第三者から精子や卵子、胚(受精卵)の提供を受けて妊娠・出産を試みる生殖補助医療をめぐり、日本産科婦人科学会(日産婦)は6月8日、制度の整備に関する提案書を公表した。「公的管理運営機関」を設置し、精子や卵子の提供者の情報を100年間保存することを提案した。
日本には、提供者の情報を記録・保管する法制度がなく、生まれた子が提供者の情報を得る権利は保障されていない。
一定の条件を満たした場合、提供された精子や卵子による体外受精も可能とする内容も盛り込んだ。
国内では、夫以外の第三者の精子を妻の子宮に入れる「人工授精」は認められているが、第三者の卵子や精子を使った受精卵を子宮に戻す「体外受精」は、日産婦の会告で規制されてきた。
提案書では、精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療を受けられる対象者を「子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない夫婦」に限定することとした。
提供精子の体外受精を受けられる条件は、「女性に体外受精を受ける医学上の理由があり、かつ精子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に限る」と明記した。
同様に、提供卵子の体外受精を受けられる条件は、「卵子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に限る」としている。
日本では、第三者を介する生殖補助医療で生まれた子どもが、遺伝上のルーツである提供者(ドナー)の情報にアクセスできる「出自を知る権利」は保障されていない。
さらに、精子や卵子のあっせんに関する法規制がない中、ネットを通じた個人間での精子の売買が広がり、健康上のリスクなどの問題も指摘されている。
日産婦は提案書で、「提供者と被提供者が安心して治療を受けることができる環境づくりが、まず優先されるべきである」と強調。その上で、「公的管理運営機関」を設置し、
などの業務を担うことを提案した。提供者と、提供を受けた夫婦の個人情報を同機関が100年間保存することも盛り込んだ。保存期間の100年は「平均寿命を踏まえ」たと説明している。
子どもの出生後も、生まれた子、提供者とその家族、提供を受けた者とその家族がそれぞれ様々な悩みを持つことがあり得ることから、同機関に相談窓口を設けることも求めた。
子どもの「出自を知る権利」に関して、提案書では「成長するに伴い、提供者を知りたいと思う気持ち、自らのルーツを知りたいと思うことは、個人の利益の追求として尊重すべき」との見解を示した。
一方で、精子や卵子、胚の提供を受ける側が「提供者の選別を行う可能性がある」として、提供者は従来通り「匿名とする」と明記した。
出自を知る権利を守るには、子への告知方法や情報開示の範囲、開示請求できる年齢など取り決めるべき多くの課題があると指摘。「公的管理運営機関において、生まれた子の福祉に重点を置き、十分な議論がなされるべきである」と提言した。
このほか、提供に係る対価の供与・受領を原則として禁止することも盛り込んだ。
第三者を介する生殖補助医療をめぐっては、生まれた子の親子関係を定めた民法特例法が2020年12月に成立。超党派の議連がたち上がり、出自を知る権利や医療の法規制などに関する検討が進んでいる。
Source: ハフィントンポスト
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