福島甲状腺検査の継続に「待った」の声。検討委員会で複数の医師らが指摘、「子どもたちに誇れる議論を」

有識者などで構成される福島県「県民健康調査」検討委員会が11月12日、福島市で開かれ、東京電力福島第一原発事故後の2011年10月から始まった福島甲状腺検査について意見が交わされた。

検討委員会では、福島県立医大側から7巡目検査の実施計画案が示されたが、複数の委員が「検査を一度止めるべき」「次に進む前にこれまでやってきたことの総括は必要」と、検査継続に「待った」をかけた。

福島甲状腺検査を巡っては、放置しても生涯にわたって何の害も出さない病気を見つけてしまう「過剰診断」の被害を生んでいるという指摘がある。

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「7巡目検査は中止すべきではないか 」

今回で53回目となった検討委員会。冒頭、県から甲状腺検査を委託されている福島県立医大の担当者が、5、6巡目検査の実施状況を報告した。

その後、7巡目検査の実施計画案に移り、25年〜26年度に実施することや、中学2年〜高校3年は学校で検査を受けられることなどを説明した。

これを受け、室月淳委員(宮城県立こども病院・産科科長)は「学校検査は子どもや保護者が参加を義務的だと捉えがちになる」と指摘。

検査にデメリットがあることを十分知らない子どもや保護者がいることを踏まえ「学校検査はしてはならない。便利だからするというのは論外で、今回(第7回)は中止し、それ以外の代替手段を考えるのはいかがか」と要望した。

室月委員の指摘に対し、県県民健康調査課の担当者は「学校検査はあくまでも任意。甲状腺検査のお知らせを送付し、メリットのみならずデメリットも知らせており、学校以外でも検査を受けられることも伝えている」と回答した。

この学校検査については、中山富雄委員(国立がん研究センター)も「前から気になっていた」と加わり、「(生徒たちは)集団意識で『みんな受けるから』と検査を受けることもあり、『任意性は担保されている』という意見が本当に正しいかどうかは専門家にも聞いていくべき」と語った。

「考えるべきは子どもや若い人たちのこと」

室月委員はさらに、「今回の検討委員会の議題が7巡目の甲状腺検査についての承認を求めることであれば反対する」と表明した。

検査で見つかっている甲状腺がんと原発事故との因果関係は国際機関なども認められないとしており、室月委員は「過剰診断がかなりの割合で予想されるのであればこれ以上検査を実施すべきではない」「百歩譲ったとしても時間を置いて十分に検討する、振り返って議論するということが必要」と語った。

また、「組織や利害で捉えることなく、 むしろ考えるべきは甲状腺検査を受けている子どもや若い人たちのこと。10年後、20年後でも我々はきちんと考えて結論を出したと誇れるような議論と、委員会としての結論を出すことを願っている」と言及した。

しかし、県県民健康調査課の担当者は「アンケート調査で放射線への不安がある県民が多く、その不安に答えていかなければならない。デメリットも丁寧に周知を図りながら対応していきたい」と回答するにとどめた。

【画像】体や心の負担、保険やローンで不利な取り扱い……。考えられる過剰診断の不利益

県や福島医大がメリットとして挙げているものは「根拠がない」と指摘する専門家もいる。

実際、県の冊子「甲状腺検査のメリット・デメリット」には、「過剰診断」という4文字さえ使われておらず、体や心の負担のほか、生命保険やローン契約の不利な取り扱い、就職や職場生活、結婚などで起こり得る過剰診断の不利益については一切触れられていない。

冊子には「早期診断・早期治療により、手術合併症リスクや治療に伴う副作用リスク、再発のリスクを低減する可能性がある」とあるが、スクリーニングが予後を改善したり、再発を減らしたりすることは証明されていない。

「甲状腺検査の解析により放射線影響の有無に関する情報を本人、家族はもとより県民および県外の皆様にもお伝えすることができる」ともあるが、これは疫学的なメリットであり、個人のメリットではない。 

甲状腺超音波検査のリハーサル(福島県立医大、2011年10月8日)

「反対の声は受け付けないのか」

委員からの発言は続き、熊谷敦史委員(量子科学技術研究開発機構)は「次に進む前にこれまでやったことの総括が必要」「学校検査の任意性についても専門家の意見を聞きたい」などと語った。

一方、高村昇委員(長崎大学原爆後障害医療研究所)は「県民の健康を守ることが大きな目的であるため、アンケート調査の詳細な解析、報告をきちんと公開し、議論を続けることは重要。ただ一定の人が検査を受けたいと思っていることは受け止めなければならない」と述べた。

検討委員会の重富秀一座長(双葉郡医師会)も「原発事故に遭遇した福島県民の心を考えれば甲状腺検査をここで中止するという選択はないとは思う」と発言。

「改めて7回目の実施計画はこれで進めていただきたいと思うが」と結論を出そうとしたが、中山委員が「(検査を)評価するタイミングは金輪際こないのか。生涯継続するということを言っているのか」と反論した。

県県民健康調査課の担当者は「検査が始まった当初は30年(続ける)と言われていたが、今後どうするかはまだ議論になっていない」と説明し、重富座長も「30年続けると考えれば(検査開始から)13、14年なので今辞める選択肢はないということ」と語ったが、中山委員は「以前から(検査を)辞めるべきだという意見もあったが、反対の声は受け付けない委員会なのか」と意見した。

その後も「1回(検査を)休むというのは十分ありうる選択」「立ち止まって総括すべきだという発言は心に残っている」という意見が上がったが、重富座長は「放射線の影響はない、こんなのは必要ないと言われても『本当にそうなのか』と思っている人もいるので、人の心を大事にしないといけない」と返した。

「他県の人が勝手にやめてもいいとは…」

委員からは甲状腺検査の継続に賛成の声も上がった。

今井常夫委員(国立病院機構 東名古屋病院)は、「アンケート調査でも検査を続けてほしいという意見が圧倒的。他県の人が勝手にやめてもいいとは言えない」と述べ、高村委員は「県民の見守りという側面が大きいのでその点も考えていかなければならない」と語った。

また、日本甲状腺学会推薦の菅原明委員(東北大学)は、「過剰に手術はしていない。何もしないで甲状腺がんが見つかったら『スクリーニングしないからこうなった』と必ず言われる。今の段階で半分の人しか検査に参加してない。ここでやめたら『なんでやめたんだ』と県民から言われる」とし、「とりあえず今は進めてデータを蓄積するのがいいのでは」と述べた。

一方、検査を受ける人が対象者の半分程度にとどまっていることから「強制的に検査を受けさせられていると言えるのか」という声に対し、室月委員は次のように述べた。

「強制というのは数字ではない。検査をすれば不安は解消するのか。まず話を聞くことから始めるべきなのに、一般検診のように受けた子どもたちが『精密検査が必要』と言われた時のショックはいかほどか。将来、結婚や就職、保険の契約でどれぐらいの影響を受けるのか。そういうことが非常に大きな問題」

「検査の受診率も当初は90%以上だった。学校を卒業すれば受診率が下がるのもおかしいので、学校検査はやめて任意で受けようと言っている。その受け方もカウンセリングを中心とし、地道に県民の不安に答えていく。それが本来の利用のあり方ではないか」

中山委員も「強制という言葉は強すぎるが、学校という狭いコミュニティーでプレッシャーを受けやすいというのを大人は理解しなければならない」と発言した。

だが、検討会の終盤、重富座長は「あなたの意思で受けなさいよ、ということでやっていただく。それでよろしいでしょうか、お認めいただけますか。お認めいただいたということでこの委員会とすればそういうことにしたいと思う」と議論を終わらせた。

東京電力福島第一原発事故後に始まった福島県「県民健康調査」甲状腺検査は、10月で開始から13年となった。

事故当時18歳以下だった県民ら約38万人を対象に実施されており、6月末現在で345人が甲状腺がんやがんの疑いと診断され、285人が手術を受けている(うち1人は良性結節)。

100万人に数人という割合で見つかる小児の甲状腺がんだが、福島で多く見つかっている理由は「放射線被ばくの結果ではない」というのが世界的なコンセンサスだ。

「むしろ高感度の超音波検査の結果」であり、放置しても生涯にわたって何の害も出さない病気を見つけてしまう「過剰診断」の被害を生んでいると指摘する専門家も多い。

しかし、福島県や検査を実施する福島県立医科大学は公式に過剰診断の被害を認めていない。認めていないだけでなく、検査のデメリットを十分周知せず、過剰診断という4文字でさえ公にしていない。

予算、研究業績、名誉……。約1000億円という莫大な予算が配分されて始まった県民健康調査の裏には、どのような思惑が渦巻いているのか。

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Keita Aimoto