ここは俺の中学からの友人が住む家である。
彼はこの歳になっても実家暮らしで、両親と一緒に住んでいる。
――そして彼は、俗に言う「ニート」というやつである。
俺がこの家を訪れた理由は一つ。
彼を社会復帰させるためだ。
そのために、わざわざ休日を潰してやってきたのだ。
門を開けて、玄関の呼び鈴を押す。
「はーい」
すぐに彼の母親の声が、スピーカーから発せられた。
「こんにちは、××です。□□くんはご在宅でしょうか?」
ニートなわけだからいるに決まっているが、形式として聞いておく。
「ああ、はい、いますよ。カギは開いていますので、どうぞ」
その言葉に従って、玄関のドアを開ける。
玄関に入ると、すぐに彼の母親が俺を出迎えた。
「いえ、こちらこそ、突然お邪魔してすみません」
俺は中学の頃から、この家を何度も訪れている。
だから、今更向こうも突然の訪問を咎めるようなことはしない。
いや、それ以上に俺がこの家を訪れている理由からいって、俺を拒む理由がない。
俺は、彼女の息子を社会復帰させようとしているのだから。
「□□ー。××くんが、いらっしゃったわよー」
母親が呼びかけるが、返事はない。
「全く、しょうがないわね。せっかく、お友達が頻繁に会いに来てくれているのに」
「まあ、いいですよ。□□くんは、部屋ですね?」
「ええ、よろしくお願いします」
俺は階段を上がり、薄暗い廊下を進んで、とある部屋の前に立つ。
「□□、いるんだろ?」
ノックをしたあとに呼びかけるが、返事はない。
「入るぞ」
中はカーテンが閉められていて薄暗く、食事をした後の食器などが、
乱雑に置かれていて、とても片付いているとは言えなかった。
――いつもであれば。
俺の予想に反して、部屋のカーテンは開けられていて、太陽の光がしっかりと差し込んでいる。
部屋はいつもでは考えられないぐらいに片付けられていて、食器などは一つもない。
そして、さらに俺の予想に反していたのは、目的の人物の様子だった。
いつもであれば、ベッドの上で布団に包まり、俺の侵入を拒むかのように縮こまっていた彼が、
きちんと整えられた服を着て、部屋の中央の椅子に座って、俺を待っていた。
「××か、来ると思っていたよ。まあ、そこに座ってくれ」
そう言うと、□□は入り口のそばにある椅子を指し示し、俺に座るように促した。
この椅子も、いつもは無かったものである。
「あ、ああ。それじゃ……」
言われた通り、その椅子に座る。
④
□□が俺に用件を尋ねる。
わかっているくせに、話題を逸らそうとしているのか?
「決まっているだろ。お前、いつまでこんな生活を続ける気だ?」
俺はいつもの入り方で、言葉を続ける。
「自分だってわかっているんだろ? いつまでもご両親の世話を受けてはいられないって。
いいか? お前は甘えているんだよ、いつまでも子供みたいに甘えているんじゃない!」
そう、心を鬼にして、厳しい言葉をぶつける。これが、こいつのためになるはずだ。
誰かがやらなくちゃいけないんだ、だったら俺がやる。
「きっとお前は、自分が一番辛いと思っているんだろうな。だとしたら違うぞ。
お前より辛い思いをしている人なんて沢山いる。要はお前の努力不足なんだ」
自分の世界に閉じこもっている。
だからこそ、俺がそれをこじ開けないといけない。
「だから、今すぐにでも就活を再開しろ! これ以上、ご両親に迷惑を掛ける気か?
ご両親だって、お前が早く自立することを望んでいるんだぞ!」
□□は、俺の言葉を黙って聞いていた。
何だ? いつもならもっと、耳を押さえて、聞きたくないようなそぶりを見せるのに……
「それが君の『説教』か?」
突然、□□が言葉を発した。
実績がないから誰も相手にしないのにね
報告? 何だ、このタイミングで?
「実はな、バイトをすることになったんだ」
「え!?」
バイト? こいつが?
「そ、そんなこと、お母さんは一言も……」
「当然だろ、言ってないんだから」
言ってない? 何でそんな必要が……
「やはりな」
「えっ?」
「君の反応だよ。僕の予想していた通りだ」
俺の反応? 何だ? 何を言っている?
「僕がバイトを決めたというのに、『おめでとう』の一言もないのかい?」
「え!? ……あ」
そ、そうだ。あまりに予想外のことで忘れていた。
こいつがバイトを始めたんだ。祝わないと。
「そ、そうか。よくやったな! これで一歩前進だな!」
「そうだね、尤も……」
そして、□□は言葉を続ける。
「前進出来なかったのは、君のせいだけど」
こいつとは思えないほどの敵意を含んで、言った。
「なっ!? お前、何を……」
何を言っているんだ? 俺はこいつのためにわざわざ……
「わざわざ、僕のために来てやっている。そんなことを思っているのかい?」
なぜか、心中を見透かされた。何でこいつに見透かされるんだ?
××は最低だな
運びがうまい
××ザマァwwwwww
Source: みじかめっ!なんJ
ニート「それが君の『説教』か?」