部屋にうずくまりスマホに書き込んだSOS。子どもの自殺を防ぐため、学校支給の端末から「生きるための情報」を

 「子どもたちの『生きる』を支えたい」

そんな思いで7月、オンラインで子どもの自殺を防止する、ブラウザ拡張機能「SOSフィルター」がローンチされる。

学校で1人1台支給されているタブレット端末にSOSフィルターを導入すると、子どもが自殺関連用語などを検索した時、相談先やセルフケアの情報をまとめたポップアップが表示される。

SOSフィルターは、高校時代に悩みを抱え、「死ぬことが頭をよぎる際にはスマートフォンに助けを求めていた」という開発者の経験を元に作られた。苦しかった時に、「自分に必要だったもの」を具体化したサービスだという。

10年にわたり自殺防止活動に取り組むNPO法人「OVA」を取材した。

自殺関連用語などを検索すると画面に表示される、SOSフィルターのポップアップ

スマホに書き込んだ「助けて」。その経験を乗り越えて考案した「SOSフィルター」

OVAは、検索エンジンで自殺関連用語を調べる自殺リスクの高い人たちに対し、検索連動広告を通じてアウトリーチとインターネット相談を実施しているNPOだ。

各地の40以上の自治体で検索連動広告を活用した自殺対策事業を展開している。

OVAのアウトリーチ部で働く立川花帆さんが、SOSフィルターの元となる案を発案したのは、高校生の時だった。

社会課題への対策について取り組む部活動の一環で、オンラインでの子どもの自殺対策ができないかと考えた。

当時考案したのは、悩みに関するワードを検索すると、AIチャットボットが表示され、相談窓口などを教えてくれるというものだ。

当時、対策案を考えている際にOVAに連絡を取り、代表の伊藤次郎さんにヒアリングをしていた。

その後、デザインを学んでいた専門学生時代にOVAで働くことになり、そのアイディアをブラウザ拡張機能として実現することになったのだ。 

自殺関連用語などを検索すると画面に表示される、SOSフィルターのポップアップ

立川さんは、自分が学生時代に苦しんだ経験を振り返り、こう話す。

「私自身、高校生の時に悩みを抱えていた時期は、部屋で1人で引きこもって、うずくまり、スマホに『助けて。苦しい』と書き込むような生活を送っていました。 周りの人に『助けて』と言えず、スマホに助けを求めたり、自殺について考えたり、調べたりしていました」

「その時の私には何が必要だったか、どんなものがあったら心が救われていたのかと考えた時に、SOSフィルターの原案を思いつきました。助けてと言えない子は今も世の中にはたくさんいると思います。そういった子どもたちの苦しみに寄り添えるようなものを作りたいと考えました」

OVAのアウトリーチ部で働く立川花帆さん

今春からはOVAで正社員として働き、SOSフィルターのローンチに向けて、仲間と共に奔走してきた。

現在は、政府のGIGAスクール構想のもと、端末が小中学校などで1人1台整備されている。SOSフィルターは、その端末に入っている検索エンジン「Google Chrome」と「Microsoft edge」に対応する拡張機能で、子どもの自殺防止に取り組む。

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過去最多水準の子どもの自殺。増加傾向に

2023年に自ら命を絶った小中高生は513人で、過去最多の水準だった。2014年の子どもの自殺数は278人で、子どもの自殺は近年増加傾向にある。

政府も子どもの自殺対策に力を入れており、対策案の中には、1人1台端末を利用し、児童生徒の心身の変化を把握し、自殺防止に繋げる取り組みもある。

SOSフィルターは、Google ChromeかMicrosoft edgeを利用する端末であれば、教育委員会などが管轄の学校の全児童生徒の端末に無償でインストールすることができる。

個人が特定できる情報は収集せず、誰が検索したかなどの通知が、学校や管理者に届くことはない。

これまでにも、SOSフィルターと類似するサービスはあったが、子どもが自殺関連用語を検索すると画面が真っ黒になったり、検索結果が表示されなかったりするなど、制限・監視的な対応が取られる。

SOSフィルターでは、子どもたちが苦しい気持ちを抱えて検索した時、シャットダウンするのではなく、相談窓口やセルフケアの方法を伝えるなど、解決の糸口となる情報を表示する。

検索した際にいきなりポップアップが表示されると、子どもがびっくりすることも考え、あたたかい色味や、やさしいタッチのイラストが添えられている。

自殺関連用語などを検索すると画面に表示される、SOSフィルターのポップアップ

OVAは昨年11月〜今年3月末、私立の中学校・高等学校でSOSフィルターのβ版試験導入を行った。

生徒数981人を対象に同校で配布されている端末にSOSフィルターをインストールし、自殺関連用語935個を登録した。

試験導入の結果、5カ月間でSOSフィルターは134回表示され、月平均で27回だった。

OVA代表理事の伊藤次郎さんは、子どもたちに必要なのは「死ぬための情報ではなく、生きるための情報に繋げること」と話す。

OVA代表理事の伊藤次郎さん

β版では、自殺関連用語のみのワード登録だったが、本ローンチでは、虐待やいじめ、性暴力被害、自傷、精神疾患などの関連ワードも登録し、それぞれの悩みに対応する相談先などを表示する。

ポップアップの内容は、虐待や性暴力被害など、それぞれのエリアの専門家の助言を得て作成された。

1年半の企画・開発期間を経て、OVAは7月中旬にSOSフィルターをローンチし、全国の教育機関が無償でダウンロードできるようになる。

OVAはローンチに向けて6月30日まで、クラウドファンディングを行なっている。

<取材・文=冨田すみれ子>

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Sumireko Tomita