「好きなタイプは?」「芸能人でいうと誰が好き?」
小学校高学年になると、周りは「恋バナ」をするようになった。
「好きな人」を尋ねられても、自分にとって家族や友だちは性別に関わらず同じ「好き」で、恋愛感情が分からなかった。
「なにかが欠落しているんじゃないか」
変だと思われるのが嫌で、本当のことは言えず作り話でその場を切り抜けてきた。
性的少数者が直面する困難は認知されるようになったが、他者に性的に惹かれない「アセクシュアル」や、恋愛感情を抱かない「アロマンティック」の当事者の悩みや生きづらさは、あまり知られていない。
東京都の堀かおるさん(49)は、アロマンティック・アセクシュアルの当事者だ。
そのことを家族や周囲に明かしたことはなかったが、5年ほど前、職場での出来事がきっかけでカミングアウトをした。
「幸せのかたちは一つじゃない。受け入れられなくても、自分のような人間もいると知ってほしい」と話す。
思春期の頃、恋愛対象として人を「好き」になる感情が持てないと感じた堀さん。
「人と付き合ったら変わるかもしれない」と思い、大学生になり初めて人と交際した。しかし、交際相手との時間を優先させることや、手をつなぐなどの身体的な接触も苦手で、うまくいかなかった。
その後、性的少数者に関するエッセーを読んだり、調べたりする中で、「アロマンティック」「アセクシュアル」という言葉を知り、すとんと胸に落ちた。
「他にも自分のような人がいる。欠陥なんじゃない」と思うと、気持ちが楽になった。
言葉と出合っても、それを家族や周囲に伝えることはしなかった。
テレビ番組に出演する同性愛者の男性を見て、母は「身内だったら(同性愛者を)理解できない」とつぶやいた。自分のセクシュアリティーを打ち明けても、分かってはもらえないと思った。
転機は5年ほど前。職場の飲み会で、上司が堀さんに「結婚してないの?結婚も出産も、まだ諦める必要ないから」と言った。黙って受け流せなかった。
自分はアロマンティック・アセクシュアルだと伝え、「この先結婚することはありませんし、結婚や出産のことを言われても私にはどうしようもありません」と切り返した。
上司が認識を改めたとは思えない。でも、「これからはもう、ごまかさなくていい」と気持ちが軽くなった。
堀さんはそれ以降、実名のSNSアカウントで、アロマンティック・アセクシュアルであることを明かすようになった。それでも、妹やいとこたちは態度を変えることはなかった。
堀さんは、NPO法人「にじいろ学校」の活動にボランティアとして参加し、アロマンティックやアセクシュアル当事者の交流会で運営の手伝いなどをしている。
母は堀さんのセクシュアリティーやボランティア活動に、積極的に理解を示しているわけではない。一方で、結婚や出産について圧をかけたり、執拗に尋ねたりすることはしないという。
「母とは今のままの関係が続けば、それで十分」。堀さんはそう感じている。
アロマンティックやアセクシュアルなど、LGBT以外の当事者が直面する問題は、あまり知られていない。
電通は2020年12月、20〜50代の6240人を対象に、性の多様性に関する認知度などを調べた。
「言葉も意味も知っている」との回答が、「レズビアン」「ゲイ」は9割を超え、「バイセクシュアル 」は87.8%、「トランスジェンダー・トランスセクシュアル」は63.8%だったのに対し、「アセクシュアル ・アロマンティック」は5.7%にとどまった。今回の調査で選択肢に並んだ性のあり方を表す8つの言葉のうち、最も認知度が低い。
具体的に、当事者はどんな生きづらさを感じることがあるのか。
有志の市民グループ「Aro/Ace調査実行委員会」が、アロマンティックやアセクシュアルなどの当事者を対象に2020年6月に実施した調査(有効回答数1685件)で、「Aro/Ace(アロマンティックやアセクシュアル 、その他周辺のセクシュアリティーの総称)として生きることに不安を感じるか」との問いに「感じる」「やや感じる」は56.9%に上った。
「Aro/Aceであることで経験したこと」(複数回答)では、
「パートナー関係において困難があった」(27.0%)
「不愉快な個人的な質問をされた」(26.3%)
などが挙がった。
経験したことの自由回答では、
「人間じゃない、人の心がないと言われた」
「男性にも女性にも惹かれないと伝えたら『そんなことがあったら病気だ』と笑われた」
「両親にカムアウトしたものの理解されず、『(テレビを見て)こういう人なら彼氏にしたいんじゃない?』などの不愉快な質問をされたり、『そうやって決めつけないで、もしかしたら良い人に出会うかもしれないじゃない』など恋愛感情を持たないことへの自認そしないよう諭してきたりする」
などの体験が寄せられた。
調査メンバーの一人である「にじいろ学校」代表理事の今徳はる香さんは、「特に親など家族の場合、悪意があるわけではなく、子どもを心配して結婚や出産を勧めるような声掛けをすることがあります。ですが、それを強いプレッシャーに感じる当事者もいるのです」と話す。
「アセクシュアルやアロマンティックの当事者でも、恋愛や結婚に対する考えはさまざま」とした上で、「結婚や出産をすること以外のライフスタイルや幸せもある、ということがもっと広まってほしいです」と言う。
アセクシュアルやアロマンティックであるとカミングアウトされたとき、家族や周りの人はどう応じたら良いのか?
「恋愛感情を持ったり、他人に性的に惹かれたりする人からすると、そうではない人の気持ちは理解できないし、おかしいとか可哀想といった感情を抱いてしまうこともあるかもしれません。
ですがカミングアウトをする時は多くの場合、あなたなら話しても良いとか、わかってほしいといった何かしらの希望や、伝える必要性を感じているから打ち明けています。理解ができなくても、否定はしないでほしい。そういう人がいる、という事実を受け止めてほしいと思います」(今徳さん)
(國崎万智@machiruda0702/ハフポスト日本版)
Source: ハフィントンポスト
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