキレで勝負する右腕。抜群の安定感を誇り、今も先発陣を支えている。
2位の京田陽太選手は守備走塁に秀でていたが、1年目から141試合に出場し打率.264、149安打、23盗塁を記録。打撃面での貢献もあり、新人王を獲得した。いまや1軍の正ショートだ。確実にセンターラインの補強に成功している。
他にも5位の藤嶋健人投手は野手としての才能も期待されていたが、投手としてここまで43登板で防御率1.58。下位指名まで隙がない。育成指名から支配下にこぎつけた木下雄介投手は、7月に名古屋市内で練習していたところ倒れ、治療が続けられていたが8月3日に息を引き取った。27歳だった。中継ぎ陣の柱として期待されていただけに残念でならない。
1位 藤平 尚真 投手 横浜高
2位 池田 隆英 投手 創価大
3位 田中 和基 外野手 立教大
4位 菅原 秀 投手 大阪体育大
5位 森原 康平 投手 新日鐵住金広畑
6位 鶴田 圭祐 投手 帝京大学準硬式野球部
7位 野元 浩輝 投手 佐世保工高
8位 石原 彪 捕手 京都翔英高
9位 高梨 雄平 投手 JX-ENEOS
10位 西口 直人 投手 甲賀健康医療専門学校
育成選手:
1位 千葉 耕太 投手 花巻東高
2位 南 要輔 内野手 明星大
3位 向谷 拓巳 内野手 兵庫ブルーサンダーズ
4位 木村 敏靖 投手 履正社医療スポーツ専門学校
総勢14人指名の大所帯。出世頭は森原康平投手か。パワフルな投球が特徴で、2019年には64登板で防御率1.97という活躍を見せている。
1位指名の藤平尚真投手は抜群の身体能力が売りだが、通算26登板7勝とやや伸び悩み。9位の高梨雄平投手は左の変則投手として、移籍先の巨人のブルペンを支えている。
ドラフト10位入団の西口直人投手も2021年は24登板。中継ぎとして存在感を高めつつある。
1位 大山 悠輔 内野手 白鴎大
2位 小野 泰己 投手 富士大
3位 才木 浩人 投手 須磨翔風高
4位 濵地 真澄 投手 福岡大大濠高
5位 糸原 健斗 内野手 JX-ENEOS
6位 福永 春吾 投手 徳島インディゴソックス
7位 長坂 拳弥 捕手 東北福祉大
8位 藤谷 洸介 投手 パナソニック
観覧席から「ええ〜!」という声が上がったのが懐かしい。スポーツ紙では1位は佐々木千隼投手(桜美林大)と予想されていたのが、野手を重視した金本知憲監督(当時)による大山悠輔選手のサプライズ指名だった。
大山選手はいまや阪神の主軸打者。2020年は28本ものホームランを放ち、2021年もここまで18本を記録している。5位の糸原健斗選手も3番を打つこともある内野の要となった。
1位 今井 達也 投手 作新学院高
2位 中塚 駿太 投手 白鴎大
3位 源田 壮亮 内野手 トヨタ自動車
4位 鈴木 将平 外野手 静岡高
5位 平井 克典 投手 Honda鈴鹿
6位 田村 伊知郎 投手 立教大
夏に急成長を見せた今井達也投手の単独指名に成功。150キロオーバーの威力ある速球を武器に、2021年は7勝7敗、防御率3.63と先発ローテーションとしての役割を果たしている。
「大当たり」は3位の源田壮亮選手。トヨタ自動車では下位打線を打つこともあり、守備力が評価されたとみられていたが、1年目から143試合に出場するなどレギュラーに定着。新人王を獲得し、それ以来毎年2割台後半の打率を残している。当初から評価されていたショートの守備はプロ野球界トップクラスで、侍ジャパンの一員として東京五輪を戦った。5位の平井克典投手もサイドスローとして欠かせない存在で、大成功と言えるだろう。
1位 寺島 成輝 投手 履正社高
2位 星 知弥 投手 明治大
3位 梅野 雄吾 投手 九産大九産高
4位 中尾 輝 投手 名古屋経済大
5位 古賀 優大 捕手 明徳義塾高
6位 菊沢 竜佑 投手 相双リテック
育成選手:
1位 大村 孟 捕手 石川ミリオンスターズ
こちらも阪神同様、当日まで佐々木千隼投手の1位指名が濃厚とみられていたが、蓋を開けてみると高校BIG4の一角・寺島成輝投手を単独指名。本番まで作戦を隠していた球団のファインプレーだった。
その寺島投手は伸び悩む。2020年には中継ぎとして30登板防御率2.48と覚醒を感じさせたが、2021年は2軍で先発として打ち込まれるシーンが目立つ。2016年夏の甲子園では、エースとして横浜高校と名勝負を演じて見せた左腕。飛躍が待たれる。
2位の星知弥投手は最速156キロの速球が注目されたが、プロ入り後は怪我に苦しんだ。しかし2021年は復活を果たし、中継ぎとして試合の要所を任されることも。3位の梅野雄吾投手は3年目の2019年には68登板で防御率3.72と大車輪の活躍。こちらもコンディションの回復が待たれる。
5位の古賀優大捕手はすっかり1軍に定着。中村悠平捕手を支える第2捕手となっている。全体的にズバ抜けた主役はいないものの、1軍に欠かせない戦力を補強した印象だ。
1位 佐々木 千隼 投手 桜美林大
2位 酒居 知史 投手 大阪ガス
3位 島 孝明 投手 東海大市原望洋高
4位 土肥 星也 投手 大阪ガス
5位 有吉 優樹 投手 九州三菱自動車
6位 種市 篤暉 投手 八戸工大一高
7位 宗接 唯人 捕手 亜細亜大
育成選手:
1位 安江 嘉純 投手 石川ミリオンスターズ
2位 菅原 祥太 外野手 日本ウェルネススポーツ大
上述の通り、佐々木千隼投手を指名するとみられた阪神とヤクルトが揃って回避。1位指名確実とみられた佐々木投手に初回入札の指名がゼロという、誰もが予想しない事態になった。外れ1位指名では、これ幸いとばかりに指名が集中。「外れ1位が5球団競合」という前代未聞の状況が生まれた。
縁をつかんだのはロッテ。即戦力と期待された佐々木投手だが、2020年までは目立った成績を残せなかった。しかし2021年には中継ぎとして、これまでに48試合登板して防御率は1.24。「覚醒」を待ち続けたロッテファンの思いがついに届いた格好だ。
1位 濱口 遥大 投手 神奈川大
2位 水野 滉也 投手 東海大北海道キャンパス
3位 松尾 大河 内野手 秀岳館高
4位 京山 将弥 投手 近江高
5位 細川 成也 投手 明秀日立高
6位 尾仲 祐哉 投手 広島経済大
7位 狩野 行寿 内野手 平成国際大
8位 進藤 拓也 投手 JR東日本
9位 佐野 恵太 内野手 明治大
育成選手:
1位 笠井 崇正 投手 信濃グランセローズ
1位指名のくじを2回外した横浜DeNAは、地元・神奈川大学の濱口遥大投手を指名。この選択が大当たりで、伸びのある速球とチェンジアップを武器に1年目から10勝を挙げ新人特別賞を受賞する。その後は状態の浮き沈みもあったが、良い時には手のつけられない投球をする特徴は変わっていない。
ハイライトは9位指名の佐野恵太内野手。明治大学の4番打者として君臨しており、圧倒的な打撃センスに惚れ込んだ横浜DeNAが指名。2020年には打率.328で首位打者に輝いた。4位の京山将弥投手は先発として、5位の細川成也外野手は主軸打者として、これからが楽しみだ。
1位 田中 正義 投手 創価大
2位 古谷 優人 投手 江陵高
3位 九鬼 隆平 捕手 秀岳館高
4位 三森 大貴 内野手 青森山田高
育成選手:
1位 大本 将吾 外野手 帝京五高
2位 長谷川 宙輝 投手 聖徳学園高
3位 田城 飛翔 外野手 八戸学院光星高
4位 森山 孔介 内野手 藤沢翔陵高
5位 清水 陸哉 外野手 京都国際高
6位 松本 龍憲 内野手 崇徳高
5球団競合、最大の目玉を手にしたのはソフトバンク。ただでさえ巨大戦力なのに田中正義投手まで加わってしまえば…と11球団ファンは震え上がったのではないだろうか。
しかし田中投手はここまでプロ通算23登板で勝ち星はない。2021年には9月7日にプロ初ホールドを記録するなど、怪我に苦しんだキャリアの中で光を掴みかけている。
ほかにも、4位の三森大貴選手がセカンドとして連日スタメンに名を連ねていて、2021年は打率.258で11盗塁。お家芸とも言える育成の大量指名からは戦力は出ておらず、長谷川宙輝投手はヤクルト、 田城飛翔外野手はオリックスに移籍している。
1位 加藤 拓也 投手 慶應義塾大(※現在は「矢崎」)
2位 高橋 昂也 投手 花咲徳栄高
3位 床田 寛樹 投手 中部学院大
4位 坂倉 将吾 捕手 日大三高
5位 アドゥワ 誠 投手 松山聖陵高
6位 長井 良太 投手 つくば秀英高
3位の床田寛樹投手が先発ローテーションで存在感を放っている。低め低めにボールを集める技巧派で、今シーズンはここまで5勝3敗、防御率2.50。9月21日には強力・巨人打線を相手にプロ初完封を演じて見せた。
4位の坂倉将吾捕手は打撃面で進境著しい。2021年はレギュラーの座を掴み取り、打率.306、11本塁打だ。2位の高橋昂也投手も、2021年には先発として投げる機会が増えてきており、5年前に蒔いた種が徐々に芽を出しつつある。
1位 堀 瑞輝 投手 広島新庄高
2位 石井 一成 内野手 早稲田大
3位 高良 一輝 投手 九州産業大
4位 森山 恵佑 外野手 専修大
5位 高山 優希 投手 大阪桐蔭高
6位 山口 裕次郎 投手 履正社高(※入団拒否)
7位 郡 拓也 捕手 帝京高
8位 玉井 大翔 投手 新日鉄住金かずさマジック
9位 今井 順之助 内野手 中京高
セットアッパーとして開花したのが堀瑞輝投手。キレのある速球とスライダーの組み合わせが高校時代から注目され、3年夏の甲子園初戦では12回を投げきり完投勝利をあげた。
プロでは中継ぎとして重宝され、2021年は54試合登板で防御率2.47、リーグトップの38ホールドポイント。最優秀中継ぎのタイトルを完全に視界に捉えている。
2位の石井一成選手は堅守のショートとしてここまで111試合に出場。8位の玉井大翔投手は右肘手術から復帰した2021年シーズン、中継ぎとして39試合に登板し、防御率3.66だ。
1位 吉川 尚輝 内野手 中京学院大
2位 畠 世周 投手 近畿大
3位 谷岡 竜平 投手 東芝
4位 池田 駿 投手 ヤマハ
5位 高田 萌生 投手 創志学園高
6位 大江 竜聖 投手 二松学舍大付高
7位 廖 任磊 投手 岡山共生高卒
育成選手:
1位 髙井 俊 投手 新潟アルビレックスBC
2位 加藤 脩平 外野手 磐田東高
3位 山川 和大 投手 兵庫ブルーサンダーズ
4位 坂本 工宜 投手 関西学院大学準硬式野球部
5位 松原 聖弥 外野手 明星大
6位 高山 竜太朗 捕手 九州産業大
7位 堀岡 隼人 投手 青森山田高
8位 松澤 裕介 外野手 香川オリーブガイナーズ
田中正義投手、佐々木千隼投手と目玉のくじを2回連続で外し、吉川尚輝選手を指名。長年の課題だった「セカンド不在問題」を埋めるべく、2021年は94試合に出場している。打率.280の打撃はもちろん、広い守備範囲にも定評がある。
6位の大江竜聖投手はプロ入り後、肘を大きく下げサイドスローに転向。これが奏功し、「左キラー」として2021年は46試合に登板している。
特筆すべきは育成5位の松原聖弥外野手。名門・仙台育英高校時代は3年夏ベンチにすら入れず、甲子園で戦う仲間をスタンドから応援していた過去がある。
大学でその才能を開花させると、プロでは2018年に支配下登録。2021年には外野のレギュラーの一角を掴み取り、打率.280、11本塁打。山口鉄也投手や松本哲也外野手といった存在に続く「育成の星」となりつつある。
Source: ハフィントンポスト
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