Netflixに実装された1.5倍速
気がつくと、Netflixをパソコンで観る際に1.5倍速で観られるようになっていた。セリフは早口になるが、ちゃんと聞き取れる。字幕も出る。筆者のブラウザはSafariだが、少なくとも1年前、日本のNetflixにこの機能はなかった。
調べると、Netflixは2019年10月より、モバイルとタブレット端末を対象として試験的に再生速度調整機能を導入していた。その後順次導入が進み、現在では、パソコン及びAndroid、iOSデバイスでの再生時に、再生速度を0.5倍、0.75倍、1倍(標準)、1.25倍、1.5倍に変更できる。
再生画面には他に、「10秒送り」「10秒戻し」ボタンがある。クリックもしくはタップすれば、一瞬で10秒後・10秒前に飛ぶ。TVモニタでの視聴時に倍速視聴はできないが、リモコンの右を押せば10秒飛ばし、左を押せば10秒戻しが可能。なお、Amazonプライム・ビデオにも同じ機能がある。
聞き取れなかったセリフをもう一度聞くために「10秒戻し」があるのは、わかる。しかし初見の映像作品を「10秒飛ばし」で観るとは、そして1.5倍速で観るとは、一体どういうことなのか。
映画やドラマを早送りする人々
「AERA」2021年1月18日号には、ある種の人々にとって“我慢ならない”記事が載っていた。タイトルは「『鬼滅』ブームの裏で進む倍速・ながら見・短尺化 長編ヒットの条件とは」。そこには、映画を通常の速度では見られなくなったという男性(37歳)の、「倍速にして、会話がないシーンや風景描写は飛ばしています。自分にとって映画はその瞬間の娯楽にすぎないんです」という声が紹介されていた。
同記事中、別の女性(48歳)は、Netflixの韓国ドラマ『愛の不時着』を「主人公に関する展開以外は興味がないので、それ以外のシーンは早送りしながら」見たそうだ。
この記事に怒り、嘆き、反発した人は多かった。正直、筆者も胸がざわついた。
10秒間の沈黙シーンには、10秒間の沈黙という演出意図がある。そこで生じる気まずさ、緊張感、俳優の考えあぐねた表情。それら全部が、作り手の意図するものだ。それは9秒でも11秒でもなく、10秒でなければならない必然性がある(と信じたい)。
それを「飛ばす」「倍速で観る」だなんて。たとえるなら、『第九』や『天城越え』や『マリーゴールド』を、倍速で聴いたり、サビ以外を飛ばして聴くようなものだ。そんな聴き方で叙情や滋味を堪能できるのだろうか。あえて感情的に言うなら、それはアーティストへの冒涜ではないのか。
しかし、本編すべてを1.5倍速で視聴したり、会話がなかったり動きが少なかったりするシーンを頻繁な10秒飛ばしを駆使して視聴する人は、それほど珍しくない。理由は「まだるっこしいから」。若者から中年層まで、筆者の周りにもいる。
なぜ、こんなことになっているのか。そこには、大きく3つの背景があると考える。