「みずほFGの気候変動対策が、パリ協定と整合的だと判断している理由について教えてください」
東京大学2年生(当時)の髙橋大輝さんは、2020年6月に開催されたみずほFGの株主総会で挙手し、こう質問した。
二酸化炭素排出量が多い石炭火力発電事業に、これまで多額の融資をしてきたみずほFG。脱炭素の方針を掲げているが、「例外規定」という“抜け穴”も残していた。
本当に今の対応で、パリ協定が掲げる「世界の平均気温上昇を産業革命前に比べ1.5度に抑える」目標を達成できると考えているのか?髙橋さんは経営陣に疑問をぶつけた。
「株主総会で質問をするなんて初めてで、とても緊張しました。それでもアクションを起こしたのは、子どもに『君たちは次の世代を担う人たちです。頑張ってください』と丸投げするような人間になりたくなかったからです」
近年、気候危機が高まる中で、石炭火力発電事業に多額の投融資を行っている金融機関に、株主が「脱炭素」を迫る動きが加速している。特に日本のメガバンク3社(三菱UFJ、みずほFG、三井住友FG)は「化石燃料関連の投融資が多い銀行」として環境NGOから批判されている。
当時、気候変動への対策強化を求める国際的なの若者ネットワーク「Fridays For Future Japan(以下FFFJ)」に参加していた髙橋さんもまた、企業がどこまで本気で脱炭素に取り組んでいるのか疑問に思っていた。
自ら株を買って「株主」として発言してみよう。そう決意できたのは、環境NGO「気候ネットワーク」や「350.org Japan」のメンバーが金融機関に提言をしている様子を近くで見てきたからだという。
「(株主総会参加に必要な)株は大体2万円くらいで買えました。気候変動対応について経営陣に直接聞いてみたかったのはもちろん、経営陣や株主たちと話すことで、気候危機について企業の立場になって考えてみたい、という思いもありました」
株主総会では「運よく指名され、質問する機会に恵まれた」という髙橋さん。
緊張しながらもパリ協定との整合性について問うと、みずほFGの担当者は「2050年に石炭火力発電所向けの与信残高ゼロという削減目標は保守的にみている数字です。2040年には達成できるよう前倒しも検討しています」などと回答した。
「経営陣からの返答は正直、『気候変動の質問がきたらこう答える』という形式的なものだと感じました。例外規定もまだあり、具体的なプロセスを十分開示できていないなど、課題は残っていると思います」
みずほFGは11ヵ月後の2021年5月、実際に石炭火力発電所向けの与信残高削減目標を2040年度に前倒しにし、例外としていた「既に投融資を決めていた案件」についても新規投融資を行わないと発表したが、一部の例外規定は未だに残したままだ。
髙橋さんは、京都府の自然豊かな田園地帯に生まれ育った。成長するにつれて、当たり前だと思っていた自然環境が人間活動によって脅かされていることを知るようになり、気候危機に興味を持った。
学校の先生に言われた「君たちが次の世代を担う人たちです。頑張ってください」という言葉に強い違和感をもったことも、現在の活動の原動力になっているという。
「先生や大人にだって変えようと思えば変えられることはあるはずなのに。それをしないで『子どもたちよろしく』って丸投げするのは違うんじゃないかと思うんです」
自分がやれることを精一杯やっているのか? 髙橋さん自身も日々自問自答し、アクションを積み重ねるよう努めている。
「自分で動くということを意識した最初のアクションは、本当に些細なものでした。高校生の時に講演を聞く機会があった、ある大学の先生にメールをしたことです。生物や森林に興味があるので、もっと詳しく教えてもらえませんかと連絡しました。最初はメール一つ打つのも緊張しました」
小さな行動を積み重ね、アクションをする障壁を感じなくなってきたという髙橋さんは、FFFJに参加。東京都知事選の候補者に気候危機に関する質問を送ったり、2030年の温室効果ガス削減目標(NDC)を「13年度比26%減」から大幅に引き上げるよう政府に訴える活動をしたりした。
「特に国政にアプローチする経験は印象的でした。政策が決まる直前でアプローチをしても、内容を変えるのは難しいのかなと思いました。もっと国政の仕組みやスケジュール感を掴んで行動すれば良かった、という反省もありましたね」
現在はFFFJの活動を離れ、自身が通う東京大学で、気候危機に関する活動を行なっている。学内での省エネや太陽光などの再生可能エネルギーを調達、発電し、将来的には温室効果ガスの排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする「ネットゼロ」が達成されることを望んでいる。
「大学側も研究費の削減などで苦しい中、ただ気候危機対策のための予算を増やして欲しいと言っても難しい。まずは学生団体で交流会を開いて、学生の意識を高めていくことから始めようと考えています」
一人一人の意識の変化が、社会全体の気候危機対策につながっていく、と髙橋さんはいう。
「東京大学の学生たちが研究者や企業人になった時、自分の研究やビジネスと気候危機との接点を見出してほしい。もちろん、在学中に起業する人もたくさんいます。卒業してから、知識がついてから、と区切るのではなく、不十分でも今できることから始める“流れ”を作っていきたいですね」
最後に髙橋さんに聞いてみた。
気候危機に立ち向かう活動をする中で、資本主義システムそのものに限界を感じることはないのだろうか?
「遠い未来にどうなるかはまだ見えないものの、SDGsのターゲット年である2030年には、資本主義は残っているでしょう。資本主義をうまく利用しつつ、設計が悪いところは見直して変えていくべきではないかと思います」
設計の見直しには、異なる他者の立場に立って見えている世界を想像すること、完璧を目指さず、修正を重ねる姿勢を持つことが必要ではないか、と髙橋さん。
「例えば、特に排出量が多い先進国の富裕層は、なぜ大量消費や無駄が多いライフスタイルになってしまうのか。批判する際には彼らの立場になって考えてみたいと思うんです。もしかしたら、生まれ育った環境が大きく影響しているのかもしれない。だったら、批判する重要性も理解しつつ、彼らの行動と価値観そのものを変える必要があります。そのために何ができるかを考えたい」
地球規模の大きな問題だからこそ、柔軟で細かい修正の積み重ねが重要だ。現在の日本の政府や企業の気候変動対策についても、「進んでいない感」を感じるという髙橋さんは、「パーフェクトじゃなくていいので、行動して修正をしていくというのを社会全体として身に付けられるようになりたいなと思います」と語った。
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(番組は無料です。時間になったら自動的に番組がはじまります)【ゲスト】
松原稔さん/機関投資家、「りそなアセットマネジメント」執行役員責任投資部長
能條桃子さん/Z世代の活動家、一般社団法人「NO YOUTH NO JAPAN」の代表理事
Source: ハフィントンポスト
みずほFGの株主総会で手を挙げ、質問した東大生。気候危機と立ち向かう原動力は「次世代に丸投げする大人にはなりたくない」