「生理は隠すべきもの」をデザインで変える 蜷川実花さんブランドとコラボ商品が誕生

生理用ナプキンのデザインに、多様化の兆しが生まれている。「エリス コンパクトガード」を展開する大王製紙は2021年4月、写真家・映画監督の蜷川実花さんがディレクションするブランド「M / mika ninagawa」とコラボレーションした限定商品を全国で発売した。個包装の一つひとつに鮮やかな花の写真を印刷した異色のデザインだ。「女性が女性であることを肯定できるようにするための、小さなきっかけをつくりたかった」と話す蜷川さんに、開発にかけた思いを聞いた。

――大王製紙の開発チームから蜷川さんに依頼があったのは、2020年11月だということです。参画を決めた理由を教えてください。 

生理用ナプキンのデザインに関しては、私自身が当事者の一人として、「なんでこんなにかわいいと思えるものがないんだろう」と疑問を持っていました。最近は少しずつ、いろいろなデザインが見られるようにもなってきましたが、主流はやっぱり、淡くておとなしい色使いのもの。そこで表現されている女性像は画一的過ぎると感じていましたね。

以前、仕事でアメリカに行ったときのこと。スーパーマーケットの生理用品売り場へ足を運んだら、日本では見かけないような模様があしらわれた商品、ビビッドな色味の商品がたくさんあって、「カワイイじゃん!」ってテンションが上がりました。まとめ買いしてトランクに詰めて、日本に持ち帰ったくらい。

そういう経験もあったので、「こういうデザインのナプキンが欲しかったんだ!」というこだわりを実現させてもらえるなら、ぜひ挑戦したいなと思いました。

――「エリス コンパクトガード」が特に重視しているターゲット層は、生理用品を自分で選んで買うようになる10代後半~20代前半です。蜷川さん自身がその年齢だった頃、生理とはどのように付き合っていましたか。

私の家庭では、生理を恥ずかしいものだと捉える感覚は一切なかったです。通学していたのが女子校だったこともあって、生理のつらさなどに関しては、比較的オープンに話せる環境に恵まれていました。ただ世間に目を移せば、今より「生理は隠すべきもの」という風潮が強かった。隠すことが当たり前過ぎて、「それっておかしくない?」と違和感を抱くことさえできなかった時代でしたね。

それに生理って、出血の量や痛みなどの症状が、人によって本当にさまざまでしょう? 私自身は、生理の症状に関しては重くも軽くもなかったと思うのですが、妊娠時のつわりは結構ひどかったんです。だから、映画や写真の撮影現場では、女性スタッフの体調に気を配っていました。

つらさの程度が人それぞれだからこそ、「自分のつらさは理解してもらえないのではないか」と考えてしまう。現場のリーダーである私が率先して、「しんどくない?」「休んでいいよ」と、気付いたときに声をかけるよう心掛けていました。「隠さなくていいのが当たり前」「一人で我慢しなくていいんだよ」っていう雰囲気をつくりたかった。

裏を返せば、「生理は隠さなければいけないものだ」という刷り込みは、いまだに払拭されていない部分があるのでしょうね。

――今回の商品は、ビビッドな花の写真を外側のパッケージではなく、中身の個包装に印刷することにこだわったと聞きました。6種類のサイズごとにデザインが異なり、SNS上では「全種類揃えた!」と写真をシェアする人がいたり、「隠さず持ち歩ける」と喜ぶ人がいたりするのが印象的です。

SNSでたくさんのコメントやダイレクトメッセージをもらいました。シンプルに「テンション上がる!」「これを使えるのが楽しい!」と言ってもらえるのは何よりうれしいですね。初潮が始まる年ごろの娘がいるお母さんから、「生理が始まるって素晴らしいことなんだよ、って子どもに教えたい。そのときに、こんなナプキンを贈ることができたら、ポジティブな気持ちを伝えられそう」という声も届きました。

「隠さないで堂々と使える」といった反響も含めて、「かわいい柄のナプキンが市場に1つ増えた」ということ以上の意義を実感してもらえているように思います。

――花というモチーフは、蜷川さんの作品の多くで象徴的に使われています。今回、生理用ナプキンのデザインにも採用した理由は?

花って、そもそも被写体として圧倒的に魅力的なんですよ。美しく咲き誇っている姿はたくましさを感じさせるけど、やがて散ってしまう儚さもある。その花を植えた人の想いが重なって、さらに複雑な表情がにじみ出ることもある。そんな存在を通して、「女性らしさの多様性」まで伝えられたら最高だなって思ったんです。

この、どこか毒々しさや禍々しさもはらんだエネルギッシュな花々を表現するために、開発チームの皆さんが新しい機械まで導入してくれて! 生理用ナプキンとしてはめずらしく、黒や濃い紫、鮮やかな赤など、強い色味も使っています。

私、テンションが上がると何でもまず「かわいい!」って言っちゃうんですけど(笑)。でも、そこには本当は、いろいろな要素が内包されているんです。これは持論ですが、美しいだけのもの、かわいいだけのものを届けられても、受け手は多くの場合、面白いと感じません。クリーンなだけじゃなく、どこかに尖った部分やノイズを含んでいる「かわいい」のほうが、絶対に刺さる。

――生理用ナプキンは衛生用品なので、清潔感を重視して「白に近いパステルカラー」が多用されてきた経緯もあると聞きます。

私は、そうであったということを、ことさら批判的に捉える必要はないと思います。ただ、皆が「こういうものだよね」と信じていたものが絶対的ではなくなって、「もっと違うものがあったっていいよね」というフェーズがきたのだと思う。

柔らかくて優しいデザインの商品に癒やされたいときだってあるかもしれないけれど、「ヨシッ」って気合いが入るような商品もあったほうがきっと健全です。

だから、「こうあるべきだ」という発想は一度取り払ってみる。私が絶対にかわいいと思うもの、欲しくなるものって何だろう、とイメージを膨らませてみる。新しいものを生み出すため、選択肢を広げるためにはそれが大事だと思います。

――最後に、若い女性たちに向けてメッセージをお願いします。

女性はこれまで、「こうあるべきだ」という言葉にずっと縛られてきました。私自身、これまでのキャリアで「女流監督」「女流カメラマン」と言われ続けて嫌だったけれど、ある程度受け入れながらでないと、前に進むことができなかった。後に続く若い女性たちがそういう思いをしなくてすんだらいいなと思います。

今回のプロジェクトには、毎月訪れる憂鬱な生理の時期を、少しでも上向きな気持ちで過ごせるように、女性であることを楽しいと肯定できるように、というささやかな願いを込めました。これからも女性が心地よく生きていけるように、作品を通じて発信していけたらなと思います。

(取材・文:加藤藍子@aikowork521 編集:泉谷由梨子@IzutaniYuriko

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Source: ハフィントンポスト
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