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男「んなわけねえだろ」

友「いやマジだって。俺の会社の先輩、前はソフトマッチョだったのに、30過ぎたら一気に太って今やブクブク」

男「そりゃその人が太りやすい体質だったってだけだろ？　鍛えるのやめたから太っただけで」

友「まあ、そうかもしれないけど」

男「そういうのは太りやすい奴が、自分の経験をさも一般論みたいにいってるだけなんだよ」

友「いずれにせよ、俺らももう30だ。体型には気をつけないとな」

男「平気だって」

60.0kg

男「ほらな」

男（俺はずっと170cm60kgをキープしてる）

男（特にこれといって努力もしてないのにだ）

男（30過ぎたら太る？　バカバカしい。これから死ぬまで俺はこの体重に決まってるさ）

男（また測ってみるか）

62.0kg

男「あら」

男（マジかよ……この俺が太った？）

男（いやいや2kgなんて誤差の範囲だろ）

男（そういや、昨日はちょっと晩飯食いすぎだし……うん、それで一時的に太っただけだ）

64.0kg

男「また増えた」

男（マジか――）

男（俺も30過ぎたら太るなんてよくいわれる体質の男だったのか？）

男（あ、いや、筋肉は脂肪よりも重いって聞いたことがある）

男（このところ職場で力仕事する場面もあったし、それで筋肉がついたからだ。そうに違いない）

同僚「お前さー」

男「ん？」

同僚「最近太った？」

男「え？」ﾄﾞｷｯ

70.0kg

男「……！」

男（ヤバイ、70kgは流石にヤバイ！　ダイエットしよう！）

男「なるべく野菜だけ食べるんだ」ﾓｼｬﾓｼｬ

男「……」ｸﾞｩｩｩ…

男「腹が減っても間食はガマン……」

男（この生活をしばらく続ければ――）

男「なんで！？」

男「ほとんど野菜しか食べてないのになんで！？」

男「こうなったらネットで調べて……」

『痩せるには運動しかない』

『運動しない怠け者に限ってブクブク太る』

『有酸素運動最高！』

男「運動しかない！」

男「5km走ったぞ……」

男「プールで……」ｻﾞﾊﾞｻﾞﾊﾞ

男「エアロバイク……」ｷﾞｺｷﾞｺ

男（これを一ヶ月続ければ――）

男「ついに……三桁……」

男「なんでだぁぁぁぁぁ！？」

男「なぜ！？　どうして！？　ホワイ！？」

男「食い物に気をつけてる！　運動だってしてる！」

男「なのになぜ太るんだぁぁぁぁぁ！？」

男「よう」ﾌﾞｸｯ

友「うおっ！？」

男「驚いたか？」

友「ずいぶん太ったな……今何キロだ？」

男「120kgかな」

友「120kg！？　倍になってるじゃねえか！」

男「うん……」

友「じゃあ、いっそ絶食しろ！」

男「絶食？」

友「水以外なにも口にしないんだよ。とりあえずそれでしばらく過ごしてみるんだ」

男「分かった、やってみる」

男（さすがに絶食すれば痩せるだろ……）

男「よう」

友「うおわっ！？」

友「聞くのが怖いけど……今何キロ？」

男「200kg」

友「200kgて……」

友「こうなったら専門家に任せるしかねえよ！」

トレーナー「まず太りにくい体を作るために筋トレしましょう」

男「はい」

トレーナー「それから食事は徹底的な糖質制限を……」

男「なるほど……」

男（テキパキとメニューを組み立ててくれる。やはり素人とは違う）

友（これで上手くいってくれればいいけど）

男「……」ﾄﾞﾝｯ

友「……」

友「えーと、今何キロ？」

男「400kg……」

トレーナー「申し訳ありません。力不足でした……」

友「またでかくなったな。今どのぐらいだ？」

男「500kg……」

友「ついに半トンかよ」

男「うん……」

友「これ以上太ったら命に関わる！　脂肪吸引してもらおう！」

男「分かった……」

男「はい……」

友「いくら頑張っても太るんです」

医者「分かりました」

ﾊﾞｷｭｩｩｩｩｩﾑ!

医者「こんなに脂肪が取れましたよ」

ﾄﾞｯｻﾘ…

友「おお、山になってる！」

医者「それでは体重計に乗ってもらいましょう」

1000.0kg

男「……」

友「なんで！？」

医者「どうして！？」

4000.0kg

10000.0kg

男「……」ﾌﾞｸﾌﾞｸ

友「待ってろ……必ず痩せる方法を見つけてやるから」

男「いや……もういいんだ」

友「！？」

男「ああ」

友「ああじゃないだろ！　痩せなきゃ！」

男「なんとなく……分かったよ」

友「分かった？　何が？」

男「あの日、俺はお前の“30過ぎたら太る”って忠告を軽視した発言をした」

男「それがおそらく、天の神様みたいな存在の逆鱗に触れてしまったんだ」

男「だから俺が太るのは、もう運命みたいなもんなんだ。絶対変えられないんだ」

友「なにバカなこといってんだ！　んなことあるわけが――」

友（だが、この異常な太りっぷりはそういう理由しか想像できない！）

友「え」

男「もしこのまま俺が太り続ければ、きっと地球にも悪影響をもたらす」

友「んなことないって……」

男「だからそうなる前に……俺を……」

友「殺せとでも？」

男「いや、多分俺はもう死ねない。毒を飲んでも、爆撃喰らっても、太り続けるだろう。だから……」

友「……！」

友「分かった、お前の願い必ず叶えてみせる！」

工学者「なんでしょう？」

友「あなたは世界一のロケット工学者と聞きました」

工学者「それがなにか？」

友「地球のため……いえ、友のため……ロケットを一基作って頂きたい！」

工学者「！」

工学者（本来ならこんなバカげた頼み、断るべきだろう）

工学者（だが……断ることはできなかった。あまりにも真剣な眼差しだったから……）

――――

――

友「ありがとうございます！」

工学者「お友達の現在の体重は？」

友「えぇと……」

男「500トンです」

工学者「積載量ギリギリ、どうにか間に合いましたね」

工学者「ただちに男さんを宇宙に飛ばします！」

男「迷惑かけたな」

友「んなことないって！」

工学者「2」

男「元気でな」

友「お前こそ！」

工学者「1」

男「お前は俺の友達だ。これからもずっとな」

友「ああ！」

工学者「0」

ｼｭｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞ…

友「さらば……親友」

TV『太陽系近くにブラックホールが確認されました』

上司「ほう、珍しいな」

友「！」

TV『しかし、このブラックホール、周囲に影響を及ぼすことは全く無いということです』

TV『専門家は、まるでブラックホール自身が意志を持っているようだと……』

上司「不思議なことがあるもんだ」

友「……」

上司「！　どうした！？　涙なんか流して……」

友「いえ……何でもありません」

完