8月11日以降、全国的に続いた豪雨。いまだ被害の全貌は明らかになってないが、19日の段階で床上浸水などの被害を受けた住家は4755棟、避難者の数も1315人にのぼると報告されている。
川の氾濫や土石流、さらには市街地の冠水など被害の大きさの一方、いち早く被災地に入ったボランティアからは違和感を訴える声も挙がる。「過去の同規模の災害に比べ、避難所に入る人が少ない」というのだ。
「新型コロナ猛威」のもとで起きた豪雨災害、いま何が起きているのか。
(明城)「今回の大雨による被害の特徴は、被災地域の広さです。佐賀や福岡など九州北部の被害が大きい地域のほか、関東から九州まで幅広く被害が報じられています」
全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)の事務局長、明城徹也さん。長年、災害支援に関わってきた明城さんのもとには、いち早く被災地に入ったボランティアなどから、今回の豪雨による被害の情報が次々と報告されている。
「まだ雨が続いている地域も多く、自治体も含めて状況を把握しきれていない部分もあります。特に佐賀県などは、週末にかけてようやく、被害の全貌が見えてくると思います」
いま明城さんが心配しているのは、新型コロナの影響だ。デルタ株のまん延で全国的に危機感が高まるなか、被災者の避難行動などにも影響が出ている可能性がある。過去の同規模の災害と比べて、避難所に入っている人の数が少ない印象がある、という報告も相次いでいる。
「今回は流されてしまった家が比較的少ないという影響もあるかもしれませんが、新型コロナへの感染を恐れて、自宅での生活を選択している人が多い可能性もあります。
避難所にいればどんな被害があったのか把握しやすいのですが、家の中で生活されていると、そこに被災者がいるかどうかもなかなか見えないし、声もかけにくい。結果、支援が遅れる可能性があります」
支援が遅れるのが、なぜ問題なのか。実は家屋が浸水した場合、一見大きな被害はなくても、迅速な対応が必要となるケースが少なくない。
例えば、壁の中にある「断熱材」に水がしみ込んでしまった場合。夏のこの時期、1~2週間も放置しているとカビが発生し、知らぬ間に広範囲に繁殖してしまうことがある。その胞子などを吸い込むことによる健康被害につながりかねない。
また、床下に水が溜まっているのに、見過ごされてしまった場合。長い時間をかけて家の土台となる基礎が腐食してしまうこともある。せっかく水害を耐え抜いた住まいに、住みつづけられなくなるリスクもあるのだ。
そこで大切なのが、床板をはがして床下に水が溜まっていないかを確認したり、湿気がひどいようであればサーキュレーターを使った強制換気により乾燥させたりすること。このような「応急処置」をとりあえずしておくことで、その後に影響が残ってしまうリスクを減らせる。
ただ「応急処置」とはいっても、一見しただけではわかりにくい浸水被害の確認や、状況に応じた機材の利用などは専門的な技術やノウハウが欠かせない。ただでさえダメージを受けている被災者自身に臨むのは酷だし、自治体の手もそこまでは回らないこともある。そこで大切になるのが、経験を積んだボランティアの存在だ。
国内では東日本大震災以降、こうした専門的な技術を持つ災害対策NPOなどの団体が全国各地に設立された。2018年の平成30年7月豪雨(西日本豪雨)の際には、被災地での復旧作業に大きな役割を果たした。
しかし明城さんによれば、今回、コロナ猛威下での豪雨災害の支援は、そうした豊富な経験を持つ団体にとっても悩ましい部分が多いのだという。
「ひとつは、感染リスクです。支援団体が入ることで、コロナの感染を拡げてしまってはいけません。実際、被災した自治体も、基本的には県内のボランティアのみに募集を限定することで、感染リスクに備えようとしています。
一方で例えば佐賀県では、早急な被害からの復旧を目指し、専門的な技術をもつ団体に限定して受け入れが行われることになっています。もちろん、医療福祉の専門メンバーと相談するなど、徹底したコロナ対策が前提です。以前より慎重な行動や備品の購入が必要となり、団体側にとっては負担が増します」
もうひとつの課題が、資金面だ。
被災した地域は全国にまたがっており、支援を行う場合は現地に行くための移動費や滞在費が必要になる。ショベルカーなどの重機を用いた作業を伴う場合は、燃料費もばかにならない。
団体はそれぞれ、自前のホームページやSNSなどにより活動資金の支援の呼びかけを行っているが、コロナの長期化に伴い、寄付の集まりが悪くなってきているのだという。
「いまはコロナのまん延で、日本中の人が不安を抱えています。マスメディアのニュースでも、連日コロナがトップに報じられ、災害のニュースは時間を割かれないこともあります。その結果、世間の注目も集まりにくくなっているのかもしれないとも感じます。
しかし今回の豪雨で、被災した人は実際に存在します。浸水した後、片付けもままならない部屋の中で、不安な夜を過ごしている人がいらっしゃいます。その人たちに、できるだけ早く安心して、普段の生活に戻っていただきたい。支援団体はそう思って、感染対策に心を砕きながら取り組もうとしています。もしよかったら活動に心を止めて頂いたり、ご支援を頂ければと願っています」
明城さんは、今月16日に立ち上がった「令和3年8月豪雨 緊急災害支援基金」の運営委員として、今回の豪雨災害に対し、専門的な支援活動を行うNPOなどの団体への寄付を呼びかけている。なお、同基金への寄付は税額控除の対象となる。
※「令和3年8月豪雨 緊急災害支援基金」は、READYFOR×ボラサポ災害支援基金によって運営されています。この記事の筆者である市川は、READYFOR(株)の社員として、基金運営に主体的に関わっています。
(取材協力)
Source: ハフィントンポスト
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