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年々、朝食の存在が一日の中でとても大きなものになってゆく。
朝にしっかり食べて、昼は普通に、夜は少なめに食べる、というのがいつの間にか自分にとってベストの流れになっていた。夜の炭水化物を少なめにして、「もうちょっと食べたいな」ぐらいで床に入るとよく眠れて、朝にもりもりと食欲が湧いてくるのがいい。
空腹感を抱えつつ寝るなんて、若い頃には出来なかった。それが今では「明日は何を食べようか。カロリーやら気にせずなんでも食べられるとしたら何を食べたいか……」なんて考えていると楽しくなって、いい気分のまま眠れてしまう。
朝食の形も千差万別で面白い。決まったものしか食べない人もあれば、その日の気分であれこれ変える人もある。
私は後者で、基本的にはごはんに味噌汁党だが、「きょうは絶対パンに紅茶だ!」という日もあれば、おかゆや茶漬けにする日もあり、いきなり朝カレーなんてときもある。
朝に限らず食においては「そのときの気分に従う」のが私は最高に楽しいのだけれど、人によっては「考えるのが面倒、毎日同じがラクで最高」という人もいる。そして「朝食は作らずに食べに行く」、という人も。
旅をすると、「このあたりはモーニングをやってる喫茶店が多いな」と感じるエリアがたまにある。名古屋が有名だけれど、大阪や京都の一部にも多い。
いかにも「おなじみさん」な感じの人が、コーヒー片手にゆったり過ごされているのを見かけると、なんだかうらやましいような気持ちになる。私がこれまで住んだ地域にモーニング文化は皆無で、朝から喫茶店なんて非日常的で、とても優雅なことに思えてしまうのだ。
高知を旅したとき、素晴らしいモーニングを体験することができた。地元の食いしん坊が熱く推してくれたその店は、高知市内の繁華街・帯屋町にある『ラ・メール』という喫茶店。50年以上も続く歴史のあるお店でいただいたのは、マスカルポーネチーズとピンクグレープフルーツがのったトーストで、これが実においしい組み合わせだった……!
グレープフルーツの酸味と甘みをチーズがやさしく受け止め、コクはあるのにさっぱりとする。メイン感もありつつデザートっぽくもある。暑い時期にうかがったが、夏の朝食として素晴らしいものだった。
帰宅して真似してみたのだが、ピンクグレープフルーツとマスカルポーネの量の兼ね合いがなかなかむずかしい。どっちが多すぎても、少なくても『ラ・メール』で味わったようなおいしさに至らない。双方の量とトーストの厚さ、三者のバランスあればこその美味。
ちなみにメニュー名を「イタリア」という。このメニューを考えた数十年前はまだマスカルポーネが知られておらず、「イタリアチーズマスカルポーネ」という名前だったのが、次第に略されたとのこと。
『ラ・メール』は店内の雰囲気もよく、グラスやコースター、壁飾りなどの選び方にもセンスが存分に感じられる。カウンターには長年この店を愛してきたのだろうな、といった風情のお客さんがくつろぎの表情で陣取って、なんとも素敵な空気が流れていた。再訪したいと強く思う店のひとつである。
旅の朝食は忘れがたいものが多々ある。中でも『城山ホテル 鹿児島』のビュッフェには胸が躍った。広々としたビュッフェ会場に入れば、窓の向こうに桜島が見える。なんという眺めの良さだろう……としばし見惚れた。ビュッフェのメニューは和洋を中心に幅広く、郷土料理も豊富。さつま揚げは目の前で揚げてくれるのもうれしい。
鹿児島近海でとれる鯛を使った鯛茶漬けが心に残る。鯛のあらと昆布でひかれた出汁のうまいこと、うまいこと。ひとすすりするたび、起き抜けの胃がじんわりと温まり、深いうま味が広がっていく。ゆっくり、大事に味わおうという気に自然となる。そんな一品だった。おかわりしている人もたくさんいたが、どうか甘いものを入れる余裕を残しておいてほしい。
「お茶漬けの後に?」なんて思わず、試してほしいのが自家製のパンとジャム。私は「たんかん」という鹿児島名物の柑橘で作られたジャムが忘れられない。甘さがすっきりとしつつ酸味と苦みが鮮やかで、なんとも素敵なマーマレードだった。常時あるものではないようだが、ジャムは数種類あり、食べ比べも楽しい。
ちなみにこちらのホテル、桜島を眺められる露天風呂も素晴らしいので、お泊りの際には朝風呂もぜひ。
うちの朝食からも一品ご紹介したい。
まず、たて長に大きく切った海苔の上にごはんを広げる。ただ炒っただけの玉子をのせて、醤油で和えたおかかをのせ、刻んだねぎを最後にのっける。これをふたつにたためばもう完成だ。ちょっと前に「おにぎらず」というのが流行ったけれど、あれより簡単に作れて食べやすいのがいい。
海苔にごはんを敷いてたたむスタイルは弁当家の野上優佳子さんがSNSで紹介されていて、こりゃ便利だと真似させてもらった。具は自由だが、私はこの「炒り玉子+おかか+ねぎ」のトリオが妙に好きで、何度も作っている。小さい頃よく食べたわけでもないのに、懐かしいおいしさがあるのだ。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
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