“ユニコーン至上主義”に「待った」の声。利益と社会貢献の両立を目指す「ゼブラ企業」とは?

利益と社会貢献の両立を目指す「ゼブラ企業」が、注目されている。

企業価値10億円(およそ1100億円)以上の非上場スタートアップ「ユニコーン企業」に対抗して作られた言葉だ。既存産業を時に破壊しながら新たな価値やマーケットを創造していくユニコーン。TikTokを運営するバイトダンス(中国)やイーロン・マスク氏が率いるスペースX(アメリカ)などが代表格だ。

短期的な急成長や株主の利益、企業規模が重視されるユニコーンに対して、ゼブラは中長期の視点で、多様なステークホルダーの便益やウェルビーイング(幸福)を重視する。 

「ゼブラ」を提唱しはじめたのは4人の女性起業家だった

「ゼブラ企業」を提唱し始めたのは、アメリカの4人の女性起業家だ。利益と社会貢献という一見相反する目的を白と黒の「ゼブラ模様」が象徴する。

急成長し、市場を破壊するくらい独占的な地位を築くユニコーンを目指さず、持続的な繁栄や社会との共存や、他社とのウィンウィンな関係を重視する。

彼女たちは「ゼブラズ・ユナイト」というコミュニティを組織してこの考え方を広めており、今では世界中で賛同者が7000名にのぼる。

このコンセプトに共鳴した田淵良敬さんら3人が、日本でもゼブラを広めていくために2021年3月、「株式会社ゼブラアンドカンパニー」を設立した。

これまで起業家支援や投資などに携わってきた田淵さんは、ユニコーンばかりが注目されるスタートアップ業界で数々の起業家に出会ううちに「必ずしも全員が全員、指数関数的な成長や短期間での上場を目指していないことに気づき始めていた」という。

ベンチャーキャピタルで働いていた共同創業者の陶山祐司さんも同様の課題意識を持っていた。

「ビジョンがあって、優秀で、社会的意義があることをしているのにベンチャーキャピタルの投資対象になりにくいという会社がたくさんありました。そこを応援できるメカニズムがあるべきだと思っていました」(陶山さん)

阿座上陽平さんを加えた3人が立ち上げたゼブラアンドカンパニーは、「ゼブラ企業」の概念を啓蒙することや、ゼブラ企業への投資や経営支援などを行う。お迎えや託児を知り合い同士が助け合う「子育てシェア」のAsMama(アズママ)などの経営支援をすでに始めている。

“Humanity”が企業成長のど真ん中の時代へ

日本でも注目度が高まる「ゼブラ企業」。

7月7日にゼブラアンドカンパニーの「本格始動」を記念してオンライン開催されたパネルディスカッションには、レオス・キャピタルワークス株式会社の藤野英人さん、スタンフォード大講師のVictoria Wooさん、宇沢国際学館館長の占部まりさんが登壇し、ゼブラの可能性と日本企業の未来などについて話し合った。

スタンフォードで経営工学を教える Wooさんは、“Humanity”(人間・人間性)というキーワードを何度も繰り返し、「今まさに株主や創業者中心の価値観から、”Humanity”をど真ん中に置いて、起業や企業成長を考える方向に舵を切る時にきている」と語る。

「この10年、学生を教える中でも大きな変化があります。今の学生はもう、限られた一部の人たちの要求を満たす会社をつくりたいとは思っていません。例えばファッション。かつてなら、洋服のデザインや消費者のクローゼットに革命を起こすべく、豪快ともいうべきアイデアがたくさんありました。しかしそれは社会課題の解決になっていないどころか、ファストファッションの悪い面を助長しかねないものです」

「ファッション業界には、洋服の大量廃棄、児童労働など様々な社会課題がある。今ならば、相談にきた学生に、服をアセット(資産・資源)として捉え、商品開発から廃棄までの一連のサイクルにおいて何をすべきなのかを問うでしょう。さらにそれが消費者のウェルビーイング(心身や社会的健康・幸福)にどうつながるかを考えよ、というでしょう。ビジネスはHumanityを真ん中に。実際このシフトが起きているんです」

短期では「奪い合い」。しかし長期では…

一方、Wooさんの指摘するような経済システムのシフトには「腹落ち感がない」という声があるのも事実だ。

利益と社会貢献を両立させる鍵は何だろうか?

人気ファンド「ひふみ投信」を運用するレオス・キャピタルワークスの藤野さんは「時間軸の議論が重要だ」と語る。

「お客さん、従業員、株主、仕入れ先…企業にとってのステークホルダーというのは短期利益で見てしまうと、お互いが”奪い合い”の関係になります。誰かが得をすると誰かが損をする。しかし、長期の付き合いになってくると、株主も他のステークホルダーが満足していないと、その企業はサステナブルではないという判断になるわけです」

「根本的にこの議論で大事なのは時間軸。考える時間軸が短ければ短いほど、醜い奪い合いになるけれど、3年、5年、10年、20年と長期になると、ほとんどのステークホルダーの目線があってくる。この時間軸のシェアが会社の行動を大きく変える鍵になります」

しかしながら、企業で働く従業員として、あるいは消費者として、個人投資家として。人によっては経営者として、ベンチャーキャピタリストとして…。いずれも長期の視点で物事を見ることはなかなか難しく感じる。

藤野さんが指摘するのは、日本社会における倫理的な問いや哲学的な問いの欠如だ。

「日本企業が国際競争力を失っていったのはなぜか?というところと関係してきますが、倫理や哲学が特にこの2,30年軽んじられた。そもそも論を考えると『仕事をしなさい』と言われてしまうんです。製品やサービスを作ることが仕事であって、『そもそも何のためにそれを作るのか?』を考えることは遊びや戯言とされてきました」

「一方、アメリカではIT大手GAFAMをはじめ多くのベンチャー企業は哲学者を雇っていて、そもそも買うとは何なのか?食べるって何?コミュニケーションとは? などを議論するんです。欧米でもインドなどでも哲学は重視されている。今、気候変動の問題や経済のあり方と哲学が繋がった問題として語られている中で、日本はそこが欠けているんです」

「僕たちはもう少し、そもそも論を考えないといけない。経済や会社の役割や、地球環境にどういう意味があるのかを考え、その発現として製品やサービスをつくっていくということが、世界に受け入れられる商品になっていくということ。それが結果的に売り上げにつながっていくんです」

仏教に学ぶ“Oneness”

さらに藤野さんが付け加えるのが、社会と個人の「一体感」の重要性だ。

「シリコンバレーの経営者などで禅をやっている人たちと話したりすると出てくるのが、仏教用語の一如(いちにょ)』。英語で“Oneness”と訳すんですが、つまりひとつであるということ、”Unity”(団結)の感覚が大事。社会参画って、経営、消費、投資、投票、色々形はあるけれど、自分が社会に対して役に立っていて、社会からも支えられている関係なんだという“Oneness”への自信がないとできないんですよね」

「『自分が投資したって仕方ないんだ』じゃなくて、長く続ければ自分の行動が結果的に社会を変えていくんだと思えるために、ある程度の(そういう考えを持った)人数、集団がまとまっていることが必要です」

「ゼブラアンドカンパニーの取り組みなどを通じて、もっと多くの人に、自分はリスペクトされる存在であり、他者をリスペクトしながら社会を動かす主体になれるんだ、と感じてもらえることを期待したいです。長期視点(で物事を考えること)にはそういう力があるんだということを皆さんに腹落ちしてもらうことが重要だと思います」

伝説の経済学者が残したメッセージ

「ユニコーンvsゼブラ」という構図やトレンドで企業のあり方を考えるというよりも、ビジネスの根本にゼブラ的価値観を織り込んでいくことが求められているのかもしれない。

資本主義が曲がり角にきているとも言われる今、再び注目を集めている世界的経済学者の故・宇沢弘文。公害や環境問題、格差など利益追求優先の経済学が引き起こす矛盾に向き合い、人間性の回復を目指す経済学のあり方を模索した人物だ。

宇沢の娘で、宇沢国際学館館長の占部まりさんは次のように話した。

「資本主義と闘ったとも評される父ですが、市場に非常な信頼を置いていました。労働者の搾取という意味では、社会主義と比べてみても、資本主義ならば市場のリミットがききます。例えば児童労働がある商品を買うのはやめよう、という動きが出てきうる。市場を理解しその効果を最大限利用するために、”社会的共通資本”(自然環境やインラフ、教育、医療などを宇沢がそのように定義)は市場から守らなくてはならない、という立場でした」

「社会を安定化させるために金融システムは必要ですからこれも社会的共通資本。それを管理する人は、金融の仕組みへの深い理解と、高い倫理観を兼ね備える必要があると言っていました」

倫理がなければ、どんなに経済成長してもそれは人々の豊かさと比例しないと宇沢は考えていたという。

企業の社会的責任の範囲を再定義し、長期視点で「利益」と「社会貢献」の両立を目指す「ゼブラ企業」。この概念に宇沢の遺志を現代に伝える占部さんも賛同し、次のように議論を締めくくった。

「いつか数年後にでも、『ゼブラアンドカンパニーの皆さんとこのムーブメントについて話してたけど、もはやこれが企業の当たり前の姿になったよね』と笑える日を期待したいと思っています」

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Source: ハフィントンポスト
“ユニコーン至上主義”に「待った」の声。利益と社会貢献の両立を目指す「ゼブラ企業」とは?

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