アメリカでの性別変更後も、日本で住民票上の性別やパートナーとの続柄の記載が変更されないことは憲法に反するなどとして、アメリカ人と日本人の女性カップルが6月21日、国や東京都目黒区、大田区に損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
提訴したのは、エリン・マクレディさんと妻の緑さん。2人は2000年に日本で結婚し、3人の子どもがいる。
エリンさんは2018年に出身国・アメリカのテキサス州で性別と氏名を変更。日本に帰国後、エリンさんの性別が女性と記された在留カードも発行された。
しかし当時住んでいた目黒区に住民票上の性別変更を申請すると、区の担当者からエリンさんの性別表記を「女性」に変更する代わりに、緑さんとの続柄を「妻」ではなく「縁故者」とするよう申し入れを受けた。
エリンさんと緑さんは「縁故者」の記載を拒否。半年後、目黒区から同じ内容の申し入れを再度受けたが、エリンさんと緑さんは改めて拒否した。その後も品川区や大田区に転居するも、区側は住民票上の性別変更を受け入れなかったという。
エリンさんはアメリカで性別変更をしているにも関わらず、住民票の性別が「男」、緑さんとの続柄は「夫」のままになっている。2人は法務省、総務省、目黒区に適切な対応を求めたものの回答はなく、住民票の修正を拒否され続けている。
国や自治体が住民票の修正を拒否し続けているのは、エリンさんの性別の記載が「女性」に変更された場合、「同性婚状態」になるためと原告側弁護団はみている。日本では現在、同性カップルの婚姻は認められていない。
同性婚をめぐっては、同性同士で結婚できないのは違憲だとして全国の同性カップルが国を訴えている。2021年3月、札幌地方裁判所は同性同士の婚姻を認めないは「法の下の平等を定めた憲法14条に違反する」として、日本で初めて違憲判決を下した。
訴状によると、原告側はエリンさんの住民票の性別変更を受け入れない国や自治体の対応に精神的損害を受けたとして、220万円の賠償を求めている。
その上で、エリンさんの性別変更は日本でも有効とし、本人が自認する性別に即した社会生活を送らせないのは、憲法が保障する「人格権」を侵害していると主張。さらに、エリンさんと緑さんの続柄を「縁故者」とするよう求めるのも、憲法が定める「適法に成立した婚姻関係に対して公権力から不当な干渉を受けない」という2人の利益を侵害している、と訴えている。
また、法務省・総務省が目黒区などに適切な指導を行わなかったことも、エリンさんと緑さんの利益を侵害しているとしている。
提訴後、原告のエリンさんと緑さん、弁護団らが記者会見した。
エリンさんは「性別移行をして、家族、職場の方々、友達はみんなサポートしてくれているのに、政府だけが認めてくれない。なぜなのか、まったく理解ができません」と話した。
緑さんは「私たちはありのままの自分で生きられる社会を作りたいと思っています。それを国が邪魔をするのはどういうことか、訴えていきたい」とした。
弁護団の山下敏雅弁護士はエリンさんの性別表記が本人の自認する性別に統一されていないことを上げ、「人格権の問題から非常におかしい」と述べた。
「トランジェンダーの方々の人格の根幹に関わることを、こんな場当たり的な扱いをしていいのか。自分らしい性別を一貫して生きていくということの大切さを、国には今一度きちんと考えてほしい」
山下弁護士は、エリンさんと緑さんは、法律上結婚している状態でもあることを指摘した。
「2人は法律上、結婚している状態がすでに続いている。国はこうした実態に合わせていかなくてはならない。婚姻とは何か、同性カップルではなぜダメなのかを裁判所にも判断を出していただきたいと思います」
Source: ハフィントンポスト
アメリカで性別変更も住民票の変更認められず トランス女性が国などを提訴