新型コロナウイルスのパンデミックにより延期となった東京オリンピック・パラリンピック開幕の時が近づいている。
世界的な国際スポーツイベントには各国の多種多様な企業や団体が関わることから、様々な法的問題が浮上し、ビジネス的な側面においても注目を集める。
私が所属している法律事務所はスポーツやエンタテインメント訴訟も手がけており、それらを専門とする弁護士も多数在籍している。私も過去には米国弁護士として格闘技イベント、K-1訴訟の代理を務めたことがある。
最近では、テニスの大坂なおみ選手の元コーチが起こした訴訟（大坂選手に対し、2018年に全米・全豪オープンでチャンピオンに返り咲き、女子テニス協会のランキング1位になった後のテニス収入の20％の支払いを求めた）で、私が所属する事務所が大坂選手の代理を務めて勝訴し、若いアスリートを保護する上で画期的な判決と評された。
このようにアメリカでは国際スポーツイベントにおいて、権利問題や汚職や贈収賄、独占禁止法や著作権問題、危機管理、名誉棄損、憲法修正第1条、パブリシティー権など、これまでに様々な法的問題が争われている。
このコラムを書くにあたり、日本に紹介する関連訴訟や留意点について、スポーツやエンタテインメントを専門とする同僚の弁護士と議論した。なぜならば、アメリカではあまりにも多くのスポーツ関連訴訟が提起されており、もはや当たり前であるからだ。二人して何を取り上げたらいいかとしばらく腕組をしたほどである。
さらに、エンタテインメント分野の訴訟も非常に多岐にわたり、傾向を具体的に示すことは難しいのだ。
ただ、アメリカのエンタテインメントやメディア業界は何十年にもわたって培われてきた独特のルールや判例に支配されているのだが、最近ではゲームやソーシャルメディアなどの新技術や新規参入者の急速な増加に伴い、新たな法的問題が発生していることは確かだ。契約違反、著作権、商標権、特許権、企業秘密、詐欺、アイデアの盗用、不正競争等で日々様々な訴訟が起こされている。
スポーツやエンタテインメントの分野でも、裁判や仲裁、調停などの方法で、様々な問題が争われているのだ。
オリンピック開幕を控えたいま、なかでもスポーツやエンタテインメントにも法律が深く関わっていることがわかる事例を探した。それが、日本でも比較的大きく報じられた女子サッカーアメリカ代表とサッカー連盟の争いである。
女子サッカーアメリカ代表はオリンピック最多4度の金メダルを獲得しており、東京オリンピックでは5度目の優勝を目指している。そのチームが男女格差の是正を求め、アメリカサッカー連盟を相手に訴訟を提起した。
原告は女子サッカーアメリカ代表の主力選手で、給与や労働条件だけでなく、試合、宿泊先への移動手段等の改善を求めていた。
しかし、2020年渡航や住居、医療サポート等において性差別があったとする訴えについては審理の続行を認めたものの、論点となっていた賃金については棄却された。
この訴訟を巡って明らかになったのは男女格差、性差別、賃金格差の問題だけではない。FIFAが販売している放映権やイベントの収益についても取り沙汰され、スポーツとエンタテインメントビジネスの関連性が浮き彫りになった。
当然のことながらオリンピック・パラリンピックの規模はさらに大きく、影響もさらに膨らむだろう。
また、1年の延期に伴い、すでにチケットや放映権、選手の権利に関する報道もなされていることから今後、オリンピック・パラリンピックに関する法的問題にはさらに注目が集まるだろう。
新型コロナウイルスのパンデミックはスポーツやエンタテインメント業界に多大な影響を与えた。次回はこのあたりについて報告したい。
（文：ライアン・ゴールドスティン）
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