「主夫」が家族のかたちの1つに「主夫をお願いしたらダメですか?」作者が込めた思い

あなたの周りに、「主夫」はいるだろうか。

ジェンダーギャップ指数120位でジェンダー不平等な日本では、「主夫」の存在はまだ多いとは言えないだろう。“女性活躍”を推進しながらも、家事・育児はいまだ女性に押しつけられている。仕事との両立を迫られるなかで、気づけばマミートラック(産休・育休などを経て乗ってしまう、望まないキャリアコース)に乗せられていることも少なくない。

不平等を解消するための身近な解決策は、男性が家事・育児に参加することだ。 

2022年4月から周知・意向確認が義務化される企業の男性版産休(出生時育児休業)は、2022年10月からの施行が見込まれている。また、育休を取得した男性は、その後も家事・育児を負担する割合が高いことが明らかになっている。

Web連載が反響を呼び、書籍化された『主夫をお願いしたらダメですか?』(祥伝社)は、作者であるイラストレーター・弓家キョウコさんの体験を元にしたコミックエッセイだ。

弓家さんが夫に「主夫」をお願いするに至った経緯や、その際にどんな壁にぶつかったのか、読者から寄せられた共感の声のなかでも印象に残っているものなどについて、話を聞いた。

 

なぜ、こんなに追い詰められているのか?

作者の弓家キョウコさんはもともとイラストレーターとして在宅で仕事をしながら、いわゆる「ワンオペ」で家事・育児をしていた。夫は飲食店の仕事で週6勤務、ほとんど家にいない生活だったという。

2歳の息子が昼寝をしている間や早朝に仕事を進め、夕方にはテレビを見せながら夕食の準備をする日々。ワンオペで夫と息子との3人家族を支えていたときの気持ちは、作中で「なに…このひとり相撲感…」と表現されている。

「具合が悪くてももちろん休めず、体力的につらかったです。それ以上に、“なぜこんなに追い詰められているのか”が、本来は夫婦として同じ土俵に立っているはずの夫にわかってもらえていない、精神的な孤独感がいちばんしんどかったですね。

『手伝う』という言葉に対する、ちょっとした違和感もありました。『手伝う』と言われたときに、『ありがとう』とも思うけれども、「また指示を出さなきゃいけないんだ」とちょっと疲れたりすると思うんですね。会社に例えると、ずっと部下が育ってくれない状態。それが大変です。

外出して帰宅したときに『食器とか減ってくれていたらいいのに』と思う。『自分だけがずっとやっていかないといけないのかな』というのが不安になったりしますよね」

本書の帯に書かれた「言われたことしかやらんなほんとに!」の文字に、思わず大きく頷く女性は多いだろう。夫がいう「洗濯物たたんだよ」は「たたんだだけで、しまわない」「子どもを見てるね」は「ただ見ているだけで、子どもと遊ぶわけではない(スマホを触っていることも)」…。

漫画では、弓家さんが家事の分担について、なんとか夫に理解してもらおうと努力するも、なかなかうまくいかない過程が描かれる。

「夫に家事をしてほしくて、家族会議を開いて、家事の分担チェックリストを作ったりしても、ことごとく失敗してきました。『なんで?』と考えたときに、多分そういうことを聞く準備ができてないんだなと思ったんです。

畑に例えると、ガッスガスの乾いた土に苗を植えようとしてもだめで、まず土を良い状態に持っていく。夫には、『私はあなたと関係をもっと良くしたいんだよ』ということを最初に伝えることにしました。

さらに『家族としても男性としても大好きだから、こういう風に良くしていきたい』と、家族運営のビジョンを伝えて、温度感を合わせることから始めました。言わなくてもわかってくれていると思っていましたが、言葉に出すことで聞く側も意識が変わってくることを感じました」

 

追い詰められた時、パートナーはどう振る舞うか

その後、夫の働く店が一時的に閉まることになり、家族が変わる契機となる。夫は家計を考えてアルバイトをしようとしたが、弓家さんは葛藤しながらも、夫に思い切って主夫をお願いすることにした。

しばらく経って夫の主夫業が板につき、笑顔が増え始めた矢先、夫に過剰な負荷がかかり、“キレて”しまう印象的な場面がある。

「夫は滅多に怒らない人ですが、男性・女性関係なく、家事・育児で追い詰められたら、やっぱりこうなってしまうんだなと、自分にとっても衝撃でした。どこかで『夫なら淡々とやれちゃうんじゃないかな』と思っているところもありましたが、やっぱりそうではなくて。

『私もあのときこれぐらいやっていて、あなたは助けてくれなかったんだから、これぐらいやりなさいよ』という気持ちもありましたが、変わろう、と思いました。ここで自分が変わらなかったら、この人が主夫でも私が主婦でも良くならないだろうなと。

あと、やっぱり育児は甘く見ちゃいけない。家事、育児を担いながら、笑顔でいるってすごいぞ、と。『家に帰ったときぐらい笑顔で出迎えてくれよ』という言葉を耳にしますが、『いや、それすごいことですよ』って。旅館だったら5つ星ぐらいのおもてなしですよね」

そして、夫婦は関係性をアップデートしていくことになる。

「私は、恋愛と結婚は別ものであることを嘆いていました。母や祖母からは『結婚するまでは両目で見て、結婚してからは片目つぶってあきらめろ』と言われて、何それ、と思って(笑)。あきらめてからの人生のほうがすごく長いわけで、『いや、そんなことはない。ずっと恋人気分のままでいればいい』と思っていたんですよ。好きで結婚したし、私たちならいける、と。

でも結婚して一緒に生活すると、不満がでてきて、恋愛と結婚は別ものというのはこういうことなんだな、と思いました。それで『このままこの人をちょっと嫌いになったまま、ただ離婚に踏み切らないだけ』のような関係がずっと続くのだとしたら、結婚って何よ、と思ってしまって。

でも、これは進化した関係性であって、確かに別だけれども、もっと別の意味で好きになれるじゃん、という風に頭が切り替わっていって。それは悪いことではなくて、関係をアップデートしていっているんだと。恋愛と結婚は別と聞いて悲観的になる人は多いと思うし、私もそうでした。そういう人たちに、漫画を通して心を込めて伝えたかったことですね」

 

1日200件のDM「主夫が珍しい存在でなくなって欲しい」

夫が主夫になった体験を漫画にして発表した弓家さんのもとには、1日におよそ200件ものダイレクトメッセージが届くそうだ。「主夫をやっているが、妻の圧が強くて怖い。どうしたら妻が優しくなりますか?」といった質問を受けて、弓家さんは、主夫になったからといって、家事・育児の大変さを必ずしも夫婦で共有できるわけではないことを知った。

また、コロナ禍の影響で職を失くし、主夫にならざるを得なかった方からもメッセージが届いた。「男性が仕事をしていなくて、家事・育児に勤しむのは肩身が狭い思いをしていたが、(本を読んで)こういう選択もありなんだな、自分の家族が幸せだったらそれでいいんだなと思えるようになった」と。

弓家さんはそうした声も受けて「主夫が珍しい存在でなくなっていってほしい」と願う。

「『主夫をやっているって、何か深刻な理由があるの?』と聞かれてしまう人もいます。そうではなくて、『この家族はこういう選択をしたんだね』とフラットな視点で見てもらえたら、男性も家事・育児をしやすくなって、もっと関わりやすくなっていくのかなと思います。

ちょうど新型コロナの感染拡大がニュースになり始めたころ、この連載のプロットを作り始めていたのですが、SNSを見ていると、夫の悪口や不満を強烈に出している作品が多かったです。

私は、この連載が最終回を迎えるころには、コロナ禍がもっと深刻になり世の中が不安に満ちているのではないかと思っていました。『ウケがいいから』『わかりやすいから』といった理由で不安を助長するような作品にするのではなく、誰か一人でも、できるだけ救いになるような作品を作りたいと思っていました」

現在は過渡期だ。しかし確実に、流れは変わってきている。本書のような作品を媒介として社会が変化していこうとしているいま、家族とは何か、何のために家族になっているのか、そして、ジェンダー不平等が何に起因しているのかを、改めて考え直したいと思う。 

弓家キョウコ(ゆげ・きょうこ)

漫画家、ブロガー。主夫の夫と息子と猫だいたい4~7匹(※保護猫活動により不定期に数が変わる)と暮らす。晩酌と読書が日課。ninaruポッケで性教育をテーマにした新連載『ママ、ちんちんないの?と聞かれまして。』がスタート。初の著書『主夫をお願いしたらダメですか?』(祥伝社)が発売中。

(取材・文:遠藤光太  編集:毛谷村真木/ハフポスト日本版)

…クリックして全文を読む

Source: ハフィントンポスト
「主夫」が家族のかたちの1つに「主夫をお願いしたらダメですか?」作者が込めた思い