ずっと生きづらかった。ネトフリ人気番組出演者が「自分を肯定」できるようになるまで

2019年に配信された『クィア・アイ in Japan!』に出演したことでも知られ、性的マイノリティ当事者として、SNSなどでの発信を続けているKanさん。 

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Instagramでの温かいメッセージに満ちた投稿の一方で、不登校の経験や不安な思いなども語ってきた。

その理由を、「『自分らしさ』の話になると、キラキラしている部分にスポットライトが当たりがちですよね。でも本当は、どんな自分でも、愛していい・愛されていいんです」と語る。

幼少期から不安に囚われることが多く、セクシュアリティのことで悩み、自分のことを好きになれない時期も長くあった。

でもいつしか、パートナーとの出会いやSNSでの交流から「大切にしてくれる人がいる。自分も自分を大切にしなきゃ」と思うようになるーー。

今もつらい時期はあると率直に明かすKanさんに、自身の心との「歩み」を聞いた。

 

Kanさん

大学在学中にカナダへ留学。イギリスの大学院でジェンダー・セクシュアリティを学ぶ。帰国後は化粧品会社でマーケティング業務を担当。2019年にNetflixの番組『クィア・アイ in Japan!』エピソード2に主人公として出演。性的マイノリティ当事者としてSNSでの発信や講演などに取り組む。

Instagram @kanyonce  Twitter @kankanyonce  

 

“やる気が出ない自分”も出していこう。そう考えた理由

活動を通じて目指しているのは、誰もが自分の人生を、自分らしく、主体的に生きられる社会の実現に貢献することです。

…と、「自分らしさ」の話になると、キラキラしている部分にスポットライトが当たりがちですよね。

でも本当は、どんな自分でも、愛していい・愛されていいんです。なので僕自身は、暗くなってしまう自分、やる気が出ない自分、自分を甘やかしてしまう自分なども出していこうと思っています。

決して、みんなが自身の心の状態についてオープンにすべきと思っているわけではないです。また、メンタルヘルスの状況や向き合い方は人によって異なるので、あくまで「僕の場合の経験」を「僕は共有しようと思った」ということで、聞いてもらえたら嬉しいなと思っています。

 

学校に通えない時期に向けられた、大人からの言葉

幼稚園と小学校は通えない時期が長かったんです。ご飯が食べられなくなってしまうこともありました。

理由は色々あると思いますけど、ジェンダー規範への違和感は大きかった。自分の育った地域では、ランドセルは赤と黒の二択が普通でしたし、名簿も男女別だった。そういう「当たり前」を前に、漠然とした不安に囚われていました。

つらかったのは、そういった時期に大人から向けられた言葉です。

知らない人に「今日、学校休みなの?」「親を困らせちゃダメだよ」と言われることがありました。託児所に行った時、スタッフの方から「学校は行かなきゃだめ」としつこく注意されたことも覚えています。

そういう言葉が怖くて、親と一緒でも外出できない時期がありました。親にしても、そういった言葉は、子育てを責められているように感じて、悩んだんじゃないかと思います。メンタルヘルスへの理解がまだ低い時代で、専門のクリニックで「気の持ちようですね」と言われたこともありました。

 

自分を好きになれないのに、就活で自己分析するのはつらかった

中学校は勉強や部活が楽しかったのですが、中3ぐらいからセクシュアリティの悩みが出てきました。異性愛が前提とされる空気が苦しくなり、高校は途中で通信制に切り替えました。

「東京に行ったら何か変わるかもしれない」との思いで、大学は東京に進学しました。でも、自分を受け入れられないままで、落ち込むばかりでした。

大学4年の時にカナダ留学したのは、就活がつらすぎたというのもあります。

男女でデザインが異なるリクルートスーツは嫌でしたし、自分のことを好きになれないのに、自己分析をするのは苦しすぎた。留学してみたいという思いは前からあったので、カナダに行くことにしました。これがよかったんです。

 

カナダで、感情を外に出せるようになっていった「自分になれた!」

カナダで「普通の存在」として扱われることで、自分の感情を外に出せるようになっていきました。

カナダでは、同性カップルが街で手をつないでいたり、子どもを連れていたりする。日本で悩んできた自分からすると、その違いに衝撃を受けました。

例えば、日本だとアルバイト先とかで「○○って人とデートする」と話したら、「男の名前だよね?ゲイなの?」「セックスではどっちが男役なの?」などと言われることが起きがちです。でも、カナダのバイト先でデートの話をしたら、「どこ行くの?」とか当たり前のこととして会話が進みました。

暮らすうちに、着る服が明るい色になっていき、笑顔も増えました。それまでは「自分の意見を相手がどう思うだろう」と萎縮していたのに、意見も言えるようになった。自分が自分を支えることができるから、自己表現ができるようになったんです。

 

帰国後、不動産屋からの電話「また生きづらかった」

カナダで「自分らしさ」が爆発して、「やった!100%の自分になれた!幸せになったぞ!」「自分が悪いんじゃなかったんだ。日本社会が変わらないといけないんだ」と思って。元気に帰国したんですが、また生きづらかった。

それを強く感じた出来事がありました。

プライドパレードに参加した後、アパートの玄関外に、レインボーフラッグをマグネットで貼ったんです。なびかないように、ぴったりと貼りつけました。すると、不動産屋から電話がきて「『あの旗』掲げてますよね」と言われたんです。

理由としては、共用部に物を出すのは禁止ということで、それは理解できたのですが、他の部屋は玄関前に自転車や掃除用具などもっと大きなものを置いているわけです。それを指摘すると、「『あれ』は近所迷惑なのでやめてください。苦情も入っています。撤去しないなら強制退去も考えますよ」と。これは差別だなと思いました。

自己受容とか自分らしさの象徴として飾ることで、プライドを持って生きていることを表したかったんです。そういった思いを込めたものを「あの旗」と言われたことで、「幸せになれるかもしれない」という一筋の光を否定された気がしました。

 

「自分を大切にしなきゃ」と思えた、パートナーとの出会い

《大学院進学で渡ったイギリスでは、人種差別に直面することもあったが、パートナーTomさんの存在がKanさんを支えてくれた》

Tomはものすごく優しいんですよね。僕が困っている時にはどんな状況でも時間を作ってくれる。「つらい」と相談すれば、仕事が忙しくても「5分話そう」と調整してくれる。ホットチョコレートを二つ注文したとして、僕の方がたまたまぬるかったら、自分の温かいのと交換してくれるような人です。

そうやって大切にしてもらうことによって、自分を大切にしてくれる人がいるんだから、自分も自分を大切にしなきゃと思えるようになりました。

二人のルールとして、オープンに話をすることを基本にしているので、メンタルヘルスの状況も共有しています。お互いの話したことはまず「事実」として受け止める。その上で、文化的背景などで分からない部分は、互いに尋ねるようにしています。

自分一人で抱え込んでいるとオーバーシンキングになってしまうので、聞いてもらえるだけで安心するし、聞いてもらったことで解決につながることもあると感じています。

 

番組出演だけじゃなかった。優しい言葉をくれたSNS

《大学院卒業後、日本企業で働くために帰国したKanさん。Tomさんと物理的には距離が生まれ、日々の生活の中で、カナダで見つけた「自分らしさ」が少しずつ薄れていったという。そんな中、『クィア・アイ in Japan!』への出演が、再び自分らしさと向き合うきっかけとなる》

撮影での「ファブ5」(「クィア・アイ」シリーズで、美容などの専門知識でゲスト出演者の人生を彩る「ファビュラスな5人組」のこと)とのやりとりからエネルギーをもらいました。

でも、それだけじゃなかったんです。

番組が公開されてから、僕のSNSアカウントに来てくださった方たちが、本当に優しい言葉をかけてくださった。「今日の服いいね」「発信内容がいいね」とか褒めてくれる。そうすると、僕ももっと発信してみたいという気持ちになる。自分が一歩踏み出すのを見た人が、「自分も自分らしく生きよう」と思ってもらえる可能性があるなら、歩き続けようという思いになりました。

 

「子どもたちが自分らしく生きられるように」心と向き合いながら、発信を続けていく

ずいぶんと自分を肯定できるようになりましたが、それでも2020年はコロナ禍でパートナーと長く会えない不安が強くなり、心療内科に通いました。落ち込みすぎる前に対応できたので、長い時間を経て、心との付き合い方が少しずつ上手くなったのだと思います。

親との関係も変わりました。子どもの頃は、「どうして、つらいのを分かってくれないんだろう」と思っていました。でも今は、ずっと愛されていたことが分かります。

両親の方も努力してくれました。例えば父は、クィアスタディーズの本を読んだり、参考になった資料を僕に共有してくれたりすることもあります。気持ちに知識が加わった結果、丁寧な寄り添いになったんです。両親は話しやすい、力強いサポーターだと感じています。

「若い世代はLGBTQを知ってるから、差別はなくなるよ」と言う方もいますが、大人側に知識がなく、差別する人もいる以上は、その考えの中で子どもは育っていくわけなので、現状は引き継がれてしまう部分があると思います。

次の世代の子どもたちが自分らしく生きられるように、そして今苦しい思いをしている方のためにも、少しでも早く、選択肢の多い世界になってほしい。その実現のために、自分も無理をしないように気をつけながら、発信を続けていきたいと思っています。

(湊彬子 @minato_a1 ・坪池順  @juntsuboike /ハフポスト日本版)

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Source: ハフィントンポスト
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Akiko Minato