渡邊圭祐さんが肌で感じた“推す”感情「誰かの生きる支えや希望さえ生み出すもの」

2021年7月から放送中のドラマ『推しの王子様』(フジテレビ系、毎週木曜夜10時)は、乙女ゲームを手掛けるベンチャー企業の社長、日高泉美(ひだか・いずみ/比嘉愛未さん)が、2次元の「推し」と容姿がそっくりな青年に出会うところから始まる、ロマンチック・コメディーだ。

外見は主人公の理想でありながら、不遇ゆえに仕事も将来への希望も持たない相手役を演じるのは、俳優デビューから約3年で、話題作への出演が続く渡邊圭祐さん。本作の主題となる「推しを推す」感情を、どう受け止めているのだろうか。

 

演じるのは「何も持たない青年」五十嵐航

物語の主人公・泉美が気鋭の経営者として注目を浴びるきっかけになった、自社の大ヒットゲームの登場キャラクター「ケント様」は、彼女の理想の男性像を具現化した王子様で、「推し」だ。自宅には、彼のグッズや等身大パネルが所狭しと並ぶ。

そんな泉美のもとに、ある日突然現れるのが、渡邊さんの演じる五十嵐航(いがらし・わたる)だ。容姿は「推し」そのものという奇跡。

しかし、さまざまなものから見放されて育ったつらい過去を持つ青年であることが、序盤から示唆される。作法を知らず、教養もなく、無気力。安定した仕事に就けず、ネットカフェで寝泊まりする生活を送っている。泉美がひょんなことで彼を自社の社員として雇い、仕事はもちろん、人との接し方などまで教えるようになるところから、物語は展開していく。

泉美と初めて出会う第1話のシーンで、航は文字通り「空から舞い降りて」くる。しかしその実は、借金取りから逃れるために歩道橋から飛び降りるという、ロマンチックとはほど遠いものだ。「何も持たない青年」という今回の役に、渡邊さんはどんな印象を持ったのだろうか。

 

「大学時代の自分には航と重なる部分もあったような気がします」

「恵まれない環境に置かれたり、いろいろな巡りあわせがうまくいかなかったりして、世の中にも自分自身にも、希望を見いだせなくなってしまう。程度の差はあるにせよ、航に近い感覚を抱いたことのある若者は多いのではないかと思います」

「将来に対するビジョンを持たなかったという意味で、大学時代の自分には航と重なる部分もあったような気がしますね。ただ、僕が航と大きく違っていたのは、一緒にいてくれる友達の存在や、生活を脅かされることなく自由に使える時間があったこと」

「先々の見通しを立てるって誰にとっても難しいことですけど、僕がどこか『楽しむことを忘れなければ、何とかなる』と前向きでいられたのは、自分にとっての『楽しい』をキャッチできるだけの心のゆとりがあったからだと思います。そういうものと縁がなかった航が、どう変わっていくのか、変われるのか。丁寧に演じていきたいです」

 

「人の魅力って、要素が複雑にからみ合ってにじみ出てくるもの」

こうした航の役柄は、「主役カップルの恋愛の行方にドキドキする」というだけにとどまらない要素を、この作品にもたらしそうだ。

泉美に「育成」されることで、航がどんどん周囲の心をつかむ男性に変身していくさまは見どころの一つだが、渡邊さんは「ラブコメディーだからといって、計算づくで『胸キュン』させようとかいうことは考えないつもり」と語る。

「可愛らしさ、優しさ、賢さ、カッコよさ……人の魅力って、例えるならそういう五角形のレーダーチャートで表現されるような要素が、複雑にからみ合ってにじみ出てくるものだと思うんですよね」

「航は泉美や周囲の人たちと出会い、孤独でなくなることによって、じわじわと空っぽではなくなっていく。その内面の変化が、外から見たカッコよさにもつながっていく。僕が視聴者の皆さんを『胸キュン』させられるとしたら、それはある意味、航が成長していく過程でハプニング的に発生するものかもしれないですね」

 

「『推す感情』を原動力にさせてもらっています」

個性的な登場人物たちの人間ドラマとともに、本作が光を当てるのは「推しを推す」という感情の効用だ。 

「推す」とは、応援したい対象や好きな対象に、時間やお金を惜しみなく注ぎ込む行為のこと。もともとはオタク用語だ。だが、近年は一般化し、2021年には小説『推し、燃ゆ』(宇佐見りん著)が芥川賞を受賞するなど注目を集めている。

本作の航は、泉美の「推しを推す」ようにまっすぐな愛情によって、どう変化していくのだろうか。

渡邊さんは、自身の高校時代がアイドルグループAKB48の人気全盛期。クラスメイトと一緒に特定のメンバーを応援していたこともあったが、推しを推すことが生きがいになるというほどの強い感情を持った個人的経験はないという。

一方で、自身がたずさわる俳優という仕事については「推してくれる皆さんがいないと成立しない。『推す感情』を原動力にさせてもらっています」と語る。

 

「『推す』感情は、ときには、誰かの生きる支えや希望さえ生み出すもの」

2020年、2021年には所属事務所アミューズが主催するライブコンサート「ハンサムライブ」にも出演した。日ごろは演技を本領とする若手俳優たちが、「役として」ではなく本人としてステージに立つイベントだ。歌ったり踊ったり、アイドルにも引けを取らないパフォーマンスを通して、ファンに感謝を伝える。

「推してくれる皆さんの熱量を肌で感じたし、一人ひとりの『推す感情』が合わさって会場の空気が一体になっていく光景は凄まじくて、僕もつい喉が枯れるくらい声を張ってしまって(笑)」

「もちろん、ファンとつながる方法はライブだけじゃないし、僕自身はどちらかというと、自分を推してくれる方の人となりもなるべく把握できるような、1対1のコミュニケーションのほうが性に合うタイプではあります」

「だけど、『推す』っていうのは単なる一方的な感情じゃなくて、人と人をつなげるものだなって実感しました。ときには、誰かの生きる支えや希望さえ生み出すもの。そんなところにも注目すると、今回のドラマをよりおもしろく感じてもらえるのではないかと思います」

 

ファンの存在とは? そう尋ねると、少し考えて答えた

俳優の本来の仕事は、演じる役柄や作品のメッセージを、その体にのせて伝えきることだ。いわゆる「ファンサ」(手を振ったり投げキッスをしたり、聴衆を喜ばせるための行為をすること)も重視されるアイドルと比較すると、推す・推される関係性もやや異なる。

渡邊さんにとって、ファンの存在とは? 尋ねると、少し考えて「友達みたいなもの」と答えた。

「演技って、一人で完結しないからおもしろくて。渡邊圭祐という俳優を初めて知ってくれた人と、『過去にこういう役をやっていたな』『人柄はこんな感じなんだよな』といったイメージをある程度持っている人とでは、同じ作品を見ても感想が違ってくるんです」

「例えば、僕としてはかっこいい印象を与えようとした演技を『かわいい』と受け止める人がいたり、強いこだわりがなかった仕草が『よかった!』と意外な注目を集めたり。SNSや手紙を通して、いつも応援してくれる皆さんのそういう反応を受け取れるのをとても楽しみにしています」

「あくまで『友達』だから、かけられた期待に必ず応えるという関係性でもない。『もっとこうしてほしい』と言われても、僕の場合は『自分はこうしたい』を優先するほうが多いんじゃないかと思います。だけど、一緒に前を向いて、上を向いて、いろんなことを楽しみながら進んでいけたらいいなと思っています」

(取材・文:加藤藍子@aikowork521 編集:湊彬子 @minato_a1 撮影:渋谷純一)

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Source: ハフィントンポスト
渡邊圭祐さんが肌で感じた“推す”感情「誰かの生きる支えや希望さえ生み出すもの」

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