東京都の年間の転出入数は1997年以来一貫して地方からの人口流入による転入超過を続けてきた。この人口の東京一極集中は地方の人口減少の一因となっていると考えられ、その対策として2014年に施行されたいわゆる地方創生法にもとづく取り組みをはじめ、人口減少地域を支援する様々な政策が実施されてきたが、2019年度まで東京都の人口は決して転出超過となることはなかった。しかし、20年以上にわたり政策の力では決して止めることができなかった人口の東京一極集中は、コロナ禍にさらされた一年間であっけなく流出に転じた。コロナ禍による東京の転出入動向への影響は後述する通り2020年4月から発生しており、2020年度は最初から最後までコロナ禍の影響を受けた一年間であったといえる。
本稿では、昨年度一年間の東京都の人口動向を総括し、様相が一変した東京都と東京圏の人口動向の詳細とその影響、今後の動向について考察する。
■東京都の人口は減少局面に突入
東京都の住民基本台帳にもとづく人口は、暦年、つまり各年1月1日時点を基準とした人口増減では1997年からこれまで一度も減少したことはなく、コロナ禍にさらされた2021年1月1日時点の人口も、増加数は大幅に減少したとはいえ前年比増加を維持していた。しかし、図1で確認できる通り、その後3月1日時点にはついに前年同月比で減少に転じており、以降5月まで減少率は拡大している。
■東京圏の人口減少は概ね特別区部で発生している
東京都の人口はコロナ禍により大きな影響を受けたが、図2の通り東京圏の他の3県で転入超過数が減少している県はない。埼玉県、神奈川県は転入超過数に変化がほとんどなく、千葉県は逆に転入超過数が増加している。なお、三大都市圏の他の都市圏の中心である愛知県、大阪府も同様にコロナ禍による転出入動向への変化はあまり生じていない。
また、図1に見る通り、東京都の中で特別区と市町村(島しょを含む、以下同様)を比較すると、市町村にも多少の影響が見られるものの東京都の変化の大部分は特別区で生じていることが見て取れる。少なくとも転出入の総数だけを見る限り、現在までのコロナ禍による人口動向への影響は、大都市と地方という構図ではなく概ね東京都特別区部で生じている変化であるといえる。
■昨年7年以降転出超過数が激減し、今春の3月、4月も回復せず
図3に見る通り、東京都の毎月の転入超過数は、近年ほとんど同水準で推移しており、各年の同じ月を折れ線グラフにすると2017~2019年度は安定していたが、コロナ禍に見舞われた2020年度は、6月を除きほぼ一貫して例年を大幅に下回っている。特に、例年東京都の転入超過数は進学・就職期にあたる3、4月に年間の過半数が集中する傾向にあるが、今春の3月は2019年の水準である約40千人から30%減に相当する約28千人まで落ち込んでいる。さらに、2021年4月はコロナ禍の影響を受け始めてから2巡目となるが、厳しい緊急事態宣言下にあって大幅に落ち込んだ2020年4月の水準をも下回りコロナ禍以前との乖離に歯止めがかかっておらず、2019年の13,073人から82%減となる2,348人まで落ち込んでいる。
■転入超過数の減少は転出増と転入減の両側面から進展
コロナ禍以前の水準と比較して、転入数は2020年4月以降現在まで減少し、転出数は2020年8月以降現在まで増加している。つまり、進学、就職、転勤、住宅取得などのライフイベントをきっかけとして転居する人が、その転居先として東京都ではなく他地域を選択したケースだけでなく、もともと東京都に居住している人が、東京都の感染状況への不安や、在宅勤務の増加を背景として他地域に転居しているケースが東京都の転入超過数減少の要因となっていると考えられる。
■子育て世代の転入超過数の減少による少子化の進展の可能性
昨年度の転出入超過数の対前年比増減数を年齢階層別に比較すると、20~39歳で減少数が大きい。母親年齢別出生率の高い20~39歳の女性の転入超過数が減少することは出生数の減少につながることから、こうした傾向が継続すると東京都の少子化に拍車をかける懸念がある。
なお、東京都における合計特殊出生率(15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの)の動向について、コロナ禍の影響下での合計特殊出生率の統計が公表されるにはまだ時間を要するため、その代替指標として東京都の女性0歳児比の推移をみると、コロナ禍以前から低下傾向にあり、コロナ禍の影響下にあった2021年1月1日時点も前年から低下している。
■高校卒業期の年齢層は回復傾向だが大学卒業期の年齢層は回復せず
東京都に大きな転入超過が見られる3月、4月の進学就職期について、概ね高校卒業期に相当する15~19歳と、大学卒業期に相当する20~24歳について、過去4年間の転出超過数の推移を確認する。2020年、緊急事態宣言前であった3月に15~19歳は前年の5,906人から5380人まで減少しているが、20~24歳はむしろ宣言前の駆け込み転入があったためか前年の28,922人から29,741人まで増加し、その後4月には15~19歳は4,972人から1,478人、20~24歳は5,895人から4,329人とどちらも大きく減少した。そして、直近の2021年に15~19歳は3月、4月とも前年の水準から大きく増加しているが、20~24歳は3月、4月とも前年の水準から減少しており、高校卒業期と大学卒業期で異なる様相を呈している。
■感染状況改善により転出入動向の一定の回復は見込めるがコロナ禍以前の状況には戻らない可能性も
昨年度一年間で東京都の人口は長年の人口増加から減少に転じるという劇的な変化に見舞われた。そして、まだわずか1、2か月とはいえコロナ禍の影響が2巡目に入った現在も回復基調に転じる兆候は見えない。現在の感染状況を踏まえると、今後も、ワクチン接種の進展などにより感染状況が明確に改善するまではこうした傾向が継続する可能性が高い。
また、感染状況が改善したのちには、東京都の転入超過数もある程度は回復する可能性が高いと思われるが、すでに企業における在宅勤務やビジネスにおけるリモートによるコミュニケーションは相当程度普及しており、それに対応した就業ルールやインフラなどの環境整備を実施済みの企業も少なくないと考えられる。このため、住宅コストが高い東京への転居を志向する人の動きがコロナ禍以前の状況に完全には戻らない可能性がある。
■母親年齢人口の減少と出生傾向の低下が同時進行しており少子化に拍車がかかる懸念も
東京都は、大学卒業期の年齢層をはじめ20~39歳の流入の減少が進展している一方、母親年齢人口に対する出生数の比率も低下傾向にあると推定される。つまり、母親年齢人口の減少と出生傾向の低下が同時に進行しており、母親年齢人口の動向がコロナ禍以前の状況に完全には戻らない可能性も考えられることから、東京都の少子化はコロナ禍以前よりも厳しい状況となる可能性がある。
■東京都心部の空間利用の変化に伴う暮らしの場としての魅力向上による回復可能性
すでに述べた通り在宅勤務やビジネスにおけるリモート・コミュニケーションは相当程度普及しており、オフィス需要の減少により東京都心部のオフィス空室率は上昇傾向にある。また、東京都心部の平日の滞在人口も明確に減少しており、これらの人々を顧客とする飲食・サービス業などの産業の立地需要も減少せざるを得ないと考えられる。こうした動向が感染状況改善後も一定程度継続する場合、東京都心部の空間利用も変化していくものと考えられる。こうした変化の中で、住宅コスト、生活コストの低下や生活環境の充実など、暮らしの場としての魅力向上が進展すれば、感染状況改善後の転出入動向の回復度合いを高めることも可能となると考えられる。
(2021年6月14日三菱UFJリサーチ&コンサルティング「コロナ禍の一年、東京一極集中から流出への人口動向の大転換」より転載)
Source: ハフィントンポスト
東京一極集中から流出へ。コロナ禍で人口動向が大転換【データで読み解く】